住宅改修の事前申請を忘れたら——全額自己負担になる前にできること 介護リフォーム

住宅改修の事前申請を忘れたら——全額自己負担になる前にできること

「手すり、こないだ自分で付けたのよ」

訪問リハビリで伺ったお宅で、そう言われることがあります。まだお元気で、要支援の認定を受けたばかりの方。ホームセンターで買ってご家族が取り付けた、あるいは近所の工務店に頼んだ——という流れです。

その工事、介護保険が使えたかもしれません。

介護保険の住宅改修は、工事の前に市区町村へ申請していないと、1円も支給されません。20万円分の工事なら、本来2万円で済んだものが、まるまる20万円の自己負担になります。

私の実感では、この「制度を知らないまま、元気なうちに自分で付けてしまう」パターンが一番多いです。要支援の段階ではケアマネジャーさんとの関わりも薄く、誰も教えてくれないまま話が進んでしまうからです。

もちろん、すでに介護サービスを使っている方が、うっかり工事を先に始めてしまうこともあります。

いずれにしても、気づいた時点によっては、まだ手が打てます。 今日はその話をします。

この記事の結論

  • 住宅改修は工事の前に市区町村へ申請しないと、原則として支給されません
  • まだ工事が始まっていないなら、間に合います。今すぐ止めてください
  • 始まってしまった場合も、すぐに市区町村へ連絡を。黙って進めるより可能性が残ります
  • 完了してしまうと、原則は自己負担です。ただし運用は自治体で分かれるので、あきらめる前に窓口へ
  • 要支援1・2でも使えます。 「まだ元気だから関係ない」と思って自費で付けてしまうのが、いちばんもったいないパターンです

1. なぜ「工事の前」でなければいけないのか

そもそも、なぜこんなに厳しいのでしょうか。

理由はシンプルで、工事が終わってしまうと、その工事が本当に必要だったかを確認できないからです。

事前申請では、次のようなものを提出します。

  • 住宅改修が必要な理由書(ケアマネジャーなどが作成)
  • 工事の見積書
  • 工事前の写真(日付入り)
  • 改修する箇所の図面

このうち、工事前の写真は、後からでは絶対に撮れません。ここが決定的です。

(理由書を誰が書くのかは住宅改修の理由書は誰が書くのかの記事にまとめています)

つまり、役所は意地悪をしているのではなく、確認する材料がなくなってしまうという話なのです。

2. 気づいた段階別・いまできること

ここが本題です。どの段階で気づいたかで、できることがまったく違います。

① まだ工事が始まっていない

間に合います。今すぐ業者さんに連絡して、着工を止めてください。

「明日から入ります」という段階でも、電話1本で止まります。業者さんも、支給されない工事にしてしまうことは望んでいません。

そのうえで、ケアマネジャーさんに連絡してください。理由書の作成から始めることになりますが、ここで数日待つほうが、20万円を失うよりはるかに軽い負担です。

② 工事は始まったが、完了していない

すぐに市区町村の介護保険担当窓口に電話してください。

この段階の扱いは、自治体によって判断が分かれます。工事を中断して、そこから申請を受け付けてもらえる場合もあれば、着工した時点で対象外とする場合もあります。

大事なのは、黙って工事を進めないことです。

完成してから相談に行くと、「なぜその時点で連絡しなかったのか」という話になります。途中で自分から申し出たという事実は、少なくともマイナスにはなりません。

③ 工事が完了してしまった

原則としては、支給されません。 これははっきりお伝えしておきます。

ただ、あきらめる前に一度、市区町村の窓口に相談してください。

  • 退院が急に決まった、というようなやむを得ない事情をどう扱うか
  • 工事前の写真が残っていないか(業者さんが撮っている場合があります)

このあたりの運用は、自治体ごとに幅があります。可能性は高くありませんが、電話1本で確かめられることを確かめないまま20万円を負担するのは、もったいないです。

⚠️ ここで注意していただきたいのは、書類の日付を後から書き換えるようなことは絶対にしない、ということです。これは不正受給になります。相談するときは、起きたことをそのまま伝えてください。

3. なぜ、忘れてしまうのか

現場で見ていると、原因はだいたい次の4つです。

① そもそも、制度を知らなかった

私の実感では、これが一番多いです。

要支援と認定されたばかりの方は、まだお元気です。デイサービスにも通っていない。ケアマネジャーさんとも、月に一度会うかどうか。

そういう段階で「玄関がちょっと不安だな」と感じて、ご家族がホームセンターで手すりを買ってきて取り付ける。とても自然な流れです。

でも、要支援1・2でも住宅改修は使えます。 「介護保険は寝たきりになってから使うもの」と思われがちですが、そうではありません。

しかもこの段階は、制度を使ううえで一番おいしいタイミングでもあります。元気なうちなら、どこに何が必要かを本人が自分で判断できるからです。

知らなかっただけで20万円の枠を捨ててしまう——これがいちばんもったいない。

② 「ケアマネジャーさんに話したから大丈夫」

すでにケアマネジャーさんがついている方では、これがいちばん多い勘違いです。

ケアマネジャーさんに「手すりを付けたいんです」と相談した。ケアマネジャーさんも「いいですね」と答えた。それで申請が進んでいると思ってしまう——という流れです。

でも、相談と申請は別のものです。理由書を書き、見積もりを揃え、書類を役所に出す、という工程がその後に必要です。

③ 「業者さんが全部やってくれる」

住宅改修に慣れた業者さんは、確かに申請の代行までしてくれます。でも、すべての業者さんがそうとは限りません。

とくに、普段は一般のリフォームをしている工務店さんに頼んだ場合、介護保険の手続きに詳しくないことがあります。「介護保険を使いたい」と伝えていても、手続きはご家族がやるものだと思っているケースがあるのです。

④ 退院日が迫っていた

これが原因としては一番せつないパターンです。

退院日が決まり、家に手すりがない。間に合わない。だから先に工事をしてもらった——という流れで、結果的に申請が後回しになります。

住宅改修は、申請から工事完了まで思っている以上に日数がかかります。この時間の問題については退院日が決まってからでは間に合わない話に詳しく書きました。

4. 「誰が出すのか」を最初に決めておく

再発防止として、いちばん効くのはこれです。

制度上の申請者は、あくまでご本人(またはご家族)です。ケアマネジャーさんや業者さんがやってくれるのは、代行であって、義務ではありません。

だから、工事の話が出たら、最初にこう聞いてください。

「事前申請の書類は、どなたが、いつ出してくださいますか?」

この一言で、責任の所在がはっきりします。「うちはやりません」と言われれば、ご家族が動けばいいだけです。分からないまま進むのがいちばん危険です。

あわせて、次の2つの日付をメモしておくと確実です。

書いておく日付なぜ
申請書を出した日これが着工日より前にあることが絶対条件
着工予定日申請が受理される前に来ていないか確認する

5. 制度の基本もあわせて

住宅改修は、工事費20万円分までが介護保険の対象になる制度です。1割負担の方なら、自己負担2万円で20万円分の工事ができます。

対象は要支援1・2、または要介護1〜5の認定を受けている方です。「要介護にならないと使えない」と思われがちですが、要支援でも使えます

(制度全体の流れは介護保険の住宅改修費20万円の記事にまとめています)

この20万円は一度に使い切る必要はなく、残した分は繰り越せます。焦って全部やろうとすると、今回のような手続きの抜けも起きやすくなります。

まとめ

  • 住宅改修は工事の前の申請が絶対条件。工事前の写真は後から撮れません
  • まだ着工していないなら間に合います。今すぐ止めてください
  • 着工後・完了前なら、すぐ市区町村へ。自分から申し出ることに意味があります
  • 完了後は原則自己負担。ただし運用は自治体で分かれるので、電話で確認する価値はあります
  • 書類の日付を後から直すのは絶対にNGです
  • 要支援1・2でも使えます。 元気なうちに自費で付けてしまうのが、いちばんもったいない
  • いちばんの予防策は「誰が、いつ出すのか」を最初に確認すること

もし今、まさに工事の話が進んでいる最中でしたら、この記事を閉じたあとで、担当のケアマネジャーさんに一本電話してみてください。「事前申請、もう出ていますか?」と聞くだけです。

それだけで防げることが、実際にあります。

制度の細かい運用は自治体によって異なりますので、判断に迷う場合は必ずお住まいの市区町村の介護保険窓口にご確認ください。

けいすけ(運営者)

理学療法士(訪問リハビリ歴10年以上)× 宅地建物取引士 × 賃貸不動産経営管理士 × 大家歴10年以上。 医療と不動産、両方の現場から見えてくる「親の家のリアル」を、なるべくフラットな視点で発信しています。