ポータブルトイレはどこに置くか——PTが動作で決める4つの基準

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介護リフォーム

ポータブルトイレはどこに置くか——PTが動作で決める4つの基準

「ケアマネさんにポータブルトイレを勧められたんですけど、母が嫌がって」

退院後の訪問で、よく聞く言葉です。そして、もう1つよく見るのが、寝室の隅に置いてあるのに、一度も使われていないポータブルトイレです。

ポータブルトイレは、買えば解決する道具ではありません。どこに置くかで、使われるか使われないかが決まります。この記事では、訪問リハビリの現場で私が置き場所を決めるときに見ている4つの基準を書きます。

この記事の結論

  • ポータブルトイレは「置く場所」で決まる。置いてあるのに使われていない家は、置き場所に理由がある
  • 基準①は動作。ベッドの端に座ってから、1歩・90度で座れる位置に置く。麻痺があれば、麻痺のない側
  • 基準②は介助。トイレの横に、家族が立てるすき間(60〜80cm)を残す。壁にぴったり寄せると手伝えない
  • 基準③は尊厳。ドアから見えない向き、カーテンで区切れる位置。使われない理由の多くはここ
  • 基準④は処理と匂い。誰が・いつ捨てるかを先に決める。凝固剤・消臭剤で家族の負担を減らす
  • 介護保険の特定福祉用具購入で買える。年間10万円まで・自己負担1〜3割。レンタルはできない
  • 置いたら終わりではない。「外す日」を決める。夜だけ使い、昼はトイレまで歩く

まず、2つの道があります

夜、ベッドからトイレまで歩くのが危なくなったとき、道は2つあります。

道やること向く人
トイレまで歩けるようにする手すり・足元灯・段差解消。起き上がってから30秒座る歩けるが、ふらつく人
トイレを寝室に持ってくるポータブルトイレを置く夜間の移動そのものが危ない人。回数が多い人

どちらが正しい、ではありません。本人の体と家の形で決まります。上の道は「夜間のトイレが一番危ない」に書きました。この記事は、下の道を選んだあとの話です。

置いてあるのに、使われていない家

私が訪問先で見てきた「使われていないポータブルトイレ」には、共通点があります。

  • ベッドから遠い。部屋の隅に置いてあって、結局トイレまで歩くのと変わらない
  • 向きが悪い。ベッドの端に座ってから、体を180度回さないと座れない
  • ドアから丸見え。家族が通るたびに目に入る。本人が「あれには座らない」と決めている
  • 処理の話が決まっていない。誰が捨てるか曖昧で、家族も本人も使いたくない

どれも、道具のせいではありません。置き方と、置いたあとの段取りの問題です。だから、置く前に次の4つを見ます。

判断の基準①|ベッドの端から、1歩・90度で座れるか

一番大事なのは、動作です。

ポータブルトイレを使う動作は、ベッドの端に座る、立つ、向きを変える、座る、の4つです。このうち一番転びやすいのが「向きを変える」です。夜中で、体が硬くて、頭が起きていない状態で、足を踏み替えて体を回す。ここで転びます。

だから私は、ベッドの端に座った位置から、立って1歩・90度回るだけで座れる場所に置きます。ベッドの横に、ベッドと直角になる向きです。

置き方向きを変える角度危なさ
ベッドの横に、直角90度一番少ない
ベッドの横に、平行180度足の踏み替えが増える
足元90〜180度。歩く距離が増える夜間は遠い

ベッドからの距離は、立ってから1歩(30〜50cm)が目安です。手すりや、ポータブルトイレ本体の肘かけを、立ち上がった手ですぐつかめる距離です。

もう1つ、麻痺や痛みがある側には置きません。片麻痺の方なら、麻痺のない側にベッドから降りて、麻痺のない手で肘かけをつかんで座る。この向きが決まると、ベッドのどちら側に置くかが自動的に決まります。

座面の高さも見ます。膝の高さと同じか、少し高め。低いと立ち上がれません。介護ベッドを使っているなら、ベッドの高さとポータブルトイレの座面をそろえると、移る動作が楽になります。

判断の基準②|介助する人が、横に立てるか

2つ目は介助です。

自分で移れる方なら、ポータブルトイレは壁際でも構いません。でも、立ち上がりやズボンの上げ下ろしに手伝いが要る方なら、ポータブルトイレの横に、家族が1人立てるすき間を残してください。目安は60〜80cm。大人が正面を向いて、少しかがめる幅です。

なぜ「横」かというと、手伝うときは本人の横に立つからです。前に立つと、本人が立ち上がるための空間をふさいでしまいます。

置き方家族はどこに立つか
トイレの横が壁にぴったり横に立てない。本人の前に回り、前かがみで支えることになる
トイレの横に60〜80cmのすき間本人の横に立って、腰を支えたり、ズボンを上げ下ろししたりできる

前に回って前かがみで支える介助を、夜中に毎回くり返すと、家族の腰がもちません。

介護ベッドにも、家族が立って手伝うためのすき間が要ります。その測り方は「介護ベッドを置く前に測る3つの隙間」に書きました。ベッドの横の、家族が立つすき間がある側にポータブルトイレを置くと、ベッドから立たせるときも、トイレで手伝うときも、家族は同じ場所に立ったままで済みます。

判断の基準③|本人が「見られていない」と感じられるか

3つ目は尊厳です。

現場で「嫌がる」と言われる理由を聞いていくと、多くは「恥ずかしい」です。部屋の中で用を足すこと自体より、家族の目に入る場所で座ることが嫌なのです。

だから、置く場所を決めるときに見るのは、ドアです。

  • ドアを開けたときに、正面に見えない位置にする
  • 座ったとき、背中がドア側になる向きにする
  • 家族が寝室を通り抜ける家なら、カーテンや衝立で区切れる場所にする

これは動作の基準①とぶつかることがあります。ベッドの横に直角に置くと、ドアから見える。そのときは、ベッドの向きごと変えるか、カーテンレールを1本つけます。「便利な場所」より「座れる場所」を優先する。座らなければ、どんなに便利でも意味がありません。

もう1つ、本人に「置く場所を一緒に決めてもらう」ことが効きます。決められた場所より、自分で決めた場所のほうが、人は使います。

判断の基準④|処理と匂いを、誰がどう回すか

4つ目は処理です。

ポータブルトイレは、使ったあとの処理が家族の仕事になります。ここが決まっていないと、本人は「迷惑をかける」と思って使わず、家族は「面倒」と思って勧めなくなります。

置く前に決めておくのは3つです。

  • 誰が捨てるか(朝起きた人、と決める)
  • いつ捨てるか(朝一番。ためない)
  • 匂いをどう抑えるか

匂いは、バケツに水を張るだけでも違いますが、凝固剤や消臭剤を使うと処理が楽になります。使うたびに1袋入れて、朝まとめてトイレに流す。処理用品は介護保険の対象外なので、自費で買うことになります(Amazonでポータブルトイレ用の消臭・凝固剤を探す)。ラップで包んで密封するタイプの機種もあります。

置く場所としては、窓の近くだと換気がしやすい。ただし基準①③のほうが優先です。匂いは道具で抑えられますが、動作と尊厳は道具で埋められません。

介護保険で買える——年間10万円の枠

ポータブルトイレは、介護保険の「特定福祉用具購入」の対象です。レンタルではなく、購入です。肌に直接触れるものなので、貸し借りができない扱いになっています。

項目内容
上限年間10万円(4月〜翌年3月)
自己負担1〜3割(所得による)
買う先都道府県の指定を受けた事業者から。通販や量販店で買うと対象外
手続きケアマネジャーに相談 → 事業者から購入 → 市区町村に申請

10万円の枠は、ポータブルトイレだけでなく、入浴用のいすや浴槽の手すりなども同じ枠を使います。年に何を買うかは、ケアマネジャーと相談して決めてください。

要支援1・2や要介護1の方でも買えます。介護ベッドのように「軽度者は借りられない」という制限はありません。福祉用具のレンタルと購入の分かれ目は「介護ベッドが借りられない——軽度者の福祉用具レンタルと例外給付」にまとめています。

まとめ:迷ったら、この順番で

4つの基準がぶつかることがあります。そのときの優先順位です。

  1. 動作(1歩・90度・麻痺のない側・膝の高さ)── ここを外すと転ぶ
  2. 尊厳(ドアから見えない・本人が決める)── ここを外すと使われない
  3. 介助(トイレの横に家族が立てるすき間)── 手伝いが要る人だけ
  4. 処理(誰が・いつ・匂い)── 道具で解決できる

迷ったら、まず福祉用具の担当者かケアマネジャーに「置く場所を一緒に見てほしい」と頼んでください。訪問リハビリが入っていれば、PT・OTが本人の動作を見て、ベッドのどちら側・どの向きかを決めます。

最後に、いちばん大事なこと——「外す日」を決める

ポータブルトイレは、置いたら終わりではありません。

夜だけ使う。昼はトイレまで歩く。これを最初に決めておいてください。昼間は明るく、頭も起きていて、家族もいる。トイレまで歩く練習に一番いい時間です。夜だけポータブルトイレにすれば、夜の転倒を防ぎながら、昼の歩く力を落とさずにすみます。

一日中ポータブルトイレにすると、歩く機会がなくなり、数週間で脚の力が落ちます。そうなると、今度はポータブルトイレへの移動も危なくなる。道具が体を弱らせる、という順番になります。

だから私は、置くときに「いつ外すか」も一緒に決めます。夜間の回数が減ったら。昼のトイレ歩行が安定したら。その目安を家族と本人で共有しておく。ポータブルトイレは「介護の敗北」ではなく、歩く力を守るための、一時的な道具です。

家族が今日できること

  • ベッドの端に座って、立って1歩・90度で座れる場所を探す
  • その場所が、ドアから見えるかを確かめる。見えるなら、向きかカーテンを考える
  • 誰が・いつ捨てるかを家族で決める。凝固剤・消臭剤を用意する
  • ケアマネジャーに「特定福祉用具購入で買いたい。置く場所も見てほしい」と伝える
  • 本人と「夜だけ。昼はトイレまで歩く」を約束する

この記事のまとめ

  • 使われないポータブルトイレは、置き場所に理由がある
  • 基準①動作:ベッドの横に直角、1歩・90度、麻痺のない側、座面は膝の高さ
  • 基準②介助:トイレの横に家族が立てる60〜80cm。家族が立つ側に置く
  • 基準③尊厳:ドアから見えない向き。本人に場所を決めてもらう
  • 基準④処理:誰が・いつ・匂い。凝固剤と消臭剤で家族の負担を減らす
  • 特定福祉用具購入で年10万円まで・1〜3割負担。指定事業者から買う
  • 夜だけ使い、昼は歩く。外す日を決める

制度の内容は市区町村・年度によって異なります。ケアマネジャーまたは市区町村の窓口でご確認ください。

親の家をどうするかの全体像は「「親の家、どうする?」完全ガイド」にまとめています。

けいすけ(運営者)

理学療法士(訪問リハビリ歴10年以上)× 宅地建物取引士 × 賃貸不動産経営管理士 × 大家歴10年以上。 医療と不動産、両方の現場から見えてくる「親の家のリアル」を、なるべくフラットな視点で発信しています。