家屋調査で、私たちはメジャーを持って家を回ります。
ご家族から見ると「何をそんなに測っているのだろう」と思われるかもしれません。
以前の記事「退院前の家屋調査で、PTは家のどこを見ているのか」では、どの場所を見ているかをお話ししました。今回はその続きで、そこで何を測り、その数字が何を決めるのかを書きます。
この記事の結論
- 私が家屋調査で必ず測るのは5か所:上がり框の高さ/廊下と扉の幅/浴槽の縁の高さとまたぎの深さ/階段の一段の高さ/家の中の段差
- 測るのは家にある段差ぜんぶではなく、入院前の動線を聞いて、退院後に毎日通る場所だけ
- 同じ20cmでも、片足で20cm上がれる人と上がれない人で、対応が変わります
- 数字が分かると、工事が要るのか、道具で済むのか、置き方を変えるだけでいいのかが決まります
- ご家族が先に測っておくと、調査当日の話が早くなります
測るのは「家」ではなく「家と本人の差」です
最初に、いちばん大事なことを。
同じ家でも、住む人が違えば結果が変わります。
| 上がり框 | Aさん(片足で25cm上がれる) | Bさん(片足で10cmが限界) |
|---|---|---|
| 高さ20cm | 何もしなくていい | 踏み台か手すりが要る |
メジャーで測っているのは「家の数字」ですが、それを本人の動作と並べて初めて意味が出ます。
私が家屋調査でやっている順番は、こうです。
- 入院前、家の中をどう動いていたかを聞く(寝室はどこか、トイレへはどう行くか、風呂は毎日か、玄関はどちらから出るか)
- 退院後、どう動くことになるかを想定する(今の体で、同じ動線を使えるか。使えないなら、どこを変えるか)
- その動線の上にある場所だけを測る
つまり、測る場所は「家にある段差ぜんぶ」ではなく、この人が退院後に毎日通る場所です。入院前から使っていなかった2階の部屋は、測りません。逆に、入院前は気にしていなかった寝室からトイレまでの2cmの敷居は、退院後の体では引っかかるかもしれない——そこを測ります。
必ず測る5か所
① 上がり框の高さ
玄関の段差です。日本の家は15〜30cmが多く、古い家ほど高い傾向があります。
| 高さ | 何が起きるか |
|---|---|
| 〜15cm | 手すりがあれば多くの方が越えられる |
| 15〜25cm | 片足で上がれるかが分かれ目。踏み台で半分にすることが多い |
| 25cm〜 | 踏み台が必須。人によっては2段 |
踏み台を置くなら、框の高さを2で割った高さが目安です。20cmなら10cmの踏み台で、1段が10cm×2段になります。
スロープにするか踏み台にするかは、車椅子かどうかで決まります。詳しくは「玄関の段差、スロープか踏み台か」に書きました。
② 廊下と扉の幅
歩行器や車椅子を使う可能性があるなら、ここが通れるかどうかの生死線です。
| 幅 | 通れるもの |
|---|---|
| 60cm | 人が歩くだけ。歩行器は難しい |
| 70cm | 歩行器は通る。車椅子は種類による |
| 80cm | 標準的な車椅子が直進できる |
| 90cm〜 | 車椅子で曲がれる(角の場合はもっと要る) |
測るのは「壁から壁」ではなく「実際に通れる幅」です。廊下に手すりを付けると、その分だけ狭くなります。「手すりを付けたら車椅子が通れなくなった」は、実際に起きる失敗です。
扉は、開いた状態での有効幅を測ります。ドアノブや枠の出っ張りで、思ったより狭いことがあります。
車椅子が本当に通れる幅の話は「車椅子が本当に通れる廊下の幅」にまとめました。
③ 浴槽の縁の高さと、またぎの深さ
浴室でいちばん危ないのは、浴槽をまたぐ瞬間です。測るのは2つ。
| 測る場所 | 意味 |
|---|---|
| 洗い場の床から浴槽の縁までの高さ | 足を上げる高さ |
| 浴槽の縁から浴槽の底までの深さ | またいだ後に足を下ろす深さ |
縁の高さが45cmを超えると、多くの高齢の方は片足を上げて越えるのが難しくなります。そのときは浴槽台(浴槽の中に置く台)や、浴槽の外に置く踏み台で、「上げる高さ」と「下ろす深さ」を減らします。
浴槽の手すりは、縦か横かで役割が変わります。「浴室の手すり、縦か横か」をどうぞ。
④ 階段の一段の高さ(蹴上げ)
寝室が2階にある家では、階段が通れるかどうかで生活が変わります。
| 一段の高さ | |
|---|---|
| 〜18cm | 手すりがあれば昇り降りできる方が多い |
| 18〜22cm | 手すりの両側設置を考える |
| 22cm〜 | 昇り降りそのものを見直す(1階に寝室を移すなど) |
古い家の階段は20cmを超えることが珍しくありません。手すりを付けても、一段が高すぎると足が上がらない。そのときは階段を直すより、1階で生活を完結させるほうが現実的です。「手すりで住み続けるか、住み替えるか」で書いた「1階だけで暮らせるか」は、この数字から来ています。
⑤ 家の中の段差
敷居、部屋の境目、浴室の入口、ベランダへの出口。家の中には小さな段差がいくつもあります。
| 高さ | 何が起きるか |
|---|---|
| 〜2cm | すり足の方はつまずく。見落とされやすい |
| 2〜5cm | ミニスロープで解消できる |
| 5cm〜 | 工事で段差解消、または踏み台 |
2cmでつまずく——ここは家族が「まさか」と思う数字です。すり足になっている方は、足が想像以上に上がっていません。
測らないもの
逆に、家屋調査で私があまり測らないものもあります。
| 理由 | |
|---|---|
| 便座の高さ | 補高便座(便座の上に置く台)で調整できる。測るより「立ち座りができるか」を見る |
| ベッドの高さ | 介護ベッドなら可変。据え置きなら「座って足の裏が床につくか」を見る |
数字を測るより、動作を見るほうが早い場所は、動作を見ます。
数字が決めるのは「工事か、道具か、置き方か」
5か所の数字が出ると、対応が3つに分かれます。
| 数字の意味 | 対応 |
|---|---|
| 本人の動作で越えられる | 何もしない、または置き方を変える |
| 少し足りない | 道具(踏み台・浴槽台・ミニスロープ)で埋める |
| 大きく足りない | 工事(段差解消・手すり・扉の交換) |
工事は最後の手段です。数字を見て「道具で埋まる差なのか、工事でしか埋まらない差なのか」を判断するのが、家屋調査の一番の仕事だと思っています。
工事にするか道具で済ませるかの考え方は「工事にするか、道具で済ませるか」に書きました。
ご家族が先に測っておくなら
調査の前に、ご家族がこの5か所を測ってメモしておくと、当日の話が早くなります。
□ 上がり框の高さ __cm
□ 廊下の幅(一番狭い所) __cm
□ トイレの扉の幅(開けた状態)__cm
□ 浴槽の縁の高さ __cm
□ 階段の一段の高さ __cm
□ 家の中の段差(場所と高さ)____
スマホの写真に、メジャーを当てた状態で撮っておくとなお良いです。
20万円を超える工事になったら
段差解消や手すりの取付けは、介護保険の住宅改修(上限20万円)で対応できることが多いです。ケアマネジャー経由で業者が決まり、自分で探す必要はあまりありません。
ただ、浴室の改修や階段まわりの大がかりな工事で20万円を超えると、枠の外は自費になり、業者を自分で選ぶことになります。そのときは複数社から見積もりを取ってください。見積もりの見方は「介護リフォームの見積もり、どこを見るか」にまとめました。
この記事のまとめ
- 家屋調査で必ず測るのは5か所:上がり框・廊下と扉の幅・浴槽の縁とまたぎ・階段の一段・家の中の段差
- 順番は入院前の動線を聞く → 退院後の動線を想定する → その上にある場所を測る
- 上がり框は踏み台で半分に、廊下は80cmで車椅子が直進、浴槽の縁は45cmが分かれ目、階段は20cm超で見直し、段差は2cmでもつまずく
- 便座・ベッドの高さは測るより動作を見る
- 数字が決めるのは工事か、道具か、置き方か。工事は最後の手段
- ご家族が先に5か所を測っておくと、調査当日が早い
制度の内容は、お住まいの市区町村によって異なります。ケアマネジャーまたは市区町村の窓口でご確認ください。
親の家をどうするかの全体像は「「親の家、どうする?」完全ガイド」にまとめています。





