「介護保険の20万円では、足りませんでした」
浴室をまるごと直す。段差をなくす。トイレを広げる。 こうなると、20万円ではとても収まりません。
そして——超えた分は、全額自費です。
私は訪問リハビリの理学療法士として介護の現場に入り、大家として11年、工事の見積もりを何十枚も見てきました。
その両方から言えるのは、「同じ工事でも、業者によって金額がまるで違う」ということです。
この記事では、自費の部分で損をしないための5つの軸をお話しします。
この記事の結論
- 介護保険で足りない分は全額自費。ここで金額が大きく動きます
- 同じ工事で、見積もりが2倍近く違うことは珍しくありません
- 選ぶ軸は5つ:①介護の工事に慣れているか ②見積もりが項目別か ③現場を見たか ④資格 ⑤アフターフォロー
- 必ず3社は比べてください。1社だけでは、その金額が高いか安いか分かりません
- ケアマネジャーの紹介1社だけで決めない(紹介が悪いのではなく、比べる相手がいないから)
- 100点の業者はいません。 合計・仕上がり・対応・相性の4つで、総合で判断してください
まず、どこから自費になるのか
介護保険の住宅改修は、工事費20万円分までが対象です。
20万円の工事(自己負担1割の場合)
↓
自己負担 2万円
問題は、超えた分です。
50万円の工事
↓
20万円まで … 自己負担2万円
残り30万円 … 全額自費
↓
合計 32万円
つまり、金額が動くのは「超えた部分」だけです。そして、ここは業者の言い値になります。
制度そのものは「介護保険の住宅改修費20万円」に、対象外の工事は「「介護保険の対象外です」と言われた工事」にまとめました。
見積もりは、本当に倍違います
大家として、同じ内容で複数社に見積もりを取ってきました。 同じ工事なのに、2倍近く違うことは珍しくありません。
理由は、下請けに出しているか自社の職人か/材料の仕入れ先/介護の工事に慣れているか——そして相見積もりだと知っているかどうかです。
「他社さんにも聞いています」と伝えるだけで、出てくる金額が変わります。駆け引きではなく、普通のことです。
軸①|介護の工事に慣れているか
これが最優先です。
普通のリフォーム会社と、介護の工事に慣れた会社では、出てくる提案がまったく違います。
| 慣れていない会社 | 慣れている会社 | |
|---|---|---|
| 手すりの位置 | 図面で決める | 実際に動作を見て決める |
| 段差 | 全部なくそうとする | 残したほうがいい段差を知っている |
| 相談相手 | 施主(子世代) | ケアマネ・PT/OTとも話す |
「段差を全部なくす」が正解とは限りません。
わずかな段差は、体が場所を覚える手がかりになります。全部フラットにすると、かえって転ぶ方もおられます。
見分ける質問
「介護保険の住宅改修は、年間どれくらい手がけていますか?」 「ケアマネジャーさんと打ち合わせしていただけますか?」
2つ目に渋る会社は、避けたほうがいいです。介護の工事は、専門職と話せないと合いません。
軸②|見積もりが「項目別」になっているか
「一式 ◯◯万円」は要注意です。
❌ 浴室改修工事一式 480,000円
これでは、どこまでが介護保険の対象か分かりません。 比べることもできません。
- ⭕ 手すり取付(2か所) 32,000円
- ⭕ 床材変更(滑り止め) 88,000円
- ⭕ 段差解消(脱衣所〜浴室) 45,000円
- ⭕ 浴槽交換 280,000円 ← 対象外
- ⭕ 諸経費 35,000円
こう分かれていれば、「どこが保険で、どこが自費か」が一目で分かります。
項目別にしてほしいと頼んで、渋る会社は避けてください。
軸③|現場を見てから見積もりを出したか
電話や写真だけで金額を出す会社があります。
介護の工事で、それは無理です。
- 壁に下地があるか
- 床下がどうなっているか
- その人が実際にどう動くか
どれも、行かないと分かりません。
現場を見ずに出した見積もりは、後から必ず増えます。「開けてみたら下地がなくて」——これが一番多い追加費用です。
軸④|資格を持った人がいるか
名前だけの資格もありますが、目安にはなります。
| 資格 | 意味 |
|---|---|
| 福祉住環境コーディネーター2級 | 住宅改修の理由書を書ける |
| 建築士 | 構造の判断ができる |
| 増改築相談員 | リフォームの実務経験が要件 |
とくに1つ目は、実務で効きます。 理由書が書けないと、ケアマネジャーの負担が増えます。
理由書については「住宅改修の「理由書」は誰が書くのか」もどうぞ。
軸⑤|終わったあとの話をするか
ここで会社の姿勢が出ます。
- 「手すりがぐらついたら、連絡ください」
- 「1年後に、また見に来ます」
こう言う会社は、信頼できます。
介護の工事は、つけて終わりではありません。 体が変われば、位置も変わります。
「工事したら終わり」の会社は、1年後に困ります。
では、どうやって3社を探すか
ここが、いちばん面倒なところです。
- ケアマネジャーの紹介
- 地元の工務店
- 一括見積もりサービス
①は必ず入れてください。 ただし、①だけで決めないでください。
紹介が悪いのではありません。 比べる相手がいないと、その金額が高いか安いか分からないからです。
一括見積もりを使うときの注意
便利ですが、そのままでは介護の工事に合いません。
- 出てくるのは「リフォーム会社」であって
- 「介護の工事に慣れた会社」とは限らない
だから、申し込むときに必ず書いてください。
「介護保険の住宅改修を含みます」 「高齢の親が住む家です」
この一言があるかないかで、来る会社が変わります。
先に言っておきます。電話は、かかってきます
一括見積もりは、申し込むと必ず確認の電話が来ます。
「しつこい営業」ではなく、「どんな工事をしたいのか」を聞き取るための電話です。メールだけで済ませたい方には、正直めんどうです。
電話が苦手なら、地元の工務店に直接あたるほうが向いています。
そして、紹介される会社にも当たり外れがあります。 サービスが選んだ会社だから安心、ではありません。この記事の軸で見てください。
申し込んだら、必ず全社と会ってください。 金額だけで選ぶと、上の5つの軸が見えません。
大家として、いちばん大事だと思っていること
ここまで5つの軸をお話ししましたが、正直に言います。
100点の業者は、いません。
得意・不得意が、必ずあります
何十枚も見積もりを見てきて、はっきり分かったことがあります。
- A社 手すりや建具は安い
- でも水回りは高い
- B社 浴室はうまい
- でも段差解消は雑
会社によって、得意な工事と苦手な工事があるのです。そして、得意なものは安く、苦手なものは高く出てきます。
だから「A社が全部安い」ということは、まず起きません。
見るのは「1項目」ではなく「合計」
ここを間違えると、いつまでも決まりません。
| 見方 | |
|---|---|
| 全部の項目で一番安い会社を探す | そんな会社は存在しない |
| 合計が相場に収まっているか | これを見る |
1つ2つ高い項目があっても、全体で見て納得できるなら、それでいいと思います。
私が、最後に見ている4つ
金額の次に、というより金額と同じくらい見ているのが、この4つです。
| ① 合計が相場に収まっているか | 1項目ずつでなく、総額で見る |
| ② 仕上がりがいいか | 安くても雑だと、やり直しになる |
| ③ 対応が安心できるか | 連絡が遅い会社は、工事中も遅い |
| ④ 相性が合うか | 話しにくい相手とは、長く付き合えない |
ただし「話しやすい=いい業者」ではありません
ここは、誤解されやすいところです。
職人さんには、話すのが得意でない方が多くおられます。説明が短い。愛想がない。でも——そういう方のほうが、仕事が丁寧なことが多いのです。
| ❌ 話が上手で感じがいい | 仕事も丁寧、とは限らない |
| 口数が少ない | でも仕上がりはきれい |
見るのは「感じの良さ」ではなく、「聞いたことに、自信を持って答えられるか」です。
私がやっているのは、2つだけです
気の利いた質問を用意する必要はありません。 私が実際にやっているのは、この2つだけです。
① 現地で、一緒に見ながら決める
見積もりを待つのではありません。 現場に立ち会って、その場で工事箇所を決めます。
「ここに手すりをつけたい」 「この段差はどうしますか」
一緒に歩きながら決めると、認識のズレが起きません。
写真と図面だけでやりとりすると、出てきた見積もりで必ず話が食い違います。
② 出てきた見積もりを、打ち合わせた内容と突き合わせる
ここを飛ばす方が、とても多いです。
見積もりには、両方向のズレが起こります。
| 抜けている | 多すぎる |
|---|---|
| 打ち合わせた工事が入っていない | 頼んでいない工事が入っている |
| → あとから追加費用になる | → そのまま払うと損 |
どちらも、実際に何度もありました。
「打ち合わせのとき、これも話しましたよね」 「これは頼んでいないと思うのですが」
悪気があるわけではありません。現場で聞いた話と、事務所で作る見積もりの間で、情報が抜けるだけです。だから確認するのが普通です。
そのときの答え方で、業者は分かります
| 信頼できる | 心配 |
|---|---|
| 「すみません、抜けていました」とすぐ直す | 「そうでしたっけ」で終わる |
| 「これは要らないので外します」と言える | 全部そのまま残そうとする |
| 金額の内訳を、その場で説明できる | 「だいたいこれくらいで」 |
とくに2つ目です。
こちらが頼んだ工事を「それは要らない」と言える人は、売上より先に、こちらのことを考えています。
「分かりません」も、いい答えです
誤解しないでほしいのですが、「即答できること」が大事なのではありません。
- ❌ 「たぶん大丈夫だと思います」 ← 曖昧
- 「開けてみないと分かりません。調べて連絡します」
後者のほうが、はるかに信頼できます。
分からないことを、分かったふりで流す人——これが、いちばん危ないです。
あとで「聞いていた話と違う」となります。
そして、④は長い付き合いになります
介護の工事は、一度で終わりません。
今年 手すり → 翌年 段差解消 → その次 浴室
そのたびに、同じ会社と話すことになります。
「この人になら、また頼める」と思えるかどうか。 これは見積書には出てきません。会ってみないと分かりません。
相見積もりを取るときの、たった1つのコツ
全社に、まったく同じ条件を伝えることです。
❌ A社には「手すりを2本」
B社には「手すりを2〜3本」
↓
比べられなくなる
紙に書いて、同じものを渡してください。
- ・どこに、何を、いくつ
- ・介護保険を使うこと
- ・いつまでに終わらせたいか
口で伝えると、必ずずれます。
そもそも、工事が要らないこともあります
最後に、いちばん大事なことを。
20万円を超える工事を考える前に、一度立ち止まってください。
本当に、その工事が必要ですか?
↓
道具で済むかもしれません
自治体の助成が使えるかもしれません
私は訪問リハビリで、「せっかく直したのに使っていない」設備を何度も見てきました。
工事と道具の使い分けは「工事にするか、道具で済ませるか」に、自治体の助成は「【東京23区一覧】介護保険とは別の高齢者住宅改修助成」にまとめました。
先にこちらを読んでからでも、遅くありません。
この記事のまとめ
- 20万円を超えた分は全額自費。ここで金額が大きく動く
- 同じ工事で見積もりが2倍近く違うことがある
- 軸①介護の工事に慣れているか(段差を全部なくすのが正解とは限らない)
- 軸②見積もりが項目別か(「一式」は比べられない)
- 軸③現場を見たか(見ずに出した見積もりは後から増える)
- 軸④資格(福祉住環境コーディネーター2級は理由書が書ける)
- 軸⑤終わったあとの話をするか(体が変われば位置も変わる)
- 必ず3社。ケアマネの紹介1社だけで決めない
- 一括見積もりでは「介護保険の住宅改修を含む」と必ず書く
- 一括見積もりは申し込むと確認の電話が来る。電話が苦手なら地元の工務店に直接あたるほうが向いている
- 全社に同じ条件を紙で渡す
- 100点の業者はいない。会社ごとに得意・不得意があり、全部安い会社は存在しない
- 見るのは1項目でなく合計。そして仕上がり・対応・相性
- 「話しやすい=いい業者」ではない。口数が少なくても仕事が丁寧な職人は多い
- 現地で一緒に見ながら決め、出てきた見積もりを打ち合わせ内容と突き合わせる
- 見積もりは「抜けている」ことも「多すぎる」こともある。どちらも確認する
- 見るのは「聞いたことに自信を持って答えられるか」。「だいたい」「たぶん大丈夫」で流す人は危ない
- 「それは要らない」と言える業者を選ぶ。全部すすめてくる業者より信頼できる
- 介護の工事は一度で終わらない。「また頼める人か」は見積書に出てこない
- そもそも工事が要らないこともある。先に道具と助成を確認
介護保険の住宅改修の対象・手続き・上乗せ助成は、市区町村によって異なります。工事を頼む前に、必ずケアマネジャーまたはお住まいの市区町村の窓口でご確認ください。
親の家をどうするかの全体像は「「親の家、どうする?」完全ガイド」に、浴室に絞った話は「浴室リフォームで転倒を防ぐ」にまとめています。





