親御さんの退院が近づくと、病院から「退院前カンファレンスをします」と言われることがあります。
聞き慣れない言葉ですが、要するに関係者が集まる打ち合わせです。お医者さん、看護師さん、リハビリの担当者、ケアマネジャー、そして退院後に関わるサービスの人たち。そこにご家族も同席します。
病院に勤めていたころ、私はこの場に何度も参加していました。いまは訪問リハビリの立場で、退院された方のご自宅にうかがう側にいます。
送り出す側と、受け取る側。 その両方を見てきて、毎回思うことがあります——ご家族が、ほとんど質問しないまま終わってしまうということです。
専門職どうしが専門用語で話しているので、口を挟みにくい。気づいたら「では退院後もよろしくお願いします」で終わっている。
でも、この場は本来、ご家族のためにあります。 今日は、何を聞いておけばいいのかをお話しします。
この記事の結論
- 退院前カンファレンスは、家族が情報を受け取る最大のチャンス
- つい「いつ退院ですか」だけ聞いて終わりがちだが、それは事務連絡
- 聞くべきは「家に帰ってからの生活が、具体的にどうなるか」
- 特に重要なのが「どこまで自分でできて、どこから手伝いが要るか」
- 悪くなるサインと、そのときの連絡先を確認しておくと、家族の不安が大きく減る
- 遠慮しなくていい。分からないことを言うのは、迷惑ではありません
1. 退院前カンファレンスとは何か
正式には「退院前合同カンファレンス」「退院時共同指導」などと呼ばれます。
病院側(医師・看護師・リハビリ職・ソーシャルワーカー)と、在宅側(ケアマネジャー・訪問看護・訪問リハビリ・福祉用具の担当者など)、そしてご家族が一堂に会します。
目的はシンプルで、「病院での状態を、在宅チームに引き継ぐ」ことです。時間は30分〜1時間程度が一般的です。
つまりご家族にとっては、関係者全員が同じ部屋にそろう、最初で最後の機会なのです。あとから個別に聞こうとすると、それぞれに連絡を取らなければなりません。
ここで聞かないと、かなり損をします。
2. 家族が聞いておきたい5つのこと
① どこまで自分でできて、どこから手伝いが要るか
これが一番大事です。
「歩けますか?」ではなく、具体的な動作で聞いてください。
- ベッドから起き上がるのは、ひとりでできますか
- トイレまで歩けますか。夜中もですか
- ズボンの上げ下ろしは
- お風呂は、どこまでできますか
- 階段は上れますか
「だいたい自立しています」という説明を、そのまま受け取らないでください。病院は手すりだらけで、床は平らで、明るくて、看護師さんが近くにいます。家はまったく別の環境です。
「病院ではできているが、家では難しそうな動作はどれですか」——この聞き方が、いちばん実態に近い答えを引き出せます。
② 家で危ないのはどこか
リハビリの担当者は、退院前に自宅の間取りを想定して動作を練習していることがあります。
- 家の中でいちばん転びやすいのはどこだと思いますか
- 段差で気をつけるところは
- 夜、トイレに行くときが心配なんですが
具体的に聞くと、具体的な答えが返ってきます。ここで得た情報は、住宅改修や手すりの設置を考えるときの土台になります。
(家の中の危険な場所については転倒しやすい家の特徴にもまとめています)
③ 悪くなるサインは何か
これは意外と聞かれませんが、ご家族の不安をいちばん減らしてくれる質問です。
- どういう状態になったら、受診したほうがいいですか
- 「様子を見ていい」のと「すぐ連絡」の境目はどこですか
たとえば「食事の量が3日続けて減ったら」「熱が2日続いたら」「急に歩き方が変わったら」——こういう具体的な目安をもらっておくと、家で判断に迷ったときに助かります。
④ 誰に連絡すればいいか
在宅に戻ると、関わる人が一気に増えます。ケアマネジャー、訪問看護、訪問リハビリ、かかりつけ医、福祉用具の業者……。
「何かあったとき、まず誰に電話すればいいですか」——これを最初に決めておかないと、いざというときに混乱します。
多くの場合、ケアマネジャーが窓口になります。ですが、医療的なことは訪問看護、という切り分けもあります。その線引きをこの場で確認しておいてください。
⑤ 家族は何をどこまでやることになるのか
言いにくいことですが、とても大事な質問です。
- 毎日、家族がやらなければいけないことは何ですか
- 日中ひとりにしても大丈夫ですか
- 仕事を続けながらでも回りますか
在宅介護は、始まってから「こんなはずでは」となることが多いです。始まる前に量が見えていれば、サービスを増やす相談も、仕事の調整も、事前にできます。
遠慮して聞かないでいると、あとで家族が抱え込むことになります。
3. 聞きにくいときのコツ
専門職ばかりの場で発言するのは、緊張すると思います。3つだけコツをお伝えします。
① 紙に書いていく
その場で思いつくのは難しいので、聞きたいことを紙に書いて持っていく。これだけで全然違います。読み上げるだけで済みます。
② 「素人なので教えてください」で始める
これを最初に言うと、専門職の側も説明の仕方を切り替えます。分からないことを伝えるのは、迷惑ではありません。 むしろ、分かったふりをされる方が、私たちは困ります。
③ その場で分からなければ、あとで聞く先を確保する
「今日すぐには分からないので、あとで質問してもいいですか」と聞いて、連絡先を確保しておく。これも立派な成果です。
4. カンファレンスがない場合もあります
すべての退院でカンファレンスが開かれるわけではありません。入院が短かったり、状態が安定していたりすると、開かれないこともあります。
その場合は、病院の医療相談室(地域連携室)に相談してください。ソーシャルワーカーさんが窓口です。「退院後が不安なので、話を聞く機会をもらえませんか」と伝えれば、調整してくれることがあります。
また、住宅改修を考えているなら、退院前カンファレンスの前から動き出す必要があります。介護保険の住宅改修は、申請から工事完了まで3〜4週間かかるからです(詳しくはこちら)。
まとめ
- 退院前カンファレンスは、関係者が全員そろう唯一の機会
- 聞くべきは日程ではなく、「家に帰ってからの生活が具体的にどうなるか」
- ①どこまで自分でできるか ②家で危ないのはどこか ③悪くなるサイン ④誰に連絡するか ⑤家族の負担はどれくらいか
- 聞きたいことは紙に書いて持っていく
- 「素人なので教えてください」と言っていい。分からないと言うのは迷惑ではありません
退院は、治療の終わりであって、生活の始まりです。
その始まりの設計図を作る場が、退院前カンファレンスだと思っています。どうか遠慮せずに、聞きたいことを聞いてください。私たち専門職は、聞かれることを待っています。
カンファレンスの前後に行われる家屋調査については、退院前の家屋調査で、PTは家のどこを見ているのかに書いています。
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