「介護保険の住宅改修は、20万円まで」
これはよく知られています。でも——その20万円では、浴槽の取替えができません。
介護保険の住宅改修で認められるのは、手すり・段差解消・床材の変更・扉・便器の5種類だけ。古くて深い浴槽をまたげないという、いちばんよくある悩みは、対象外なのです。
ところが東京23区には、それを助成する別の制度があります。
しかも——区によって、上限額が2倍以上違います。
この記事の結論
- 東京23区には、介護保険とは別枠の住宅改修助成があります
- 大きく2種類。①介護保険が使えない人向け ②浴槽・流し・便器の取替え(介護保険では対象外)
- 多くの区は「東京都の基準額」どおり(浴槽37万9千円・流し15万6千円・便器10万6千円)
- 中野区・墨田区・板橋区・北区・足立区は、この基準より低い設定です
- 階段昇降機は、区によって30万円〜200万円と6倍以上の差があります
- 所得制限がある区があります。中野区は世帯全員が前年所得200万円未満
1. そもそも、どういう制度か
正式には「高齢者自立支援住宅改修給付事業」などと呼ばれます(名前は区ごとに違います)。
介護保険の住宅改修とはまったく別の財布です。区が独自にやっています。
種類は大きく2つあります。
① 予防給付(介護保険が使えない人向け)
要介護認定で「非該当(自立)」と判定された方が対象です。
工事の内容は介護保険とまったく同じ(手すり・段差解消・床材変更・扉・便器)。認定が下りなかった人でも、同じ工事ができるという制度です。
「認定が非該当だったので、あきらめた」——この方が、いちばん損をしています。
② 設備改修給付(要支援・要介護の人向け)
こちらが本命です。介護保険では対象外の工事が対象になります。
- 浴槽の取替え(深い浴槽 → またぎやすい浅い浴槽へ)
- 流し・洗面台の取替え
- 便器の洋式化
- 区によっては階段昇降機
介護保険の20万円を使い切っていても、こちらは別に使えます。
介護保険の住宅改修そのものについては「介護保険の住宅改修費20万円」に基本をまとめています。
2. 【一覧】予防給付(介護保険が使えない人向け)
| 区 | 上限額 | 備考 |
|---|---|---|
| 千代田区 | 20万円 | |
| 中央区 | 20万円 | |
| 港区 | 20万円 | |
| 新宿区 | 20万円 | |
| 文京区 | — | 設備改修は要支援以上のみ |
| 台東区 | 20万円 | |
| 墨田区 | 20万円 | |
| 江東区 | 20万円 | |
| 品川区 | 20万円 | |
| 目黒区 | 20万円 | |
| 大田区 | — | 設備改修給付のみ |
| 世田谷区 | 20万円 | |
| 渋谷区 | — | 設備改修給付のみ |
| 中野区 | 20万円 | |
| 杉並区 | 20万円 | 手すり・便器のみ |
| 豊島区 | 20万円 | |
| 北区 | 10万円 | 半額 |
| 荒川区 | 20万円 | +転倒防止手すり6万円(70歳以上) |
| 板橋区 | 10万円 | 半額 |
| 練馬区 | 20万円 | |
| 足立区 | 20万円 | |
| 葛飾区 | 20万円 | |
| 江戸川区 | ◯ | 「住まいの改造助成」に含まれる |
北区と板橋区は10万円です。他区の半分になります。
杉並区は金額は20万円ですが、対象が「手すりの取付け」と「便器の洋式化」だけに絞られています。段差解消や床材の変更は入りません。
3. 【一覧】設備改修給付——ここが本命です
浴槽・流し/洗面台・便器の上限額です。
東京都の基準額は、浴槽 37万9千円/流し・洗面台 15万6千円/便器 10万6千円。多くの区がこれをそのまま使っています。
| 区 | 浴槽 | 流し・洗面台 | 便器 |
|---|---|---|---|
| 千代田区 | 37.9万 | 15.6万 | 10.6万 |
| 中央区 | 37.9万 | 15.6万 | 10.6万 |
| 港区 | 37.9万 | 15.6万 | 10.6万 |
| 新宿区 | 37.9万 | 15.6万 | 10.6万 |
| 文京区 | 37.9万 | 15.6万 | 10.6万 |
| 台東区 | 37.9万 | 15.6万 | 10.6万 |
| 墨田区 | 20万 | 20万 | 20万 |
| 江東区 | 37.9万 | 15.6万 | 10.6万 |
| 品川区 | 37.9万 | 15.6万 | 10.6万 |
| 目黒区 | 37.9万 | 15.6万 | 16.2万 |
| 大田区 | 37.9万 | 15.6万 | 10.6万 |
| 世田谷区 | 37.9万 | 15.6万 | 10.6万 |
| 渋谷区 | 37.9万 | 15.6万 | 記載なし |
| 中野区 | 20万 | 13万 | 9万 |
| 杉並区 | 37.9万 | 15.6万 | 10.6万 |
| 豊島区 | 37.9万 | 15.6万 | 10.6万 |
| 北区 | 20万 | 15.6万 | 10.6万 |
| 荒川区 | 37.9万 | 15.6万※ | 10.6万 |
| 板橋区 | 20万 | 15万※ | 記載なし |
| 練馬区 | 25万 | 15.6万 | 10.6万 |
| 足立区 | 20万 | 15.6万※ | 10.6万 |
| 葛飾区 | 37.9万 | 15.6万 | 記載なし |
| 江戸川区 | 37.9万 | 15.6万 | 10.6万 |
※荒川区の流し・洗面台は要介護4・5で車椅子を利用する方のみ。板橋区・足立区は車いす用に限定。
読み取れること
浴槽で差がいちばん大きい
| 区 | 浴槽の上限 | |
|---|---|---|
| 練馬区 | 25万円 | 都基準より高い |
| 都基準 | 37.9万円 | 多数派 |
| 中野区 | 20万円 | 都基準の約半分 |
| 墨田区 | 20万円 | |
| 北区 | 20万円 | |
| 板橋区 | 20万円 | |
| 足立区 | 20万円 |
浴槽の取替えは、工事費が30万〜50万円になることが多い工事です。上限が20万円か37.9万円かで、自己負担が十数万円変わります。
目黒区は便器が16.2万円と、都基準より高く設定されています。
4. 【一覧】階段昇降機——6倍以上の差があります
2階に上がれなくなった方には、これが大きい。ただし、扱っていない区のほうが多いです。
| 区 | 上限額 |
|---|---|
| 江戸川区 | 200万円(段差解消機も同額) |
| 中央区 | 直線87.6万円/曲線185.4万円 |
| 足立区 | 133.2万円(いす式) |
| 葛飾区 | 機器97.9万円+設置費35.3万円 |
| 千代田区 | 100万円(+ホームエレベーター70万円) |
| 練馬区 | 100万円※ |
| 江東区 | 80万円 |
| 品川区 | 40万円 |
| 渋谷区 | 30万円※ |
※練馬区は病院・施設から退院退所した方で階段昇降が困難な方のみ。渋谷区は要介護3〜5が条件。
上記以外の区は、この資料に記載がありません。制度がないのか、別の枠組みなのかは、区の窓口に確認してください。
千代田区だけ、さらに独自の項目があります。 ホームエレベーター70万円/IHクッキングヒーター20万円/卓上用IH 2万円。
5. 金額の前に、確認すべきこと3つ
① 所得制限がある区があります
| 区 | 条件 |
|---|---|
| 中野区 | 世帯全員の前年所得が200万円未満 |
| 世田谷区 | 全世帯員の前年所得合算が623万2千円以下 |
中野区の200万円未満は、かなり厳しい基準です。年金だけで暮らしている世帯でないと、まず通りません。
② 工事の前に申請しないと、1円も出ません
これが最大の落とし穴です。
どの区も流れは同じで、「相談 → 訪問調査 → 見積 → 申請 → 決定 → 工事」の順です。
先に工事をしてしまうと、あとから申請しても対象外になります。「安くしてくれる業者が見つかったから、すぐお願いした」——これで受けられなくなった方がいます。
③ 「受領委任払い」が使えると、立替えが要りません
原則は、いったん全額を業者に払って、あとから区が助成分を返す形です。数十万円を先に用意する必要があります。
ところが区によっては、自己負担分だけを業者に払えばいい形にできます。これを受領委任払いといいます。
東京都の資料で、この形が読み取れるのは——
中央区・新宿区・大田区・中野区・練馬区・足立区
記載がない区でも、実際には対応している場合があります。この資料に書かれていないだけかもしれません。必ず窓口で「立替えなしでできますか」と聞いてください。
現場から:「もうシャワーだけです」という方は、本当に多いです
訪問リハビリでうかがっていると、入浴をあきらめてシャワーだけで済ませている方に、何人もお会いします。
理由を聞くと、だいたい2つに分かれます。
① 浴槽のふちをまたげない ② 浴槽の中で、しゃがんだり立ち上がったりできない
入るところと、入ってからの立ち座り。この2か所でつまずいています。
ご本人は「年だから仕方ない」とおっしゃいます。ご家族も、そう思っておられます。
でも——浅い浴槽に替えると、この2つが同時に変わります。またぐ高さが下がり、しゃがむ深さも浅くなる。手すりを1本つけただけでは届かなかったところに、届くことがあります。
そして、ここが大事なところです。
浴槽の取替えは、介護保険の住宅改修ではできません。手すりはつけられます。床も替えられます。でも浴槽そのものには手が出せないのです。
だから、この制度が要ります。
6. まとめ
- 東京23区には、介護保険の20万円とは別枠の住宅改修助成がある
- 介護保険では対象外の「浴槽の取替え」が対象になるのが最大の価値
- 都基準は浴槽37.9万/流し15.6万/便器10.6万。多くの区がこのまま
- 中野・墨田・北・板橋・足立は浴槽が20万円と低い。練馬区は25万円
- 階段昇降機は30万〜200万円と6倍以上の差。扱いのない区も多い
- 中野区・世田谷区には所得制限あり
- 工事の前に申請。先に工事をすると1円も出ません
「介護保険の20万円で足りないから、あきらめる」——その前に、お住まいの区の窓口に一度電話してください。制度があることを知らないまま、自費で工事をしている方が本当に多いです。
この記事の金額は、東京都福祉局が公開している「令和8(2026)年度 住宅改善事業(バリアフリー化等)区市町村別事業概要一覧」をもとにしています。制度は年度ごとに変わります。実際に申請する前に、必ずお住まいの区の窓口で最新の内容を確認してください。
賃貸住宅にお住まいの場合は「賃貸住宅でも介護の住宅改修はできる」もあわせてどうぞ。
親の家をどうするか全体の流れは「「親の家、どうする?」完全ガイド」にまとめています。
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