「ケアマネさんから『お風呂のいすは介護保険で買えますよ』と言われたけど、何を買えばいいんだろう」
介護保険で買える道具を調べると、「腰掛便座」「入浴補助用具」といった、聞き慣れない言葉の一覧が出てきます。でも、一覧を見ても、うちの親には何が必要で、何から買えばいいのかは分かりません。
この記事では、訪問リハビリの理学療法士(PT)として、介護保険で買える道具を、どの順番で選べばいいかをまとめます。
この記事の結論
- 介護保険では、お風呂とトイレで使う道具を、年間10万円まで、1〜3割の負担で買える
- 私が訪問先でよく見るのは、シャワーチェアとポータブルトイレ
- 現場で見てきた失敗は、体や浴室に合わない、自分で先に買ってしまった、買ったけど使われていないの3つ
- 選ぶ順番は、品目からではなく、困っている動作から
- 体がこれから変わりそうなものは、買うより借りるほうがいいこともある
- 買う前に、専門職に相談して、実際に試してから決める
まず、介護保険で「買う」道具とは
介護保険の道具には、借りるものと買うものがあります。
| 借りる(福祉用具貸与) | 買う(特定福祉用具販売) | |
|---|---|---|
| 主な道具 | 車いす、介護ベッド、手すり(工事なし)など | シャワーチェア、ポータブルトイレなど |
| 考え方 | 体の変化に合わせて取り替えられる | 肌に直接ふれるので、人と使い回しにくい |
| 費用 | 毎月のレンタル料の1〜3割 | 買ったときの金額の1〜3割 |
お風呂やトイレの道具は、肌に直接ふれるので、借りるのではなく買う扱いになっています。
買うときの決まりは、次のとおりです。
- 年間10万円まで(4月から翌年3月までの1年ごと)が対象
- 自己負担は、所得に応じて1〜3割
- 都道府県や市区町村の指定を受けた店(福祉用具の販売事業者)で買う必要がある
- 支払いは、いったん全額を払い、あとで申請して保険の分が戻ってくる払い戻しが基本(市区町村によっては、最初から自己負担分だけ払えばいい仕組みもある)
- 同じ種類の道具は、原則として1回。壊れたときや、体の状態が大きく変わったときなどは、例外として認められることがある
介護保険で買える道具の一覧
| 品目 | 身近な例 |
|---|---|
| 入浴補助用具 | シャワーチェア(入浴用いす)、浴槽用の手すり、浴槽の中に置くいす、入浴台、すのこ など |
| 腰掛便座 | ポータブルトイレ、便座を高くする補高便座 など |
| 簡易浴槽 | 工事なしで使える、折りたためる浴槽 |
| 自動排泄処理装置の交換可能部品 | 自動で尿を吸い取る装置の、取り替える部分 |
| 排泄予測支援機器 | トイレのタイミングを知らせる機器 |
| 移動用リフトのつり具の部分 | リフトで体をつり上げるときの布の部分 |
これに加えて、2024年からは、次の4つは借りるか買うかを選べるようになりました。
- 固定用スロープ
- 歩行器(四輪などの歩行車は除く)
- 1本杖(松葉杖は除く)
- 多点杖(足が3〜4本ある杖)
現場から——よく見る道具と、買い方の失敗
よく見るのは、シャワーチェアとポータブルトイレ
私が訪問先で、介護保険で買った道具としてよく見るのは、シャワーチェアとポータブルトイレです。お風呂で座って体を洗う、夜中にベッドのそばでトイレをすませる。毎日の生活に直結する道具なので、最初に必要になることが多いです。
見てきた3つの失敗
一方で、買い方の失敗も見てきました。
| 失敗 | どういうことか |
|---|---|
| 体や浴室に合わない | いすが高すぎて足が床に届かない、低すぎて立ち上がれない。洗い場が狭くて置けない |
| 自分で先に買ってしまった | 通販やお店で先に買ってしまい、介護保険の対象にならなかった |
| 買ったけど使われていない | 置いてあるだけで、本人が使っていない |
どれも、道具そのものが悪いのではなく、選び方と買う順番の問題です。
判断の基準①|いちばん困っている動作から選ぶ
選ぶときに、私がいちばん大事にしているのは、品目の一覧からではなく、困っている動作から考えることです。
| 困っている動作 | 考えられる道具 |
|---|---|
| お風呂で、立ったまま体を洗うとふらつく | シャワーチェア |
| 浴槽をまたぐときに、つかまる所がない | 浴槽用の手すり、入浴台 |
| 浴槽から立ち上がれない | 浴槽の中に置くいす |
| 夜中、トイレまで歩くのが危ない | ポータブルトイレ |
| 便座から立ち上がるのがつらい | 補高便座 |
同じ「お風呂がつらい」でも、洗うときなのか、またぐときなのか、立ち上がるときなのかで、必要な道具は変わります。
まず、親がどの動作で困っているのかを見てください。それが分かれば、買うものは自然に決まります。
判断の基準②|体が変わりそうなら、借りる
道具の中には、買うより借りたほうがいいものもあります。
2024年から選べるようになった歩行器や杖、スロープは、とくにそうです。
- 退院したばかりで、これから体の状態が変わりそうなとき
- 病気が進みやすく、合う道具がすぐ変わりそうなとき
こういうときは、借りておけば、体に合わせて取り替えられます。買ってしまうと、合わなくなったときに使えなくなります。
逆に、長く同じものを使うことがはっきりしているなら、買ったほうが安くなる場合も。どちらがいいかは、ケアマネジャーや福祉用具の担当者が提案してくれるはずです。
判断の基準③|家の広さと置き場所で選ぶ
動作に合う道具が決まっても、家に置けなければ使えません。
- シャワーチェアは、洗い場の広さと、浴室の扉の開き方を見る。介助する人が横に立てる余裕も必要
- ポータブルトイレは、ベッドから立って、向きを変えて、座れる位置に置けるかを見る
- 浴槽用の手すりは、浴槽のふちの厚さや形に合うかを見る
ポータブルトイレの置き場所の決め方は「ポータブルトイレはどこに置くか」にまとめています。
買う前に確認したい3つのこと
失敗を防ぐために、買う前にこの3つを確認してください。
- 先に買わない 通販やお店で先に買うと、介護保険の対象にならないことがあります。指定を受けた店で買う必要があるので、まずケアマネジャーに相談してください。
- 同じ種類は、原則1回 合わないものを買ってしまうと、買い直しが難しくなります。だからこそ、最初の1回を慎重に選ぶことが大切です。
- 実際に試してから決める 福祉用具の担当者に頼めば、見本を持ってきてもらえることがあります。家の浴室やトイレで、実際に座ってみるのがいちばん確実です。
私が家族に伝えたいこと
介護保険で買える道具を考えている家族に、私が伝えたいことは4つです。
- 動作を見てから選ぶ:品目の一覧からではなく、親がどの動きで困っているかから考える
- 買う前に、専門職に相談する:ケアマネジャー、福祉用具の担当者、担当のリハビリ職に聞く
- 実際に試してから決める:家の浴室やトイレで、座って、立ってみる
- 買うより借りるほうがいいものもある:体が変わりそうなときは、借りて様子を見る
道具は、使われてはじめて意味があります。親が「これなら使える」と思える道具を、親と一緒に選んでください。
工事で直すか、道具で済ませるかの考え方は「工事にするか、道具で済ませるか」にまとめています。
よくある質問
介護保険で買える道具は、誰が使えますか?
要支援・要介護の認定を受けている人が使えます。どの道具が必要かは、ケアマネジャー(要支援の人は地域包括支援センター)に相談してください。
年間10万円は、いつからいつまでですか?
4月から翌年3月までの1年ごとです。この間に買った道具の合計10万円までが、介護保険の対象になります。
通販で買ったシャワーチェアも対象になりますか?
指定を受けた店で買わないと、対象にならないことがあります。先に買わずに、ケアマネジャーや市区町村の窓口に確認してください。
同じ道具を、もう一度買えますか?
同じ種類の道具は、原則として1回です。壊れたときや、体の状態が大きく変わったときなどは認められることがあるので、市区町村の窓口に確認してください。
この記事のまとめ
- 介護保険では、お風呂とトイレの道具を、年間10万円まで・1〜3割で買える
- よく使われるのはシャワーチェアとポータブルトイレ
- 失敗は、体や浴室に合わない、先に買ってしまう、買ったけど使われない
- 選ぶ順番は、困っている動作 → 体が変わりそうか → 家に置けるか
- 先に買わない・専門職に相談・試してから決める
工事にするか、道具で済ませるか——PTが動作を見て決める基準手すりは取り付けたほうがいいのか、置き型で足りるのか。介護保険の住宅改修(工事)と福祉用具(レンタル・購入)は、どちらを選ぶかで費用も使い勝手も…
参考:厚生労働省「介護サービス情報公表システム|特定福祉用具販売」(2026年10月20日確認)
介護保険で買える道具の種類や、支払いの方法、買い直しの条件は、市区町村・年度で異なります。窓口やケアマネジャーでご確認ください。
親の家をどうするかの全体像は「「親の家、どうする?」完全ガイド」にまとめています。
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