介護保険で住宅改修(手すりの設置など)をするとき、必ず提出する書類があります。
「住宅改修が必要な理由書」です。
名前のとおり、「なぜこの工事が必要なのか」を説明する書類です。これがないと申請そのものが受け付けられません。見積書と並ぶ、申請の心臓部にあたります。
ところが、この書類についてご家族から質問を受けることがほとんどありません。「ケアマネさんが出しておいてくれるもの」と思われているからだと思います。
たしかに家族が書く書類ではありません。でも——中身を決めているのは、実はご家族が伝えた情報なんです。今日はその話をします。
この記事の結論
- 理由書は「なぜその工事が必要か」を専門職が書く書類。家族は書けない
- 原則は担当のケアマネジャーが作成する
- ケアマネがいない場合は、地域包括支援センターの職員や、決められた資格を持つ専門職が書ける
- 中身の質を決めるのは、家族が伝える「具体的な困りごと」
- 「不便だから」では通らない。「いつ・どこで・どの動作で困っているか」を伝える
- 書類の費用は原則かからない(自治体によっては補助制度もある)
1. 理由書とは何か
住宅改修の申請には、主に次の書類が必要です。
- 住宅改修が必要な理由書
- 工事費の見積書
- 改修前の写真(日付入り)
- 改修後の状態が分かる図面
- (賃貸などの場合)所有者の承諾書
このうち理由書だけは、業者でも家族でもなく、専門職が書きます。
内容は、おおむねこういう構成です。
| 項目 | 書かれること |
|---|---|
| 本人の状況 | 身体の状態、どこまで自分でできるか |
| 困っている場面 | どの動作で、どう困っているか |
| 改修の目的 | この工事で何ができるようになるか |
| 期待される効果 | 転倒予防、介助量の軽減、自立の維持など |
つまり、「この工事は生活のために本当に必要です」という説明書です。
役所はこれを読んで、給付してよい工事かどうかを判断します。逆に言うと、この書類の出来が悪いと差し戻されることがあります。
2. 誰が書けるのか
原則はケアマネジャー
すでに介護サービスを使っていて、担当のケアマネジャー(介護支援専門員)がいる場合は、その方が作成します。ケアマネジャーは日ごろから本人の状態を把握しているので、いちばん書きやすい立場です。
ご家族がすることは、「住宅改修を使いたいのですが」と伝えるだけ。あとはケアマネジャーが業者との調整も含めて動いてくれます。
ケアマネジャーがいない場合
問題はこちらです。次のような場合、担当ケアマネジャーがいないことがあります。
- 要支援1・2の方(地域包括支援センターが担当)
- 認定は受けたが、まだサービスを使っていない
- 施設から在宅へ戻る途中で、担当が決まっていない
この場合でも、書ける人はいます。ただし順番があります。
まず基本となるのは、次の2つです。
- 介護支援専門員(ケアマネジャー)
- 地域包括支援センターの介護予防サービス計画・介護予防ケアマネジメントの作成担当者
そのうえで、やむを得ない事情がある場合には、本人の身体状況を詳しく把握している次の専門職も作成できるとされています。
- 理学療法士・作業療法士
- 福祉住環境コーディネーター検定試験2級以上の資格を持つ人
⚠️ ここを誤解しないでください。「この中から好きな人を選べる」わけではありません。 ケアマネジャーや地域包括支援センターが基本で、それが難しいときの受け皿としてリハビリ職などが認められている、という位置づけです。
そして認められる範囲や運用は自治体によって異なります。「うちの市はどこまで認めているか」は、必ずお住まいの市区町村の介護保険の窓口に確認してください。ここは全国共通ではありません。
家族は書けません
情報を提供するのはご家族ですが、書類として作成できるのは専門職だけです。ここは動かせません。
3. 費用はかかるのか
ケアマネジャーが作成する場合、原則として費用はかかりません。 ケアマネジャーの業務に含まれているためです。
一方、担当ケアマネジャーがいない方が外部の専門職に依頼する場合、費用が発生することがあります。この点について、自治体が補助する制度を持っているところがあります。
たとえば川崎市には「介護保険住宅改修支援事業」という制度があり、担当のケアマネジャー等がいない要介護の方について、理由書1件につき2,000円が補助されます(川崎市の住宅改修の記事にも書きました)。
⚠️ ただしこれは「ケアマネジャーがいなければもらえる」というものではなく、その月に居宅介護支援を受けていないことなどの条件がついています。詳しい要件は自治体のページで確認してください。
同じような制度は他の自治体にもあります。「理由書 作成費用 補助」で、お住まいの自治体名と一緒に調べてみてください。
4. 家族が伝えるべきこと——ここが本題です
理由書を書くのは専門職ですが、書く材料を持っているのはご家族です。
現場でよくあるのが、こういうやり取りです。
「お母さん、家でどんなことにお困りですか?」 「いろいろ不便みたいで……」
この情報では、通る理由書は書けません。
役所が知りたいのは「不便」という感想ではなく、具体的な動作の困りごとだからです。
伝え方のコツ:「いつ・どこで・どの動作で」
同じことでも、こう伝えると理由書が一気に書きやすくなります。
| ❌ 伝わりにくい | 🟢 伝わる |
|---|---|
| 玄関が不便 | 玄関の上がりかまち(20cmの段差)を上がるとき、壁に手をついてよろける。先月そこで尻もちをついた |
| トイレが心配 | 夜中に2〜3回トイレに起きる。便座から立ち上がるとき、手すりがなくてふらつく |
| お風呂が危ない | 浴槽をまたぐとき、片足立ちが5秒もたない。今は家族が支えている |
違いは「数字」と「実際に起きたこと」です。
- 段差は何センチか
- 何回起きるか
- いつ起きたか(先月転んだ、など)
- 今は誰がどう手伝っているか
これがあると、専門職は「だからこの工事が必要」と筋の通った理由書が書けます。差し戻しも減ります。
メモにして渡すのがおすすめ
その場で思い出すのは大変なので、気づいたときにスマホのメモに書き溜めておくのがおすすめです。
「7/3 夜中トイレでふらついた」「7/10 玄関で靴を履くとき壁に手をついた」——このレベルで十分です。
これをケアマネジャーに渡すと、驚くほど話が早くなります。
(何を見ておけばいいか分からないときは、転倒しやすい家の特徴が参考になります)
5. よくあるつまずき
① 業者に丸投げしてしまう
リフォーム業者が「申請もやりますよ」と言ってくれることがあります。ありがたいのですが、理由書は業者が書くものではありません。
業者主導で話が進むと、「工事ありきの理由書」になりがちです。本人の生活より、工事内容に合わせた説明になってしまう。これは差し戻しの原因になります。
順番は逆です。 困っている動作があって、それを解決するために工事を選ぶ。ここを外さないでください。
② 工事を先にしてしまう
理由書は工事の前に提出するものです。工事が終わってからでは、そもそも申請できません。
介護保険の住宅改修は事前申請が絶対条件で、先に工事をすると1円も出ません。この点は退院までに住宅改修は間に合わない話に詳しく書きました。
③ 「本人が嫌がる」を言えないままにする
意外と多いのがこれです。
手すりを勧めても、ご本人が「年寄り扱いするな」と嫌がる。ご家族は板挟みになって、その事情を専門職に言えないまま話が進む——。
これは正直に伝えてください。 伝えてもらえれば、目立たないデザインを選ぶ、まず福祉用具で試す、位置を工夫するなど、打つ手があります。黙っていると、せっかく付けた手すりが使われないという一番もったいない結果になります。
まとめ
- 理由書=「なぜこの工事が必要か」を説明する書類。申請の心臓部
- 書くのは原則ケアマネジャー。いない場合は地域包括の職員や決められた専門職(範囲は自治体ごとに違う)
- 家族は書けないが、中身を決めるのは家族が伝える情報
- 「不便」ではなく「いつ・どこで・どの動作で・何センチ」で伝える
- 気づいたことはスマホのメモに書き溜めて渡すのが最も効果的
住宅改修というと、どうしても「いくらかかるか」「どんな手すりにするか」に目が行きます。
でも実際に工事の可否を決めているのは、A4数枚のこの書類です。そしてその質を決めているのは、ご家族が日ごろ見ている小さな困りごとの記録なんです。
「うちの親、最近ここでよろけるな」——そう思ったら、ぜひメモしておいてください。それが一番役に立ちます。
日ごろの伝え方でどれだけ差がつくかは、訪問リハビリで見た 準備している家族としていない家族の違いにまとめています。
介護リフォーム