「今月から、急に請求が増えたんですけど……」
ご家族から、こう聞かれることがあります。
サービスの内容は、先月とそれほど変わっていない。なのに、金額だけが大きく跳ねている。
たいていの場合、原因はひとつです。介護保険の「限度額」を超えています。
この記事では、なぜ急に増えるのかと、超える前にできることをお話しします。
この記事の結論
- 介護サービスには要介護度ごとの月の上限額があり、超えた分は全額自己負担になります
- 1割負担の人が超えると、その部分だけ負担が10倍になります
- しかも超過分は「高額介護サービス費」で戻ってきません。ここが一番の落とし穴です
- 住宅改修の20万円と福祉用具の購入費は、限度額とは別枠です
- 超えそうかどうかは、ケアマネジャーが事前に分かります。聞かないと言われないことがあります
何が起きているのか——順番で見る
① 要介護度ごとに、1か月の上限額が決まっている
↓
② その範囲内なら、負担は1割(人によって2割・3割)
↓
③ 上限を超えた分は、10割 = 全額自己負担
↓
④ しかも、超過分は「高額介護サービス費」の対象外
↓
請求書だけが、急に増える
サービスを1つ足しただけで、金額が跳ねることがあります。
上限額は、こう決まっています
1か月あたりの上限(居宅サービス)です。
| 要介護度 | 1か月の上限額 |
|---|---|
| 要支援1 | 50,320円 |
| 要支援2 | 105,310円 |
| 要介護1 | 167,650円 |
| 要介護2 | 197,050円 |
| 要介護3 | 270,480円 |
| 要介護4 | 309,380円 |
| 要介護5 | 362,170円 |
この金額は「サービスの値段の合計」です。支払う額ではありません。
要介護2の方なら、197,050円分まで使えて、支払いはその1割(約19,700円)——という意味です。
自分が1割か2割かは「負担割合証」で分かります。見方は「負担割合証が2割になっていた」に書きました。
超えると、どうなるか
要介護2の方が、22万円分のサービスを使った場合。
197,050円まで → 1割 = 約19,700円
超えた 22,950円 → 10割 = 22,950円
↓
合計 約42,650円(前月の2倍以上)
使った量は1割ちょっと増えただけなのに、支払いは倍以上になります。
一番の落とし穴——戻ってきません
介護保険には「高額介護サービス費」という仕組みがあります。
医療の「高額療養費」の、介護版だと思ってください。
1か月に払った自己負担が上限を超えたら、超えた分があとから戻ってくる仕組みです。
上限は、世帯の収入で決まります。
| 世帯 | 1か月の上限 |
|---|---|
| 住民税を払っている一般的な世帯 | 44,400円 |
| 住民税がかからない世帯 | 24,600円 |
| うち年金収入などが80万円以下の方 | 24,600円(世帯)/15,000円(個人) |
申請は最初の1回だけで、以降は自動で口座に振り込まれます。
「じゃあ44,400円を超えた分は戻ってくるのでは?」と思いますよね。
戻ってきません。
理由は、こうです。
- 限度額の中で使った分
- → 介護保険の給付の対象
- → その1〜3割が「自己負担」
- → 高額介護サービス費の対象になる
- 限度額を超えて使った分
- → そもそも介護保険の対象ではない
- → 「自己負担」ですらなく、ただの自費
- → だから、この仕組みが届かない
保険の外に出た支払いには、保険の救済も届きません。
意地悪でそうなっているのではなく、制度の作りがそうなっています。
これは、多くの市区町村が同じ説明をしています。
つまり「限度額を超える」ことは、制度のどこにも救いがない状態なのです。
ここを知らないまま「あとで戻ってくるはず」と思っている方が、実際におられます。
でも、ここが希望です
限度額に「入らない」ものがあります。
| 限度額に入るか | |
|---|---|
| 訪問介護・デイサービス・訪問リハ | 入る |
| ショートステイ・福祉用具レンタル | 入る |
| 住宅改修費(20万円) | 入らない(別枠) |
| 特定福祉用具の購入費 | 入らない(別枠) |
| 居宅療養管理指導(医師・薬剤師の訪問指導) | 入らない |
ここが、とても大事です。
手すりを1本増やしたい——住宅改修は限度額とは別枠なので、毎月のサービス量を減らさずに家を安全にできます。
家を直すことは、限度額を圧迫しません。
20万円の枠の使い方は「介護保険の住宅改修費20万円」に、工事と道具の使い分けは「工事にするか、道具で済ませるか」にまとめています。
借りるか、買うか——選べる道具があります
福祉用具の「レンタル」は限度額に入ります。 でも「購入」は別枠です。
ただし、どの道具でも買えるわけではありません。
| 車椅子・介護ベッド | レンタルのみ(限度額に入る) |
| スロープ・歩行器・歩行補助つえ | レンタルか購入か選べる |
この「選べる」は、2024年4月から始まった仕組みです。
以前はレンタルしかできなかった3種目が、購入も選べるようになりました。
長く使うことが、はっきりしている
↓
購入にする(別枠・年10万円)
↓
毎月の限度額の枠が空く
限度額がぎりぎりのときは、「これは購入も選べますか」と聞いてみてください。
福祉用具の考え方は「介護ベッドが借りられない——軽度者の例外給付」に書きました。
ただし、事前に決まります
限度額を超えるかどうかは、ケアプランを作った時点で決まっています。
月のはじめ → ケアプランでサービスの量が決まる
↓
この時点で、超えるかどうかは計算できる
↓
月末 → 請求書で気づく(遅い)
請求書を見てからでは、その月はもう変えられません。
だから、増やす前に聞いてください。
「これを足すと、限度額を超えますか?」
この一言だけで、ケアマネジャーはその場で計算してくれます。
現場から——なぜ、気づかれないのか
誰も、隠しているわけではありません。
ケアマネジャーは、たいてい説明しています。ただ、説明のタイミングが「サービスを増やすとき」なのです。
サービスを増やす日、家族は「これで親が楽になる」で頭がいっぱいです。金額の話は、耳に入りにくい。
私が現場で見てきたのは、説明されていないのではなく、そのとき聞ける状態ではなかった、という場面です。
とくに、退院直後・状態が急に落ちたとき——家族がいちばん余裕を失っているタイミングで、サービスが一気に増えます。
だからこそ、落ち着いてからでいいので、一度確認してください。
ケアマネジャーへの伝え方は「ケアマネさんに何を伝えればいいか」にまとめています。
超える前にやっておきたい3つのこと
① いまの利用額が上限の何割か、聞く
ケアプランに書いてあります。
「いま、限度額の何割くらい使っていますか?」
8割を超えていたら、増やすときは要注意です。
② 区分変更を検討する
体の状態が落ちて、サービスが足りなくなっているなら——要介護度そのものを見直せます。
要介護2(197,050円) → 要介護3(270,480円)
↓
上限が約7万円増える
区分変更の申請は、更新を待たずいつでもできます。
どんなときに区分変更を考えるかは「区分変更はいつ出すか」にまとめました。
③ 家のほうを見直す
これが、いちばん見落とされます。
| 段差を放置する | 段差をなくす(住宅改修=別枠) |
|---|---|
| 移動に介助が要る | 自分でできることが増える |
| 訪問介護の回数が増える | 毎月のサービス量が減る |
| 限度額を圧迫する | 限度額に余裕ができる |
家を直すことは、毎月の介護費を下げる手段でもあります。
ただし、直しても限界がある家もあります。その見分け方は「手すりで住み続けるか、住み替えるか」に書きました。
この記事のまとめ
- 介護サービスには要介護度ごとの月の上限額がある(要介護2で197,050円)
- 超えた分は全額自己負担。1割負担の人は、その部分だけ10倍になる
- 超過分は「高額介護サービス費」で戻ってこない。保険の外に出た支払いには、保険の救済も届かない
- 住宅改修の20万円・福祉用具の購入費・居宅療養管理指導は、限度額とは別枠
- 福祉用具はレンタルだと限度額に入る。スロープ・歩行器・杖は2024年4月から購入も選べる(購入は別枠)
- 超えるかどうかはケアプランの時点で決まっている。請求書で気づくのは遅い
- 「これを足すと限度額を超えますか?」——この一言を、増やす前に
- 家を直すことは、毎月のサービス量を減らす手段にもなる
制度の内容や助成は、お住まいの市区町村によって異なります。ケアマネジャーまたは市区町村の窓口でご確認ください。
親の家をどうするかの全体像は「「親の家、どうする?」完全ガイド」にまとめています。
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