「ここは、付けられないですね」
手すりの見積もりで、こう言われることがあります。
いちばん手すりがほしい場所なのに、です。
この記事では、なぜ「付けられない」と言われるのかと、そのとき取れる4つの選択肢をお話しします。
この記事の結論
- 手すりは壁に付いているのではなく、壁の中の「柱」か「補強板」に付いています
- 石膏ボードだけの場所にビスを打っても、体重をかけた瞬間に抜けます
- 選択肢は4つ。①柱の位置に合わせる ②補強板を先に貼る ③置き型で代える ④場所を変える
- 補強板の工事は、介護保険の住宅改修の対象になります(手すりに付帯する工事として)
- 手すりの位置を「柱の都合」で決めてはいけません。動作で決めた位置に、下地を作るのが正解です
なぜ「付けられない」のか——壁の中を見る
日本の家の壁は、たいていこうなっています。
| 壁の層 | 何があるか |
|---|---|
| 表面 | 石膏ボード(厚さ約12mm) |
| 中 | 空洞(または断熱材) |
| ところどころ | 柱・間柱(木の縦材)——ここにしかビスが効かない |
石膏ボードは、押すとへこむ板です。ビスは入りますが、効きません。
石膏ボードだけにビスを打って、手すりをつかんで体重をかけると——ビスがボードごと抜けます。
手すりは「つかまる」ための道具です。体重がかかる前提で付けなければ、意味がありません。
だから業者さんは、ビスが効く「柱」がどこにあるかを探します。壁を叩いて音を聞いているのは、そのためです。
柱は、決まった間隔で入っています
一般的な木造の家では、柱と柱の間に「間柱(まばしら)」という細い縦材が、およそ45cm間隔で入っています。
柱 ──── 間柱 ──── 間柱 ──── 柱
約45cm 約45cm 約45cm
この位置なら、手すりはしっかり付きます。
問題は、手すりがほしい位置と、柱の位置が合わないときです。
選択肢は4つあります
① 柱の位置に合わせて付ける
いちばん簡単で、いちばん安い方法です。
手すりの固定部分(ブラケット)を、柱や間柱の位置に合わせて付けます。
ただし、手すりの位置が「柱の都合」で決まってしまいます。
本当は、ここでつかまりたい
↓
でも柱は、その20cm横にある
↓
20cm横に付けた手すりは、届かないか、つかみにくい
数cmのずれなら問題ありません。でも20〜30cmずれると、使われない手すりになります。
② 補強板を先に貼って、その上に付ける
これが、いちばん多い解決策です。
壁の表面に、幅10〜15cmの板(補強板)を横に貼る
↓
板は、両端の柱にしっかり固定する
↓
その板の上に、好きな位置で手すりを付ける
柱がない場所でも、板が柱の代わりになります。
手すりの位置を、動作に合わせて自由に決められるのが最大の利点です。
見た目は、壁に木の帯が1本つく形になります。最近は壁の色に合わせた補強板もあり、思ったほど目立ちません。
③ 置き型・突っ張り型で代える
壁を触らない方法です。
ただし、廊下には向きません。
| 置き型 | 一点で支える(ベッドの横・トイレの立ち座り) |
| 廊下 | 線で支える必要がある(歩きながら、ずっとつかまる) |
廊下のように「動きながらつかまる」場所は、壁に固定した手すりでないと役に立ちません。
工事にするか置き型で済ませるかの判断は「工事にするか、道具で済ませるか」に書きました。
④ 場所を変える
意外と、これで解決することがあります。
右の壁には柱がない。でも左の壁にはある。左に付けても、動作として成立するか?——ここを見ます。
ただし、利き手・麻痺のある側・つかむ癖で、左右どちらが正解かは人によって違います。
ここは、理学療法士やケアマネジャーに、実際に歩くところを見てもらってから決めてください。
ここが大事です——位置を「柱」で決めない
ここが、この記事でいちばん大事なところです。
業者さんは、壁の専門家です。どこに柱があるかは、すぐ分かります。
でも、どこでつかまるべきかは、業者さんには分かりません。
業者:「柱がここにあるので、ここに付けましょう」
↓
そこに付ける
↓
本人が、そこでつかまらない
↓
使われない手すりになる
順番が逆です。
① 本人の動作を見て、つかまる位置を決める
↓
② その位置に柱があるか、確認する
↓
③ なければ、補強板を入れる
「付けられる場所」に付けるのではなく、「付けるべき場所」に付けられるようにする。そのための補強板です。
手すりの高さや向きは「手すり 設置場所と種類の選び方」と「浴室の手すり、縦か横か」に書きました。
介護保険は、補強板にも使えます
ここは安心してください。
介護保険の住宅改修には、「①〜⑤の工事に付帯して必要になる工事」という項目があります。
手すりの取付けは対象工事。そのために必要な補強板の設置は、付帯工事として同じく対象になります。
補強板の分だけ費用は上がりますが、20万円の枠の中で使えます。
ただし、事前申請が必要です。「補強板が要る」と分かった時点で、見積もりに入れてもらってから申請してください。工事のあとに「補強板の分も」とは通りません。
20万円の枠の使い方は「介護保険の住宅改修費20万円」、事前申請を忘れたときの話は「住宅改修の事前申請を忘れたら」にまとめています。
賃貸の場合——補強板は「原状回復」の論点になります
賃貸で手すりを付けるとき、大家がいちばん気にするのは「壁に何をするか」です。
| ビス穴だけ | 退去時にパテで埋めれば、ほぼ問題ない |
| 補強板 | 壁の表面に板を貼る=原状回復の対象になりやすい |
大家の立場で言うと、事前に相談してもらえるのが一番です。黙って貼られるのが、いちばん困ります。
賃貸での住宅改修は「賃貸住宅でも介護の住宅改修はできる」に、承諾書と原状回復の話をまとめました。
業者さんに、こう聞いてください
「付けられない」と言われたら、あきらめる前に、この2つを聞いてください。
「補強板を入れれば、この位置に付けられますか?」
「その分の費用も、介護保険の申請に入れられますか?」
この2つで、たいていの「付けられない」は「付けられる」に変わります。
この記事のまとめ
- 手すりは壁ではなく、壁の中の柱・間柱・補強板に付いている
- 石膏ボードだけにビスを打つと、体重をかけた瞬間に抜ける
- 柱・間柱はおよそ45cm間隔。そこに合えば簡単、合わなければ次の手
- 選択肢は4つ:①柱に合わせる ②補強板 ③置き型 ④場所を変える
- 補強板がいちばん多い解決策。位置を自由に決められる
- 廊下には置き型は向かない(線で支える必要がある)
- 位置を「柱の都合」で決めない。動作で決めて、そこに下地を作る
- 補強板は介護保険の対象(付帯工事)。事前申請に含めること
- 賃貸では補強板は原状回復の論点。事前に大家へ一言
- 聞くのは2つ:「補強板を入れれば付けられますか」「その分も申請に入りますか」
壁の構造は建物によって異なります。実際の判断は、必ず施工業者にご確認ください。制度の内容は市区町村によって異なります。ケアマネジャーまたは市区町村の窓口でご確認ください。
親の家をどうするかの全体像は「「親の家、どうする?」完全ガイド」にまとめています。
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