浴室の手すり、縦か横か——動作で決まる正解 介護リフォーム

浴室の手すり、縦か横か——動作で決まる正解

「浴室に手すりをつけたいんですが、縦と横、どっちがいいですか?」

業者さんに聞くと、たいてい「両方つけましょう」と言われます。

間違いではありません。でも、本当に必要なのは1本かもしれません。

向きを決めるのは、浴室の形ではありません。 その人が、どの動作でふらつくかです。

この記事では、動作ごとに、どちらの向きが正解かをお話しします。

この記事の結論

  • 縦は「立つ・またぐ」、横は「移動する・支える」。役割がまったく違います
  • 「とりあえず両方」は、お金の無駄になることがあります
  • 決め手は、浴室の形ではなく「その人の動作」
  • 高さを間違えると、つけても使いません
  • 迷ったら、実際に入浴動作を見てもらってください

縦と横は、役割がまったく違います

まず、ここを押さえてください。

縦手すり横手すり
得意なこと立つ・座る・またぐ横に移動する・体を支える
手の動き上下に滑らせる横に滑らせる
力の向き引き上げる横に押さえる
つける場所浴槽の横・洗い場の入口浴槽のふち沿い・壁沿い

上下に動くなら縦、横に動くなら横。これだけです。

逆につけると、使えません。立ち上がるときに横手すりを握ると、手が滑って支えになりません。


動作①|浴槽をまたぐ → 縦

浴室でいちばん危ないのが、ここです。

片足立ちになる
   ↓
床は濡れている
   ↓
しかも、またぐ動作は前傾姿勢になる

このとき体は「上下」に動きます。だから縦です。

どこにつけるか

浴槽のふちのすぐ横、壁側です。

またぐ足の反対側の手で握れる位置につけてください。右足からまたぐなら、左手の側です。

よくある失敗

浴槽から離れた位置につけてしまうことです。

手すりが遠い
   ↓
体を伸ばして握ることになる
   ↓
かえって不安定になる

手すりは「体の近く」にあってこそ効きます。


動作②|洗い場で立つ・座る → 縦

シャワーチェアから立ち上がるときも、体は上下に動きます。だから縦です。

ただし、またぎ用の手すりとは別の位置が必要になることがあります。

  • またぎ用 浴槽のそば
  • 立ち座り用 シャワーチェアの前か横

1本で兼用できるかは、椅子の位置しだいです。

先に椅子の場所を決めてから、手すりの位置を決めてください。逆にすると合いません。


動作③|浴槽の中で立ち上がる → 縦

ここを見落とす方が多いです。

浴槽の中は、足が滑ります。 お湯につかった後は、体もふらつきます。

浴槽の中で座っている
   ↓
立ち上がる(いちばん力が要る)
   ↓
またいで出る

浴槽の内側でも握れる位置に、縦手すりがあると安心です。

浴槽のふちを握って立つ方が多いのですが、ふちは滑ります。濡れた手では、なおさらです。


動作④|洗い場を横に移動する → 横

ここで初めて「横」が出てきます。

  • 入口から洗い場へ
  • 洗い場から浴槽へ

この移動は、体が横に動きます。 手を横に滑らせながら進めるので、横手すりが合います。

ただし——洗い場が狭い浴室では、いりません。 1〜2歩で着くなら、壁に手をつけば十分です。


高さを間違えると、つけても使いません

ここが、いちばん大事かもしれません。

縦手すりの高さ

  • 下端 立ち上がる前に握れる高さ(座った状態で手が届く)
  • 上端 立ち上がりきったときに、まだ握れる高さ

縦手すりは「長さ」が命です。 短いと、途中で手を持ち替えることになります。

持ち替える瞬間が、いちばん危ないです。

横手すりの高さ

立った状態で、軽く肘が曲がる高さが目安です。

高すぎると、肩に力が入って体が伸びてしまいます。 低すぎると、前かがみになって危険です。


「とりあえず両方」が損になる理由

業者さんが両方すすめるのには、理由があります。

「どちらが必要か分からないから、両方つければ間違いはない」——そう考える方が多いです。

間違ってはいません。 でも、介護保険の枠は20万円です。

浴室に手すり2本
   ↓
枠を使い切る
   ↓
玄関やトイレに手が回らない

浴室だけで完結する人は、あまりいません。 家の中で危ないのは、浴室だけではないからです。

必要な1本を見極めれば、枠を残せます。枠の使い方は「介護保険の住宅改修費20万円」にまとめました。


決め方は、ひとつだけ

カタログを見ても、決まりません。

実際に、お風呂に入るところを見てもらってください。

訪問リハビリを使っている追加費用なしで相談できます
ケアマネジャーに頼む専門職の訪問を手配してもらえます

「見てもらう」といっても、裸で入るところを見せる必要はありません。

服を着たまま、動作をなぞってもらうだけで分かります。浴槽をまたぐ真似、椅子から立つ真似——それで十分です。

現場で私が見ているところ

  1. どちらの足からまたぐか
  2. どこで体が揺れるか
  3. いま、何を握って支えているか

③がいちばん参考になります。 すでに何かを握って支えている場所——そこが、手すりが必要な場所です。

タオル掛けを握っている方がおられます。 タオル掛けは、体重を支えるようにはできていません。見つけたら、すぐ手すりに替えてください。


工事の前に、置き型で試せます

迷ったら、まず道具で試してください。

浴槽用の手すり(浴槽のふちに挟むタイプ)
   ↓
工事なしで、またぎの補助になる
   ↓
使ってみて足りなければ、工事を考える

工事は、やり直せません。 道具なら返せます。

工事と道具の使い分けは「工事にするか、道具で済ませるか」に、浴室全体の考え方は「浴室リフォームで転倒を防ぐ」にまとめています。

この記事のまとめ

  • 縦=立つ・またぐ/横=横に移動する。役割がまったく違う
  • 動作①またぐ → 縦(浴槽のふちのすぐ横に。離すと不安定)
  • 動作②立ち座り → 縦(先に椅子の位置を決めてから)
  • 動作③浴槽の中で立つ → 縦(ふちを握るのは滑るので危険)
  • 動作④洗い場を移動 → 横(狭い浴室ならいらないことも)
  • 高さと長さを間違えると、つけても使わない
  • 「とりあえず両方」は20万円の枠を無駄に使う
  • 決め手は動作。実際に動くところを見てもらう(服を着たままで十分)
  • すでに何かを握っている場所=手すりが必要な場所

手すりの位置・高さは、体格や状態によって変わります。必ずケアマネジャーや理学療法士・作業療法士など専門職に相談のうえ、決めてください。また、介護保険の住宅改修の対象や手続きは市区町村によって異なる場合があります。申請の前に、お住まいの市区町村の窓口でご確認ください。

手すり全体の選び方は「手すり 設置場所と種類の選び方」に、家のどこが危ないかは「転倒しやすい家の特徴5つ」にまとめています。

けいすけ(運営者)

理学療法士(訪問リハビリ歴10年以上)× 宅地建物取引士 × 賃貸不動産経営管理士 × 大家歴10年以上。 医療と不動産、両方の現場から見えてくる「親の家のリアル」を、なるべくフラットな視点で発信しています。