退院のとき、家か施設か——訪問リハのPTが見た分かれ目 介護リフォーム

退院のとき、家か施設か——訪問リハのPTが見た分かれ目

「母は家に帰りたいと言っているんです。でも、私たちも仕事があるし、本当に家で大丈夫なのか……」

親の退院が近づくと、多くの家族がこの分かれ道に立ちます。家に帰るか、施設に入るか。どちらを選んでも、「これでよかったのか」という気持ちが残りやすい決断です。

この記事では、病院から家に戻った人を訪問リハビリで担当してきた理学療法士(PT)として、家に戻れた人にそろっていたことと、家族が迷う理由を整理します。答えを押しつける記事ではありません。判断の材料を渡す記事です。

この記事の結論

  • 道は「家」と「施設」の2つだけではない。ショートステイや老健(家に戻ることを目指す施設)という、間の道もある
  • 私が訪問リハビリで担当した、病院から家に戻れた人には、家族の手・本人の「帰りたい」・介護サービスの使い方の3つがそろっていた
  • 判断の基準は、支える人がいるか、本人が帰りたいか、足りない時間をサービスで埋められるかの3つ
  • 家族が迷うのは、仕事との両立、本人は帰りたいのに家族は不安、施設に入れることへの後ろめたさの3つが多い
  • 仕事との両立には、介護休業(対象家族1人につき通算93日、3回まで分割)などの制度がある
  • 施設を選ぶことは、親を見捨てることではない
  • 迷ったら、退院前の話し合いで、病院の専門職とケアマネジャーに相談する

まず、道は2つだけではない

退院後の行き先は、「家」か「施設」かの二択で考えられがちです。でも実際には、その間にいくつかの道があります。

行き先どんな場所か
家に帰る介護サービスを使いながら、住み慣れた家で暮らす
ショートステイ数日〜数週間だけ施設に泊まる。家族が休む時間にもなる
老健(介護老人保健施設)リハビリをしながら、家に戻ることを目指す施設
長く暮らす施設特別養護老人ホームや有料老人ホームなど

いきなり「ずっと施設」か「ずっと家」かを決めなくてもいい、というのが最初に知っておいてほしいことです。家に帰ってみて、つらくなったらショートステイを使う。老健でリハビリをしてから、家に帰る。そういう順番もあります。

現場から——家に戻れた人に、そろっていた3つ

私は訪問リハビリで、病院から家に戻った人を担当してきました。体の状態は、もちろん大切です。そのうえで、家に戻れた人を思い返すと、3つのことがありました。

  1. 家族がそばにいて、手伝えた
  2. 本人の「家に帰りたい」という気持ちが強かった
  3. デイサービスやヘルパーなど、介護サービスをうまく使えていた

どれか1つだけでは、なかなか続きません。家族がいても、全部を家族が抱えると疲れてしまいます。本人が帰りたくても、支える人がいなければ難しい。3つがそろって、はじめて家での暮らしが回る、というのが、私が現場で見てきた実感です。

一方で、退院を前に迷っていた家族も見てきました。その悩みは、この記事の後半で取り上げます。

判断の基準①|支える人がいるか

一番の基準は、家で親を支える人がいるかです。

  • 同居している、または近くに住んでいる家族がいるか
  • その家族は、平日の日中や夜中に、手を貸せるか
  • 一人の家族に、全部がのしかかっていないか

ここで大事なのは、「家族がいるか」だけでなく、「家族が続けられるか」です。最初の1週間は頑張れても、何か月も続くと疲れがたまります。きょうだいで分担できるか、遠くに住む家族は何を担えるかも、あわせて考えてください。

判断の基準②|本人が「帰りたい」と思っているか

二つめは、本人の気持ちです。

家に帰りたいという気持ちが強い人は、家での暮らしに前向きです。リハビリにも、身の回りのことにも、自分から取り組もうとします。反対に、本人が家に帰ることを不安に思っている場合は、無理に帰っても、本人がつらくなることがあります。

本人の気持ちは、家族が代わりに決められるものではありません。「どこで暮らしたいか」を、本人の口から聞いておくことが大切です。話すのが難しい場合は、これまでの本人の言葉や暮らし方を思い出してみてください。

判断の基準③|足りない時間を、介護サービスで埋められるか

三つめは、家族だけでは手が足りない時間を、介護サービスで埋められるかです。

足りない場面使えるサービスの例
家族が仕事に出ている日中デイサービス、デイケア(通いのリハビリ)
着替えや入浴の手伝いヘルパー(訪問介護)、訪問入浴
家での動きや住まいの工夫訪問リハビリ、福祉用具のレンタル
家族が休みたいときショートステイ

どのサービスをどれだけ使えるかは、要介護度やお住まいの地域で変わります。ケアマネジャーに「この時間帯が足りない」と具体的に伝えると、組み合わせを考えてもらえます。

家族が迷う、3つの悩み

退院を前に迷っていた家族の悩みは、主に次の3つでした。

仕事との両立

働きながら親を支えるのは、簡単ではありません。ただ、仕事を辞める前に知っておいてほしい制度があります。

  • 介護休業:対象家族1人につき、通算93日まで、3回に分けて休める
  • 介護休暇:対象家族1人なら年5日、2人以上なら年10日、1日や時間単位で休める

退院直後の、生活が落ち着くまでの時期に使うと効果的です。制度の全体は「親の介護 始める前に確認すること5つ」にまとめています。

本人は帰りたいのに、家族は不安

本人の気持ちと家族の不安がぶつかるのは、よくあることです。このときは、「お試し」で考えるのがひとつの方法です。

  • 家に帰ってみて、つらくなったらショートステイを使う
  • 老健でリハビリをしてから、家に帰る
  • 「〇か月やってみて、また家族で話し合う」と区切りを決める

最初から「ずっと」を決めなくていいと分かるだけで、家族の気持ちが軽くなることがあります。

施設に入れることへの後ろめたさ

「親を施設に入れるなんて」と、自分を責める家族は少なくありません。でも、施設を選ぶことは、親を見捨てることではありません。

家族が疲れ切ってしまうと、親にも余裕のない接し方になりがちです。施設に任せる部分を作ることで、家族は会いに行く時間を、穏やかな時間にできることもあります。

迷ったら、この順番で

  1. 本人に「どこで暮らしたいか」を聞く
  2. 支える家族を書き出す(誰が、いつ、何をできるか)
  3. 足りない時間を、ケアマネジャーとサービスで埋められるか相談する
  4. 埋められなければ、ショートステイや老健という間の道を考える
  5. それでも難しければ、長く暮らす施設を考える

この話し合いに一番いいのが、退院前の話し合い(退院前カンファレンス)です。病院の医師・看護師・リハビリ職、ケアマネジャーが集まるので、家族の不安をそのままぶつけられます。聞いておくことは「退院前カンファレンスで、家族が聞いておくべきこと」にまとめています。

あわせて読みたい退院前カンファレンスで、家族が聞いておくべきこと——病院と在宅、両方を見てきた理学療法士から退院前に病院で開かれる「退院前カンファレンス」。家族はつい黙って聞くだけになりがちですが、ここで聞けるかどうかで自宅での数か月が変わります。病院…

家に帰ることになり、手すりで住み続けるか住み替えるかで迷ったときは「手すりで住み続けるか、住み替えるか」も参考にしてください。

よくある質問

老健とは、どんな施設ですか?

介護老人保健施設のことで、リハビリをしながら、家に戻ることを目指す施設です。いきなり「ずっと施設」と決めずに、老健でリハビリをしてから家に帰る、という順番もあります。

ショートステイは、どんなときに使えますか?

数日〜数週間だけ施設に泊まるサービスです。家に帰ってみて、つらくなったときに使えます。家族が休む時間にもなります。

仕事を休んで親を支えられる制度はありますか?

介護休業は、対象家族1人につき通算93日まで、3回に分けて休めます。介護休暇は、対象家族1人なら年5日、2人以上なら年10日で、1日や時間単位で休めます。制度の内容は勤め先によって異なることもあるので、勤め先で確認してください。

家で使う介護サービスは、どうやって決めればいいですか?

ケアマネジャーに「この時間帯が足りない」と具体的に伝えると、組み合わせを考えてもらえます。どのサービスをどれだけ使えるかは、要介護度やお住まいの地域で変わります。

この記事のまとめ

  • 道は家と施設の2つだけではない。ショートステイ・老健という間の道がある
  • 私が担当した、家に戻れた人には、家族の手・本人の「帰りたい」・介護サービスの3つがそろっていた
  • 判断の基準は、支える人、本人の気持ち、サービスで埋められるか
  • 仕事との両立には、介護休業(通算93日・3回まで分割)や介護休暇(年5日)がある
  • 本人と家族の気持ちがぶつかったら、「お試し」と区切りで考える
  • 施設を選ぶことは、見捨てることではない
  • 迷ったら、退院前カンファレンスで専門職に相談する

退院後の行き先は、体の状態、家族の事情、地域のサービスによって一人ひとり違います。主治医や病院の相談員、ケアマネジャーにご相談ください。介護保険のサービス内容や、介護休業などの制度は、市区町村・年度や勤め先によって異なります。窓口や勤め先でご確認ください。

親の家をどうするかの全体像は「「親の家、どうする?」完全ガイド」にまとめています。

けいすけ(運営者)

理学療法士(訪問リハビリ歴10年以上)× 宅地建物取引士 × 賃貸不動産経営管理士 × 大家歴10年以上。 医療と不動産、両方の現場から見えてくる「親の家のリアル」を、なるべくフラットな視点で発信しています。