「階段には手すりがあるから大丈夫」
家族からよく聞く言葉です。でも、訪問先で階段を降りてもらうと、その手すりを使っていないことがあります。
手すりが「ある」ことと、「使える位置にある」ことは別です。
この記事では、階段の手すりが片側だけで足りるかどうかを、どう判断するかを書きます。
この記事の結論
- 階段の手すりは両側が基本。片側だけなら「どちら側か」を間違えると使えない
- 階段の事故は降りるときに起きやすい。降りる動作を基準に考える
- 私が片側か両側かを決めるときに見ているのは、本人の動作・予算・階段の幅の3つ
- 「片側では足りない」サインは、手すりを使わずに壁を触っている・横向きに降りている・後ろ向きに降りている
- 両側につけると幅が6〜10cm狭くなる。狭い階段では、それ自体が問題になることがある
- 階段の手すりは介護保険の住宅改修の対象。両側でも、20万円の枠の中で収まることが多い
手すりは「降りるとき」に使えるか
階段で転ぶのは、上るときより降りるときです。
上るときは体が階段のほうに傾いていて、転んでも前に手をつけます。降りるときは重心が前に出て、足を踏み外すと止まるものがありません。転落になります。
だから手すりは、降りるときに支えられる位置にあるかで判断します。
片側にしかない家で、その手すりが「上るときには握れるが、降りるときは反対の手になる」ことがあります。右手で握って上り、降りるときは左手になる。左手が痛い、力が入らない、麻痺がある。そうなると、降りるときだけ手すりが使えません。
「あるのに使えない」は、ないのと同じです。
片側では足りないサイン
訪問先で階段を実際に降りてもらうと、足りないかどうかはすぐ分かります。次のような降り方をしていたら、片側では足りていません。
| 見えるサイン | 何が起きているか |
|---|---|
| 手すりを握らず、反対側の壁に手をついている | 手すりが使えない側にある |
| 横向きに降りている | 正面を向くと支えが足りない |
| 後ろ向きに降りている | 前を向いて降りるのが怖い |
| 一段ごとに両足をそろえている | 支えが片側しかなく、体重を移せない |
| 上りは普通なのに、降りだけ極端に遅い | 降りる動作に不安がある |
これらは、本人が無意識に選んだ「安全な降り方」です。その工夫が要らなくなる位置に手すりをつけるのが、私の仕事です。
私が片側か両側かを決めるときに見ているもの
現場で「両側にしましょう」と言えれば簡単ですが、そうもいきません。私が見ているのは3つです。
① 本人の動作
まず、実際に階段を上って、降りてもらいます。
どちらの手で支えているか。降りるとき、どちらの足から出しているか。手すりを離す瞬間があるか。この動作を見て、「この人には、どちら側の手すりが要るか」を決めます。
利き手だけでは決められません。麻痺がある方は麻痺のない側。膝や股関節を手術した方は、上るときは痛みのない足から、降りるときは手術した側の足から出すので、その降り方を支えられる側。利き手が右でも、右肩が痛ければ左です。
動作を見ずに「右利きだから右側」と決めると、外れます。
② 予算
手すりは1本ごとに費用がかかります。両側にすれば、単純に2倍近くです。
介護保険の住宅改修は、工事費20万円分までが対象です。階段の手すりは対象工事なので、1割負担なら自己負担2万円で20万円分の工事ができます。ただし、この20万円は原則、生涯で1回分の枠です。階段で使い切ると、あとで浴室やトイレの手すりに使えなくなります。
だから、両側が理想でも、ほかの場所の優先度と合わせて考えます。 階段より先に、夜中に通うトイレの手すりが要る家もあります。
③ 階段の幅
これは意外と見落とされます。
手すりをつけると、片側で3〜5cm、両側で6〜10cm、通れる幅が狭くなります。
古い家の階段は、もともと幅が狭いものがあります。そこに両側の手すりをつけると、体を横にしないと通れない、荷物を持って上れない、ということが起きます。将来、介助者が横につくスペースも消えます。
狭い階段では、両側にすること自体が新しい危険を作ることがあります。この場合は、片側を確実に使える位置につけ、反対側は壁に手をつきやすくする(壁の飾りや家具をどける)ほうが安全なこともあります。
片側でも両側でも、押さえること
片側にするなら
動作・予算・幅を見て「片側」と決めたときは、次の3つで補います。
降りるときに使う側につける。 上るときは反対の手になりますが、上りは転落になりにくいので、降りるほうを優先します。
手すりの端を、水平に伸ばす。 階段の最後の段を越えて、20cmほど水平に伸ばします。ここがないと、最後の一歩で手すりが途切れて、支えを失います。古い家の手すりは、この延長がないものが多いです。
途中で切らない。 折り返し階段で、踊り場のところで手すりが途切れている家があります。途切れた瞬間に支えがなくなります。手すりは、上から下まで一本につながっている必要があります。
両側にするなら
両側と決めたときも、ただ2本つければいいわけではありません。
- 高さをそろえる。 床から75〜85cmが目安ですが、本人の身長と握り方で決めます。左右で高さが違うと、体が傾きます
- 壁の下地を確認する。 石膏ボードだけの壁には固定できません。柱に合わない位置なら補強板が要ります。詳しくは「廊下に手すりが付けられない壁」に書きました
- 幅を測ってから決める。 両側につけたあとの幅で、本人が普通に上り下りできるか。介助者が横につけるか
費用と介護保険
階段の手すりの費用は、階段の長さ・形(直線か折り返しか)・壁の下地で変わります。片側で数万円から、折り返し階段の両側に補強板も入れると10万円台になることもあります。
介護保険の住宅改修は、要支援・要介護の認定があれば使えます。工事の前に申請が必要で、あとから申請しても対象になりません。ケアマネジャーに「階段の手すりをつけたい」と伝えれば、業者の手配から申請まで一緒に進めてくれます。
制度の基本は「介護保険の住宅改修費20万円、損しない使い方」にまとめています。
20万円で収まらない工事のとき
階段の手すりだけなら、20万円の枠で収まることがほとんどです。ただ、階段と一緒に浴室・トイレ・玄関もまとめて直すと、枠を超えることがあります。そのときは、複数の業者から見積もりを取って比べてください。同じ内容でも、業者によって金額が違います。
家族が今日できること
工事の前に、家族が見ておけることがあります。
- 親御さんに、階段を降りてもらう(上りだけ見ても分かりません)
- 手すりをどちらの手で握っているか、握っていないならどこに手をついているかを見る
- 手すりの端が水平に伸びているか、途中で切れていないかを見る
- 階段の幅をメジャーで測っておく
見て気になることがあれば、ケアマネジャーか訪問リハビリの担当者に「階段の降り方を見てほしい」と伝えてください。手すりの位置は、本人の動作を見て決めるものです。「片側でいいですか」ではなく、「この人には、どちら側が要りますか」と聞いてもらえると、答えやすいです。
この記事のまとめ
- 階段の手すりは降りるときのためにある。降りる動作を基準に考える
- 両側が基本。片側なら、降りるときに使う側に
- 判断は本人の動作・予算・階段の幅の3つで
- 片側で足りないサインは、壁を触る・横向き・後ろ向き・一段ずつ足をそろえる
- 片側にするなら、端を水平に20cm伸ばす・途中で切らない
- 両側は幅が6〜10cm狭くなる。狭い階段では逆に危ないことがある
- 介護保険の住宅改修の対象。工事の前に申請を
転倒しやすい家の特徴は「転倒しやすい家の特徴5つ」に、手すり全般の基本は「手すり 設置場所と種類の選び方」にまとめています。
制度の内容は市区町村・年度によって異なります。ケアマネジャーまたは市区町村の窓口でご確認ください。
親の家をどうするかの全体像は「「親の家、どうする?」完全ガイド」にまとめています。





