「まだ階段は上れるから。寝室はこのままでいい」
親にそう言われて、話が止まっている家は多いと思います。本人は毎日上り下りできている。家族も、無理に変えさせるのは気が引ける。
でも、訪問リハビリの現場で私が見てきた範囲では、寝室が2階のままの家は、ある日を境に一気に困ります。そして、そのときには準備をする時間がありません。
この記事では、寝室を2階に置いたまま先送りすると何が起きるか、1階に移すサインはどこに出るか、そして移すタイミングの話をします。
この記事の結論
- 寝室が2階のままだと、夜中のトイレで階段を下りることになる。これが一番危ない
- 先送りした家は、転倒や入院をきっかけに、準備なしで1階へ移ることになりやすい
- 移すサインは階段の上り下りに出る。回数が減る、両足をそろえて一段ずつ、壁に手をつく
- 1階に移すと、階段は「1日1回」か「上らなくていい」ものになる。夜のトイレも近くなる
- 本人が嫌がるのは当たり前。「寝るところだけ1階」から始めると受け入れやすい
- どの部屋にするかに決まった答えはない。トイレまでの距離・ベッドが置けるか・暖かさで選ぶ
- 入院したら、退院前が最後のチャンス。家屋調査の場で決める
何が起きるのか——順番で見る
寝室が2階のまま先送りすると、多くの家で同じ順番をたどります。
階段がきつくなる
↓
上り下りの回数を減らす(昼も2階にいる/1階のソファで寝てしまう)
↓
夜中のトイレだけは、階段を下りる
↓
暗い・眠い・急いでいる状態で、階段で転ぶ
↓
入院。退院のときに、慌てて1階に部屋を作る
一番危ないのは3つ目、夜中に階段を下りる場面です。夜間のトイレが転倒の起きやすい時間帯であることは「夜間のトイレが一番危ない」に書きました。寝室が2階にあると、そこに階段が加わります。暗い、眠い、急いでいる、手が壁を探している。この条件がそろうのが、2階の寝室からトイレへ向かう夜中の階段です。
私が訪問先で「2階の寝室のままでは危ない」と感じた家も、本人は「昼間は上れている」と言っていました。昼間の階段と、夜中の階段は、別物です。
1階に移すサインは、階段に出ます
では、いつ移せばいいのか。サインは、毎日の階段の使い方に出ます。家族が見て分かるものを並べます。
| サイン | 何が起きているか |
|---|---|
| 上り下りの回数が減った | 本人が無意識に「階段を避ける生活」に寄せている |
| 両足をそろえて一段ずつ上り下りする | 片足で体を支える力が落ちている |
| 手すりより、壁や柱に手をつく | 手すりだけでは足りない。体を預ける場所を探している |
| 1階のソファやこたつで寝てしまう | 夜に2階へ上がるのがおっくう。すでに「1階で寝たい」状態 |
| 夜中にトイレへ下りてくる | 一番危ない場面が、毎晩起きている |
1つでも当てはまれば、話し始める時期です。2つ以上なら、今年のうちに動くことをおすすめします。
最後の「夜中にトイレへ下りてくる」は、家族が寝ていると気づきにくいものです。泊まりに行ったときに、夜中の足音に気をつけてみてください。階段の手すりが片側だけで足りるかどうかは「階段の手すり、片側だけで足りるか」に書いています。
でも、ここが希望です——1階に移すと、変わること
寝室を1階に移すと、生活は思った以上に変わります。
- 階段は「1日1回」か「上らなくていい」ものになる。上るとしても、明るくて頭が起きている昼間だけ
- 夜のトイレが近くなる。階段という一番の危険が、夜の動線から消える
- 家族の目が届く。2階にこもっていると気づけなかった変化に、早く気づける
- 介護ベッドや手すりなど、あとから必要になるものを入れやすい
「1階に移したら、階段を使わなくなって足が弱るのでは」という心配も聞きます。これは半分正しいです。だから、2階を「上ってはいけない場所」にしない。昼間に、手すりを持って、洗濯物を干しに上がる。そういう「昼だけの階段」は残していい。危ないのは夜の階段で、昼の階段はむしろ体を保つ練習になります。
嫌がられるのは、当たり前です
「1階に移そう」と言うと、嫌がられることがあります。私も、提案して本人や家族に嫌がられた場面が何度もあります。
嫌がる理由として、よく挙がるのはこういうものです。
- 「まだ上れる」。できているのに、年寄り扱いされたくない
- 自分の部屋を離れたくない。長年の寝室には、物も思い出もある
- 1階の部屋は落ち着かない。居間や客間は人が通る。仏間で寝るのは抵抗がある
- 家族に迷惑をかける。1階の部屋を空けてもらうのが申し訳ない
どれも、もっともな理由です。だから、全部を一度に移そうとしないほうがうまくいきます。
伝え方のコツは3つです。
- 「寝るところだけ、1階に」から始める。着替えや荷物は2階のままでいい。昼は2階の部屋で過ごしてもいい
- 理由を「階段が心配」ではなく「夜のトイレが心配」にする。本人も夜中の階段は怖いと感じていることが多い
- 「冬のあいだだけ」と期間を区切る。寒い時期は夜のトイレの回数が増える。試してみて、戻したければ戻す
「ずっと1階で」と言われると構えますが、「冬だけ、寝るところだけ」なら、受け入れやすくなります。
1階のどの部屋にするか——決まった答えはない
実際に1階へ移すとき、使われる部屋は家によっていろいろです。和室、仏間、客間、居間の一角、子どもが使っていた部屋。正解の部屋は、決まっていません。
選ぶときに見るのは、この4つです。
| 見ること | 理由 |
|---|---|
| トイレまでの距離 | 夜のトイレが近くなることが、移す一番の目的 |
| ベッドが置けて、横に人が立てるか | あとで介護ベッドが必要になることが多い |
| 冬に寒くないか | 北側の部屋や、窓の大きい部屋は冷える。寒いと夜のトイレで体が固まる |
| 本人が落ち着けるか | 人が通り抜ける部屋は、寝るのに向かない |
ベッドを置くときに測る隙間は「介護ベッドを置く前に測る3つの隙間」に書きました。和室にベッドを置くなら、畳のへこみや、敷居の段差も見ておいてください。
トイレから遠い部屋しか空いていないなら、夜だけポータブルトイレを置くという手もあります。
ただし、期限があります——退院前が最後のチャンス
寝室を1階に移すタイミングで、一番多いのは入院のあとです。転倒や病気で入院して、退院するときに「2階には戻れない」と分かる。
このとき、決める場は退院前の家屋調査です。病院のPT・OTが家に来て、寝る場所・トイレまでの動線・階段を見ます。ここで1階に寝室を作ると決めれば、退院までに準備ができます。家屋調査で何を見るかは「退院前の家屋調査で、PTは家のどこを見ているのか」にまとめています。
逆に、ここで決めずに退院すると、2階の寝室に戻って、また夜中に階段を下りる生活に戻ります。一度転んだ人が、同じ階段を、前より弱った体で下りることになる。
だから、本当は入院する前に決めておくのが一番です。退院前は、先送りできる最後の日だと思ってください。
1階に移す前にやっておきたい3つのこと
- 1階の候補の部屋から、トイレまでを歩いてみる。夜中を想定して、電気をつけずに足元が見えるか。つかまる場所があるか
- その部屋の物を、どこに動かすか決める。仏壇やタンスなど、動かせないものもある。ベッドが置けるかを先に確かめる
- 本人と「冬のあいだ、寝るところだけ」と話してみる。一度で決まらなくていい。話を始めておくことが大事
この記事のまとめ
- 寝室が2階のままで一番危ないのは、夜中のトイレで階段を下りる場面
- 先送りすると、転倒・入院をきっかけに、準備なしで1階へ移ることになりやすい
- サインは階段に出る。回数が減る・一段ずつ・壁に手をつく・1階で寝てしまう・夜中に下りてくる
- 1階に移すと、夜の動線から階段が消える。昼の階段は残していい
- 嫌がられたら、「冬のあいだ、寝るところだけ」から
- 部屋はトイレまでの距離・ベッドが置けるか・寒さ・落ち着けるかで選ぶ
- 入院したら、退院前の家屋調査が最後のチャンス
1階に寝室を移しても、トイレやお風呂が2階にしかないなど、間取りそのものが限界の家もあります。改修で住み続けられる家か、限界が近い家かの見分け方は「手すりで住み続けるか、住み替えるか」に書きました。
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