「手すりをつければ、まだ住めますか?」
この質問には、正直に答えるのが難しいときがあります。
手すりで住み続けられる家と、手すりをつけても、そう長くは住めない家があるからです。
そして——その違いは、家を見れば分かります。
この記事では、直して住み続けられる家と、そうでない家の分かれ目をお話しします。売却をすすめる記事ではありません。判断の材料をお渡しするだけです。
この記事の結論
- 分かれ目は「1階だけで生活が完結するか」。ここがほぼすべてです
- 改修で解決できるのは「点」の問題。「間取り」は直せません
- 20万円で足りる家と、足りない家がある。見積もりを取れば分かります
- 判断を先送りするほど、選べる道が減ります
- 住み替えを考えるなら、決める前に相場だけ知っておく
分かれ目は「1階だけで暮らせるか」
私が家を見るとき、最初に確認するのはここです。
玄関 → トイレ → 風呂 → 寝る場所 → 食べる場所
↓
これが全部1階にあるか?
そろっていれば、たいていの家は改修で住み続けられます。
どれか1つでも2階にあると、話が変わります。
なぜ、そこまで大事なのか
階段は、手すりでは解決しないことがあるからです。
手すりをつければ、多くの方は階段を上れるようになります。でも——
「上れる」 ≠ 「毎日、何度も、安全に上れる」
朝と夜だけならできても、体調の悪い日は無理です。そして、無理をした日に転びます。
転倒は、階段が一番怖いです。平地で転ぶのとは、けがの重さがまったく違います。
寝室を1階に移せるなら、話は変わります
「2階に寝室がある」だけなら、1階の和室などに移せば解決することがあります。
問題は、移す部屋がない場合です。
1階が 台所+居間だけ
↓
寝る場所を作れない
↓
ここが、大きな分かれ目
改修で直せるもの・直せないもの
ここを混同すると、判断を間違えます。
| 改修で | ||
|---|---|---|
| 段差 | ⭕ 直せる | スロープ・床のかさ上げ |
| 手すりがない | ⭕ 直せる | 取り付け・置き型 |
| 滑る床 | ⭕ 直せる | 床材の変更 |
| 扉が重い | ⭕ 直せる | 引き戸に交換 |
| 廊下が狭い | 難しい | 壁を壊す工事になる |
| トイレが2階にしかない | 難しい | 1階に増設は大工事 |
| 風呂が狭くて介助できない | 難しい | 位置を変えられない |
| 家全体が寒い | 難しい | 断熱は大がかり |
上の4つは「点」の問題。下の4つは「間取り」の問題です。
介護保険の20万円で直せるのは、上の4つだけです。下の4つは、そもそも介護保険の対象外です。
改修でできることの範囲は「介護保険の住宅改修費20万円」に、工事と道具の使い分けは「工事にするか、道具で済ませるか」にまとめています。
現場で見てきた「直して正解だった家」
共通しているのは、この3つです。
- 1階で生活が完結する
- 廊下と扉の幅に、少し余裕がある
- ご本人が「この家にいたい」と思っている
③を軽く見ないでください。
住み慣れた家は、体が覚えています。暗くてもトイレに行けるのは、何十年も同じ動きをしてきたからです。
新しい家に移ると、その記憶がゼロになります。環境が変わって混乱される方も、実際におられます。
「新しくてきれいな家のほうが安全」とは限らないのです。
逆に、限界が来やすい家
こちらも3つあります。
- 2階に寝室やトイレがあり、1階に移せない
- 廊下や扉が狭く、将来 車椅子が通らない
- 直しても、1〜2年で次の改修が要りそう
とくに③が難しい
進行していく病気の場合、1回の改修では終わりません。
今年 手すり
翌年 段差解消
その次 風呂の改修
↓
20万円は、すぐ使い切ります
介護保険の住宅改修は、一生で20万円が原則です(要介護度が3段階上がったときと、引っ越したときはリセットされます)。
「まだ使える枠」がいくら残っているかは、早めに確認しておいてください。
住み替えを考えるなら、いつか
ここが、いちばんお伝えしたいところです。
判断を先送りするほど、選べる道が減ります
なぜか
① 本人が決められなくなる
判断する力が落ちてからでは、家を売ることも、契約することもできなくなります。認知症と診断されると、実家が「凍結」します。
② 引っ越しに耐える体力が要る
引っ越しは、想像以上に体にこたえます。元気なうちのほうが、はるかに楽です。
③ 家が古くなる
空き家の期間が長いほど、傷みます。売るときの値段も下がります。
だから「決める」前に「知る」
売ると決める必要はありません。
でも、いくらで売れる家なのかは、知っておいてください。
| 2,000万円で売れる家 | 住み替えという道が現実に見える |
| 500万円の家 | 直して住み続けるほうが現実的 |
金額を知らないまま「住み替えは無理」と決めている方が、とても多いです。
直しても限界がある、と感じたら——まず今の家がいくらで売れるかを知っておくと、住み替えの計画が現実的になります。査定は無料で、売ると決めていなくても頼めます。
相場を調べるだけなら、売る義務はありません。調べ方と注意点は「実家の査定を取る前に確認したい5つのこと」にまとめました。「使わない方がいい人」についても正直に書いています。
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売る時期そのものの損得は「親の家を売るタイミング」をどうぞ。
もうひとつ、時期で変わるもの——税金
ここも「先送りするほど選べる道が減る」話です。
家を売って利益が出ると、税金がかかります。その税金を大きく減らせる制度が「3,000万円の特別控除」です。
ただし、親が生きているか亡くなっているかで、別の制度になります。
| 親が生きているうちに売る | 亡くなってから売る | |
|---|---|---|
| 使う制度 | マイホームの3,000万円控除 | 空き家の3,000万円控除 |
| 誰が使うか | 親本人 | 相続した人 |
| 建てた時期 | 問わない | 1981年5月末より前の家だけ |
| 期限 | 住まなくなって3年目の年末まで | 相続から3年目の年末まで |
| 工事 | 不要 | 耐震改修か取り壊しが要る |
空き家のほうは、条件がかなり厳しいのが分かると思います。
そして、いちばんの落とし穴
「売れるまでの間だけ、貸しておこう」
↓
一度でも人に貸すと、空き家の3,000万円控除は使えなくなる
よかれと思ってやったことで、数百万円の権利が消えることがあります。
税金のために売り急いでください、という話ではありません。
ただ「時期によって、選べる道が変わる」ことだけは知っておいてください。
制度の中身は「実家を売って住み替えるなら知っておきたい買換え特例」と「空き家の3,000万円特別控除」にまとめています。
私が、すぐには売却をすすめない理由
ここは、はっきり書いておきます。
私は不動産を扱う立場でもありますが、訪問リハビリで見てきたのは「家を離れて、元気をなくした方」でもあります。
住み慣れた家を出る
↓
近所づきあいがなくなる
通っていた店に行けなくなる
体を動かす機会が減る
↓
結果として、体が弱る
家は「箱」ではなく、生活そのものです。
だから、直せる家なら直したほうがいいと思っています。ただし「直しても限界がある家」を、直し続けるのは違います。
迷ったら、専門職に家を見てもらう
家族だけで判断しないでください。
理学療法士・作業療法士に家を見てもらうと、「この家で、この人が暮らせるか」が分かります。
| 訪問リハビリを使っている | 追加費用なしで相談できます |
| 退院前 | 家屋調査という形で見に来てもらえます |
何を見ているかは「退院前の家屋調査で、PTが見ているところ」に書きました。
ケアマネジャーに「一度、家を見てもらえませんか」と言うだけで動きます。
この記事のまとめ
- 分かれ目は「1階だけで生活が完結するか」
- 改修で直せるのは「点」(段差・手すり・床・扉)だけ
- 廊下の幅・トイレの位置・風呂の広さ・寒さは、間取りの問題で直せない
- 直して正解の家:1階完結/幅に余裕/本人がこの家にいたい
- 限界が来やすい家:1階に移せない/狭い/1〜2年で次の改修が要る
- 判断を先送りするほど、選べる道が減る(本人の判断力・体力・家の傷み)
- 売ると決める前に、いくらの家かだけ知っておく
- 税金の3,000万円控除も、生前と相続後では別の制度。貸すと使えなくなるものがある
- 家を離れて元気をなくす方もいる。直せる家なら、直したほうがいい
- 迷ったら、PT・OTに家を見てもらう
制度の内容や助成は、お住まいの市区町村によって異なります。ケアマネジャーまたは市区町村の窓口でご確認ください。
親の家をどうするかの全体像は「「親の家、どうする?」完全ガイド」に、家のどこが危ないかは「転倒しやすい家の特徴5つ」にまとめています。





