親御さんの退院が近づくと、病院から「一度お宅を見せていただけますか」と言われることがあります。
家屋調査(家屋訪問、家屋評価などとも呼ばれます)です。理学療法士や作業療法士が実際に自宅へ行き、生活できる状態かを確認します。
ご家族からすると、「専門家が来て、メジャーで何かを測って、写真を撮って帰っていった」という印象で終わってしまうことが多いようです。何を見ていたのか分からないまま、後日「手すりを付けましょう」という話になる。
もったいないと思います。この日は、ご家族にとって一番の情報収集日なんです。
今日は、私たちが家のどこを見ているのかをお話しします。
この記事の結論
- 家屋調査は「家を見に来る日」ではなく、親御さんの動作と家を合わせる日
- PTが見ているのは家の広さではなく、「その人がその場所で動けるか」
- 玄関・トイレ・浴室・寝室の4か所が中心。特にトイレまでの動線
- 数字は覚えなくていいが、段差の高さと通路の幅は測られていると知っておくと話が分かる
- 家族の準備は3つ。普段の生活の写真・困っている場面のメモ・実際に使っている家具の配置を変えないこと
- 同席できるなら必ず同席を。あとから聞くより10倍早い
1. 家屋調査とは何をする日か
入院中の親御さんは、病院という環境でリハビリをしています。手すりがあり、床は平らで、明るく、看護師さんがすぐ近くにいます。
でも帰るのはその家です。段差があり、廊下は狭く、夜は暗い。
病院でできることが、家でできるとは限りません。 その差を確認しに行くのが家屋調査です。
多くの場合、こんな形で行われます。
- 理学療法士・作業療法士のどちらか(または両方)が訪問
- ケアマネジャーや福祉用具の担当者が同席することも
- 所要時間は30分〜1時間程度
- ご本人が一時外出して同行することもある(これが理想)
ご本人が一緒に来られる場合は、実際にその場で動いてもらいます。これが一番情報量が多いからです。
2. PTが見ている4か所
① 玄関——家に入れなければ何も始まらない
最初に見るのは玄関です。理由は単純で、ここを越えられないと家に入れないからです。
見ているのはこの3つです。
- 上がりかまちの高さ(20cmを超えていることが多い)
- 靴を脱ぐときに、どこかにつかまれるか
- 座れる場所があるか(立ったまま靴を履くのは難しい)
日本の玄関は、実は階段1段よりも大きな段差があります。しかもそこで片足立ちになります。家の中でいちばん危ない場所のひとつです。
(段差の解消方法は玄関の段差、スロープか踏み台かにまとめています)
② トイレ——回数がいちばん多い
生活の中で、一日でもっとも往復する場所がトイレです。夜間も含めれば1日5〜8回。ここが安全でないと、転倒の確率が跳ね上がります。
見ているのは、
- 寝ている場所からトイレまでの距離と経路
- 途中につかまれるものがあるか
- ドアが内開きか外開きか(中で倒れたとき開けられるか)
- 便座の高さ、立ち上がるときに手をつく場所
特に大事なのが夜間です。日中は問題なく歩けても、寝起きのふらつきと暗さが重なる夜中が一番危ない。だから「夜は電気をつけますか」「どのルートで行きますか」と必ず聞きます。
③ 浴室——一番相談が多い場所
訪問リハビリの現場で、住まいの相談がもっとも多いのが浴室です。
- 浴槽の縁の高さ(またげるか)
- 洗い場の床が滑らないか
- 洗い場と脱衣所の段差
- 浴槽内で立ち上がれるか
浴槽をまたぐ動作は、片足立ちが数秒必要です。ここが難しいなら、手すりだけでは足りず、シャワーチェアや浴槽内の椅子など、用具の組み合わせを考えます。
(浴室リフォームで転倒を防ぐにも詳しく書いています)
④ 寝室——1階か2階かで話が変わる
意外に見落とされがちですが、寝室が2階にあると生活が一気に難しくなります。
- ベッドか布団か(布団は起き上がりが難しい)
- ベッドの高さ(足が床につくか)
- ベッドから立ち上がるとき、つかまるものがあるか
- 部屋に介護ベッドを置く余地があるか
「1階に寝る場所を移せませんか」——家屋調査でよく出る提案です。工事より先に、部屋の使い方を変えるだけで解決することは意外と多いのです。
3. なぜメジャーを当てているのか
私たちが測っているのは、主にこの2つです。
① 段差の高さ
何センチかで、対応がまったく変わります。2cmと20cmでは別の話です。ちなみに2cmの敷居でもつまずきます——すり足になっている方は、想像以上に足が上がっていません。
② 通路の幅
歩行器や車いすを使う可能性があるなら、通れるかどうかは死活問題です。「手すりを付けたら通れなくなった」という失敗は実際にあります。
数字そのものをご家族が覚える必要はありません。ただ、「幅や高さを測っている=将来使う道具のことを考えている」と分かっていると、その場の会話が理解しやすくなります。
4. 家族が準備しておくとよい3つのこと
ここからが本題です。準備次第で、この日の価値は何倍にもなります。
① 普段の生活の写真を撮っておく
調査の日は、どうしても片付いた状態になります。でも私たちが知りたいのは普段の姿です。
- 洗濯物が干してある廊下
- 新聞や雑誌が積んである床
- コードが横切っている場所
「普段はこうなんです」と写真を見せてもらえると、はるかに現実的な助言ができます。きれいに見せる必要はまったくありません。
② 困っている場面をメモしておく
「いつ・どこで・どの動作で」の形でメモしておいてください。
- 7/3 夜中トイレでふらついた
- 7/10 玄関で靴を履くとき壁に手をついた
このレベルで十分です。これは住宅改修の理由書を書くときにもそのまま使えます。
③ 家具の配置を「調査のために」変えない
これは意外と大事です。
「見に来るから」と片付けて家具を動かしてしまうと、普段と違う家を評価することになります。調査が終わって元に戻したら、助言が合わなくなってしまう。
普段のままで見せてください。 それが一番役に立ちます。
5. 可能なら、必ず同席してください
仕事の都合で難しいこともあると思いますが、同席できるなら同席を強くおすすめします。
理由は3つあります。
- その場で質問できる(あとから電話で聞くより、はるかに具体的な答えが得られます)
- なぜその提案なのかが分かる(納得して工事に進める)
- 家族の事情を伝えられる(「日中は誰もいません」など、家の構造以外の情報が助言を大きく変えます)
どうしても難しい場合は、あとで報告をもらえるかを確認しておいてください。「調査の結果を教えてもらえますか」と一言伝えるだけで違います。
6. 調査のあと、すぐには工事を決めない
家屋調査で「ここに手すりを」という話が出ても、その場で決める必要はありません。
理由は2つあります。
- 介護保険の住宅改修は申請から工事完了まで3〜4週間かかるため、いずれにせよ退院には間に合わないことが多い(詳しくはこちら)
- 退院直後の1か月で状態が変わることがある。良くなることもあれば、その逆も
急ぐ部分は工事のいらない福祉用具でしのぎ、落ち着いてから本工事を考える——現場ではこの二段構えがよく取られます。
まとめ
- 家屋調査は「家を見る日」ではなく、親御さんの動作と家を合わせる日
- PTが見ているのは玄関・トイレ・浴室・寝室。特に夜間のトイレまでの動線
- メジャーを当てているのは段差の高さと通路の幅。将来使う道具を想定している
- 家族の準備は、普段の写真・困りごとのメモ・家具を動かさないこと
- 同席できるなら必ず同席を。その場の質問が一番早い
- その場で工事を決めなくていい。急ぐところは福祉用具で
家屋調査は、専門職が家を採点しに来る日ではありません。ご家族が一番聞ける日です。
「素人なので教えてください」と言っていただければ、私たちは喜んで説明します。どうか、遠慮せずに聞いてください。
(退院前の会議で聞いておくことは退院前カンファレンスの記事にまとめています)
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