住宅改修の20万円は分けて使えます——一度に使い切らない理由 介護リフォーム

住宅改修の20万円は分けて使えます——一度に使い切らない理由

「せっかく20万円使えるんだから、一気にやってしまいましょう」

退院前のご家族から、よくこう言われます。気持ちはとてもよく分かります。手続きも一度で済みますし、業者さんも「まとめたほうが安いですよ」と言うことが多いからです。

でも、私は「半分くらい残しておきませんか」とお伝えすることがあります。

理学療法士として訪問リハビリの現場に10年以上いますが、退院直後に付けた手すりが、半年後には使われていない——という場面を何度も見てきました。体の状態が変わったからです。

今日は、20万円という枠をどう使うか、という話をします。

この記事の結論

  • 介護保険の住宅改修は、20万円分を一度に使い切る必要はありません
  • 残した分は期限なく繰り越せます。「今年使わないと消える」ものではありません
  • ただし工事のたびに事前申請が必要で、毎回の諸経費もかかります。分けすぎると逆に損をします
  • 目安は「今いちばん困っている動作」+「3か月以内に困りそうな動作」まで。それより先は残しておく
  • 判断に迷ったら、実際に動くところを見てもらうのがいちばん早いです

1. そもそも20万円は「1回限り」ではありません

まず、いちばん誤解されている点から整理します。

介護保険の住宅改修は、工事費20万円分までが保険の対象になる制度です。1割負担の方なら、自己負担2万円で20万円分の工事ができます。

(制度の全体像は介護保険の住宅改修費20万円の記事にまとめています)

ここで大事なのが、この20万円は「回数」ではなく「金額」で管理されているということです。

よくある誤解実際
1回使ったら終わり20万円に達するまで何回でも使える
使わないと年度末に消える期限はない。繰り越せる
まとめないと損まとめる必要はない

たとえば1回目に8万円分の工事をしたら、残りの12万円分は、そのまま残ります。1年後でも3年後でも使えます。

「使い切らないともったいない」という制度ではない、ということです。

2. なぜ、残しておいたほうがいいのか

理由は単純で、体の状態が変わるからです。

退院直後の体は、その後の体ではない

骨折や脳卒中のあとで自宅に戻る場合、退院直後がいちばん動けない時期であることが多いです。そこから数か月かけて、少しずつ動作が戻っていきます。

このとき、退院直後の状態に合わせて家じゅうを改修してしまうと、どうなるか。

  • 玄関・廊下・トイレ・浴室に手すりを付けた
  • 半年後、廊下は手すりなしで歩けるようになった
  • でも、新しく困り始めた場所(浴槽の出入り)には、もう予算が残っていない

こういうことが実際に起きます。

逆に、進んでいく病気の場合

パーキンソン病や進行性の疾患では、これから状態が変わっていくことが分かっています。この場合も、いま全部使ってしまうのは危険です。

1年後に必要になるものが、はっきりしているからこそ、そのための余力を残しておく意味があります。

「使われない手すり」は珍しくない

現場の実感として、付けたけれど使われていない手すりは本当によくあります。

原因の多くは、位置が実際の動きと合っていないことです。人は「手すりがあるから掴む」のではなく、体が不安定になる場所で自然に手をつくものです。その場所を外すと、使われません。

(手すりをどこに付けるかは手すり設置の基礎知識で詳しく書いています)

まず1〜2か所付けてみて、実際に使われるか見てから次を決める。 これができるのが、分けて使うことの本当の利点です。

3. ただし、分けすぎると損をします

ここまで「残しましょう」と書いてきましたが、細かく分けすぎるのも問題です。

理由は3つあります。

① 工事のたびに諸経費がかかる

手すり1本の工事でも、業者さんは現場に来ます。出張費・諸経費・現場管理費といった名目で、数千円から1万円台が毎回かかります。

5,000円の手すり1本のために、毎回1万円の諸経費を払っていては、20万円の枠が経費で目減りしていきます。

② 申請の手間が毎回かかる

住宅改修は、工事のたびに市区町村への事前申請が必要です。ケアマネジャーさんに理由書を書いてもらい、見積もりを取り、写真を撮り、と一連の手続きが毎回発生します。

ご家族の負担も、ケアマネジャーさんの負担も、回数ぶん増えます。

③ 同じ場所を2回工事することになりやすい

トイレの手すりを付けたあと、「やっぱり入口にも」となると、同じ部屋に2回工事に入ることになります。まとめてやれば1回で済んだ工事です。

つまり、「同じ場所・同じ時期にやるもの」はまとめる。「時期が違うもの」は分ける。 これが基本になります。

4. 1回目にどこまでやるか——現場での目安

では、どこで線を引くのか。私が現場で使っている目安をお伝えします。

目安は「今」と「3か月以内」

① 今いちばん困っている動作

まずここです。ご本人が「これが怖い」「これができない」と言う動作。トイレに間に合わない、浴槽をまたげない、玄関で靴が履けない——こういう具体的な困りごとから始めます。

② 3か月以内に困りそうな動作

いまは何とかできているけれど、明らかに危なっかしい動作。ふらつきながら立ち上がっている、壁に手をついて廊下を歩いている、といった場面です。

この2つまでを1回目に入れます。

そこから先は残す

「将来のために、いまのうちに」は、いったん保留にします。

理由は、半年後にどうなっているかは誰にも分からないからです。良くなる可能性もあれば、まったく別の場所が問題になることもあります。分からないものにお金を使わない、というだけの話です。

判断に迷ったときの近道

いちばん確実なのは、実際に動くところを見てもらうことです。

担当のケアマネジャーさんやリハビリ職に、「トイレに行くところを見てもらえませんか」と頼んでみてください。カタログを見比べるより、はるかに早く答えが出ます。

(退院に間に合わせる段取りは申請から工事完了までの日数の記事、玄関の段差をどうするかはスロープか踏み台かの記事にまとめています)

5. 残額の確認方法

「うちはあといくら残っているんだろう」——これは、ご家族では分からないことが多いです。

確認先は次のとおりです。

確認したいこと聞く先
残りがいくらあるかケアマネジャー、または市区町村の介護保険担当窓口
過去にどんな工事をしたか同上(記録が残っています)
これから使えるか同上

引っ越しや、要介護度の大きな変化があった場合は、枠がもう一度使えることがあります。 これは条件がやや細かいので、必ずケアマネジャーさんか市区町村に確認してください。

まとめ

  • 介護保険の住宅改修の20万円は、回数ではなく金額で管理されています
  • 一度に使い切る必要はなく、残した分は期限なく繰り越せます
  • ただし工事のたびに事前申請と諸経費がかかるため、分けすぎは損です
  • 1回目は「今困っている動作」+「3か月以内に困りそうな動作」まで
  • 「将来のために、いまのうちに」は、いったん保留でいい
  • 残額はケアマネジャーか市区町村に聞けば分かります

住宅改修は、一度やったら終わりの工事ではありません。体が変われば、必要な場所も変わります。

だからこそ、最初に全部決めてしまわないほうがいいのです。余力を残しておくことは、迷いを残すことではなく、選べる状態を残すことだと思っています。

工事を決める前に、担当のケアマネジャーさんやリハビリの担当者に相談してみてください。制度の細かい条件は自治体によって運用が分かれる部分もありますので、お住まいの市区町村の介護保険窓口にも確認されることをおすすめします。

けいすけ(運営者)

理学療法士(訪問リハビリ歴10年以上)× 宅地建物取引士 × 賃貸不動産経営管理士 × 大家歴10年以上。 医療と不動産、両方の現場から見えてくる「親の家のリアル」を、なるべくフラットな視点で発信しています。