片麻痺の親の家——手すりは「行きと帰り」で反対になる 介護リフォーム

片麻痺の親の家——手すりは「行きと帰り」で反対になる

「父は右半身が動かないので、手すりは左側に付けてもらいました」

脳梗塞や脳出血のあと、体の片側が動きにくくなる片麻痺(かたまひ)。退院が決まると、家族はまず手すりのことを考えます。そして多くの家が、「動く側に付ける」と決めます。

考え方として、正解です。でも、そこで止まると困ることがあります。同じ手すりが、行きは動く側でも、帰りは動かない側になるからです。

この記事では、片麻痺の親の家で起きる「行きと帰り」の落とし穴と、全部の場所に手すりを付けなくてもすむ考え方を書きます。

この記事の結論

  • 片麻痺の手すりは「動く側に」が基本。ただし行きと帰りで、動く側は反対になる
  • 廊下の片側に付けた手すりは、行きは握れても、帰りは握れない
  • 階段は降りるときを優先。片側しか付かないなら、横向きに降りる方法もある
  • トイレは「座ったときの動く側」だけでなく、入ってから座るまでの動き(動線)に合わせる
  • ベッドは動く側から降りられる向きに置く。ここが決まると、家の中の動きが決まる
  • 全部の場所を両側にしなくていい。一番よく往復する道から考える
  • 退院したあとも体は変わる。工事を一度に決めきらない

何が起きるのか——行きと帰りで、使える手が反対になる

右半身に麻痺がある方(右片麻痺)を例にします。動く手は左手です。

寝室からトイレへ向かう廊下の、左側の壁に手すりを付けたとします。行きは、左手で手すりを握れます。

ところが帰りは、向きが反対です。同じ手すりが、今度は右側に来ます。右手は麻痺していて握れません。

手すりの位置(進む方向から見て)握る手使えるか
行き(寝室→トイレ)左側左手(動く)使える
帰り(トイレ→寝室)右側右手(麻痺)使えない

これが、片麻痺の家でよく起きる落とし穴です。流れで見ると、こうなります。

「動く側に手すりを」と頼む
 ↓
行きの向きで考えて、片側に付く
 ↓
行きは握れる。帰りは麻痺した手の側になる
 ↓
帰りは壁をさわる・家具につかまる・何も持たずに歩く
 ↓
疲れて帰ってくる帰り道で、ふらつく

私も訪問先で、動く側にだけ手すりを付けた結果、帰り道や階段の下りでその手すりが使えなくなっている家を見てきました。付けた手すりは、半分しか役に立っていませんでした。

場所ごとに見る——「動く側」はどう決まるか

「動く側」は、場所ごとに決まり方が違います。家族が業者に伝える前に、ここを整理しておくと失敗が減ります。

場所決め方気をつけること
廊下行きと帰りの両方で考える片側だけだと、どちらかの向きで使えない
階段降りるときの動く側を優先片側しか付かないなら、どちらかを横向きで進む
トイレ座ったときの動く側+入ってから座るまでの動き手すりの位置が動線と合っていないことが多い
ベッド動く側から降りられる向きに置く部屋の形で置けないときは、ほかを合わせる
玄関上がるときと、下りるとき(外出)の両方靴をはく・脱ぐ場所とセットで考える

廊下——行きと帰りの両方で見る

廊下は、行きと帰りで必ず向きが反対になります。両側に付けられれば一番安心です。

ただ、廊下の幅が狭い家では、両側に付けると通りにくくなります。車椅子を使う可能性があるなら、なおさらです。片側しか付けられないときは、帰り道でつかまれる別のものを用意します。反対側の壁に短い手すりを足す、置くだけの手すりを使う、杖を動く手で持つ、などです。

階段——降りるときを優先する

階段で転ぶのは、上るときより降りるときです。だから手すりは、降りるときに動く手で握れる側を優先するのが基本です。考え方は「階段の手すり、片側だけで足りるか」に詳しく書きました。

ただ片麻痺の方では、階段の形によっては、手すりのほうを向いて横向きに進む方法をとることがあります。動く手で手すりを握ったまま、カニ歩きのように1段ずつ進むやり方です。私も、片側にしか手すりがない階段で、下りを横向きで降りる練習をしたことがあります。

どちらを横向きにするかは、本人の足の力と階段の形で決めます。家族だけで決めず、リハビリの担当者に実際の階段で見てもらってください。

トイレ——動線と合っているか

トイレでよく言われるのは「便座に座ったときの、動く側に手すりを」です。これは間違いではありません。

でも私が訪問先でよく見るのは、手すりの位置が、入ってから座るまでの動き(動線)と合っていないことです。

トイレでは、次の動きが続きます。

  1. ドアを開けて入る
  2. 便器の前で、体の向きを変える
  3. 座る
  4. 立ち上がる
  5. また向きを変えて、出る

手すりが「座ったときの動く側」にあっても、入口から便器までの途中で握るものがないと、向きを変える一番危ない瞬間に、手が空いてしまいます。ドアがどちら側にあるか、どちら回りで向きを変えるかで、握りやすい手すりの位置は変わります。

ベッド——ここが決まると、家の中の動きが決まる

ベッドは、動く側から降りられる向きに置くのが基本です。ポータブルトイレを置くなら、その動く側に置きます。置き方は「ポータブルトイレはどこに置くか」に書きました。

ベッドの向きは、実は家じゅうの動きの出発点です。ベッドから降りた向きで、廊下のどちら側を歩き始めるかが決まります。ベッドの向きを先に決めてから、廊下やトイレの手すりを考えると、行き帰りの食い違いが減ります。

でも、ここが希望です——全部を両側にしなくていい

ここまで読むと、「家じゅうの両側に手すりが必要なのか」と思うかもしれません。そんなことはありません。

考える順番を変えれば、手すりの数は絞れます。

  • 一番よく往復する道から考える。多くの家では、寝室とトイレの往復です。夜中にも使う道なので、ここを一番しっかりさせます
  • 部屋の使い方で、行き帰りそのものを減らす。寝室をトイレに近い部屋へ移す、夜だけポータブルトイレを使う。往復が短くなれば、手すりも少なくてすみます
  • 工事をしない手すりで試す。床に置くだけの手すりや、突っ張り式の手すりは、介護保険でレンタルできるものがあります。実際に生活してみて、本当に必要な場所だけ工事にする

「動く側に付ける」のは正しい出発点です。そこに「帰りはどうなるか」を一つ足すだけで、同じ数の手すりでも、使える場面がぐっと増えます。

ただし、退院したあとも体は変わります

もう一つ、知っておいてほしいことがあります。退院したときの体が、ずっと続くとは限らないことです。

退院後も、生活の中で歩き方が変わることがあります。杖が変わる、歩ける距離が延びる、逆に疲れやすくなる。そうすると、必要な手すりの位置も変わります。

だから、退院前に家じゅうの手すりを一度に工事で決めきらないほうがいい場合があります。介護保険の住宅改修は、工事費20万円分までを、何回かに分けて使える仕組みです。まず一番危ない場所だけを工事して、残りは生活してから決める、というやり方ができます。詳しくは「住宅改修の20万円は分けて使えます」に書きました。

手すりを付ける前にやっておきたい3つのこと

  1. 行きと帰りを、両方歩いてもらう。寝室からトイレ、トイレから寝室。どちらの手で、どこをつかんでいるかを見ます。帰りに壁や家具をさわっていたら、そこが足りない場所です
  2. ベッドの向きを先に決める。動く側から降りられるか。そこから廊下のどちら側を歩き始めるか
  3. リハビリの担当者に「行きと帰りで見てほしい」と伝える。退院前の家屋調査があるなら、その場で頼めます。家屋調査で何を見るかは次の記事にまとめました
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よくある質問

片麻痺の手すりは、どちら側に付ければいいですか?

基本は「動く側」です。ただ、行きと帰りで向きが反対になるので、行きは動く側でも、帰りは麻痺した手の側になります。帰り道でどこをつかむかまで考えて決めましょう。

廊下の両側に手すりを付けられないときは、どうすればいいですか?

帰り道でつかまれる別のものを用意します。反対側の壁に短い手すりを足す、置くだけの手すりを使う、杖を動く手で持つ、などの方法があります。

階段の手すりは、上りと下りのどちらに合わせればいいですか?

降りるときを優先します。階段で転ぶのは、上るときより降りるときだからです。片側にしか付かないなら、手すりのほうを向いて横向きに進む方法もあるので、リハビリの担当者に実際の階段で見てもらってください。

工事をせずに手すりを試す方法はありますか?

床に置くだけの手すりや、突っ張り式の手すりは、介護保険でレンタルできるものがあります。実際に生活してみて、本当に必要な場所だけ工事にする、というやり方ができます。

住宅改修の20万円は、一度に使い切らないといけませんか?

介護保険の住宅改修は、工事費20万円分までを何回かに分けて使えます。まず一番危ない場所だけを工事して、残りは生活してから決めることもできます。制度の内容は市区町村・年度によって異なるので、窓口で確認してください。

この記事のまとめ

  • 片麻痺の手すりは「動く側に」が基本。でも行きと帰りで、動く側は反対になる
  • 廊下の片側だけの手すりは、帰り道で使えないことがある。帰りにつかまれるものを用意する
  • 階段は降りるときを優先。片側しか付かないなら、横向きで進む方法もある
  • トイレは入ってから座るまでの動きに手すりの位置を合わせる
  • ベッドは動く側から降りられる向きに。ここが家じゅうの動きの出発点
  • 全部を両側にしなくていい。一番よく往復する道から考え、工事しない手すりで試す
  • 退院後も体は変わる。20万円は分けて使えるので、一度に決めきらない

握る力が弱い人に合う手すりの形(握らずに手や腕を乗せて使う形)は「関節リウマチの親の家——握力が落ちたときの工夫」で紹介しています。

手すりの位置は、麻痺の程度や家の形によって変わります。実際に付ける前に、ケアマネジャーや訪問リハビリの担当者に動作を見てもらってください。介護保険の制度の内容は、市区町村・年度によって異なります。窓口でご確認ください。

親の家をどうするかの全体像は「「親の家、どうする?」完全ガイド」にまとめています。

けいすけ(運営者)

理学療法士(訪問リハビリ歴10年以上)× 宅地建物取引士 × 賃貸不動産経営管理士 × 大家歴10年以上。 医療と不動産、両方の現場から見えてくる「親の家のリアル」を、なるべくフラットな視点で発信しています。