「そろそろ介護が必要かもしれない」と気づいたとき、何から始めればいいのかわからなくなる方はとても多いです。
倒れてから慌てて動くのと、事前に準備しておくのとでは、その後の負担がまったく違います。介護は突然始まることも多いですが、「予兆」がある段階で動いておくことが、本人にとっても家族にとっても大きな助けになります。
訪問リハビリ(自宅に来てくれるリハビリ)に10年以上携わってきた理学療法士として、そして宅建士(不動産の国家資格)・大家として、多くの家庭が介護をきっかけに「実家をどうするか」という問題に直面してきたのを見てきました。
この記事では、介護を始める前に確認しておくべき5つのポイントを、現場の視点から整理します。
この記事の結論
親の介護を始める前に確認しておくことについて、結論から先にお伝えします。
- 介護保険の申請を今すぐ始める:認定が下りるまで最長2ヶ月かかります。「まだ大丈夫」と思っているうちに申請だけ済ませてください。
- 自宅の安全を「動線(移動ルート)」で確認する:玄関・廊下・浴室・トイレ・寝室の5か所を実際に歩いて確認し、とっさに掴まれる場所を確保してください。
- かかりつけ医・薬・病歴を家族で共有しておく:緊急時に「どこの病院か知らない」では困ります。お薬手帳1冊にまとめておくだけで大きく違います。
- 家族の役割分担と費用を話し合っておく:誰が主担当か、費用はどうするかを最初に決めておかないと後で揉める原因になります。
- 仕事との両立に備えて介護休業制度を把握する:突然「休みます」では職場も困ります。早めに状況を共有しておいてください。
以下で、各ポイントを詳しく解説します。
① 介護保険の申請(要介護認定)を早めに済ませる
介護保険のサービスを利用するには、まず要介護認定(介護が必要な状態を国が審査して認めること)を受ける必要があります。これを知らずに「いざ使おう」とすると、認定が下りるまで最長1〜2ヶ月かかって困ることになります。
申請から認定まで、最長30日かかる
申請は市区町村の窓口で行い、その後、認定調査員が自宅を訪問します。かかりつけ医の意見書も必要です。申請から認定通知まで原則30日以内とされていますが、混雑時はそれ以上かかることもあります。
急に体調が悪化したとき、認定がなければサービスを使えません。「まだ大丈夫」と思っているうちに申請しておくことをおすすめします。申請さえしておけば、実際にサービスを使い始めるのは後でもかまいません。
認定結果にはばらつきがある。不服なら再申請も可能
要介護認定の結果は、調査員や主治医の意見書の内容によって多少ばらつきが出ることがあります。また、特に男性に多いのですが、プライドから「できないこと」を「できる」と見栄を張ってしまい、実際より軽い区分に認定されてしまうケースがあります。調査の場では、普段の様子をよく知る家族が同席して、正確な状況を伝えることが重要です。「思っていたより軽い区分になった」と感じた場合は、認定結果に不服申し立て(審査請求)をするか、状態の変化を理由に区分変更申請を行うことができます。あきらめず、必要であればケアマネや地域包括支援センターに相談してみましょう。
ケアマネジャーとは?
申請後、要介護1以上の認定を受けるとケアマネジャー(介護支援専門員)をつけることができます。ケアマネは介護サービスの計画を立て、各事業所との調整をしてくれる「介護の司令塔」のような存在です。地域包括支援センター(市区町村が設置する介護の相談窓口)に相談すると、ケアマネを紹介してもらえます。
② 自宅の安全を確認する(転倒リスク・住環境の整備)
介護が始まると、親が自宅で過ごす時間が長くなります。その前に、住まいの安全を確認しておくことが重要です。
訪問リハビリの現場でまず行うのは、「動線の確認」です。玄関からトイレ、寝室から浴室まで、親御さんが実際に使うルートを歩いて確認します。「移動するときどこかに手をかけていますか?」と本人や家族に聞くだけで、無意識に掴まっている場所がすぐにわかることがほとんどです。そこだけは最低限、とっさに掴まれる安定した場所(手すりや固定された家具)を確保することが最初の優先事項です。
特に確認したいポイントは、玄関・廊下・浴室・トイレ・寝室の5か所です。段差、手すりの有無、床の滑りやすさ、夜間の照明など、細かい点が転倒リスクに直結します。
転倒しやすい家の共通点については、こちらの記事で詳しく解説しています。
介護保険の「住宅改修費」を使う
手すりの設置や段差解消といった工事は、介護保険の住宅改修費(上限20万円) を使って自己負担1〜3割で行うことができます。要介護・要支援の認定を受けていることが条件です。
③ かかりつけ医・医療情報を家族で共有しておく
介護が始まると、病院への付き添いや医師との連絡が増えます。このとき「どこの病院に通っているか」「どんな薬を飲んでいるか」が家族に伝わっていないと、緊急時に大きな混乱を招きます。
整理しておくべき医療情報
- かかりつけ医の名前・病院名・電話番号
- 現在飲んでいる薬の名前と量(お薬手帳を活用)
- これまでの病歴・手術歴・アレルギー
- 緊急時の連絡先(かかりつけ医・救急病院)
お薬手帳は1冊にまとめておきましょう。複数の病院にかかっている場合も、同じ手帳に記録するのが原則です。
クリアファイル1冊でいいので、検査結果とお薬手帳をまとめておく習慣をつけておきましょう。これがあるだけで、引き継ぎがぐっとスムーズになります。
④ 家族内の役割分担と費用の話し合いをしておく
介護で家族が揉めるケースの多くは、「誰が何をするか」「費用をどうするか」が曖昧なまま進んでしまうことに原因があります。
役割分担を決める
介護は長期戦です。特定の人(多くは長男・長女)に負担が集中すると、やがて限界を迎えます。
最初に確認すべきことは以下の3点です。
- 主担当者は誰か(日常的な世話・病院付き添いなど)
- 他の家族はどう分担するか(週末の訪問、費用負担、精神的サポートなど)
- 緊急時の連絡体制(誰に先に連絡するか)
きょうだいで話し合う際は、「責める」のではなく「どう分けるか」を冷静に決める場にすることが大切です。
介護にかかる費用を把握する
介護費用は、認定区分やサービスの使い方によって大きく変わります。在宅介護の場合、月に数万円〜十数万円かかることもあります。
まず確認したいのは、親自身の資産・収入(年金・貯蓄)です。親のお金で介護費用を賄えるうちは、それを基本にしましょう。
⑤ 仕事との両立を考える(介護休業・介護休暇制度)
親の介護が始まると、仕事を急に休まざるを得ない場面が出てきます。会社の制度を事前に把握しておくことで、慌てずに対処できます。
介護休業・介護休暇の違い
| 制度 | 内容 |
|---|---|
| 介護休業 | 対象家族1人につき通算93日(3回まで分割可)、休業できる |
| 介護休暇 | 年5日(対象家族が2人以上なら10日)、1日・半日単位で取得可 |
| 介護休業給付金 | 休業中、雇用保険から賃金の67%が給付される |
いずれも育児・介護休業法に基づく、法律で認められた権利です。事前に人事や上司に状況を伝えておくと、いざというときスムーズに動けます。
早めに「介護が始まりそう」と職場に伝える
突然「介護で休みます」では職場も困ります。「親が高齢で、そろそろ介護が必要になりそうです」と早めに伝えておくだけで、職場側も対応を準備できます。
まとめ:「介護が始まる前」が一番動きやすいタイミング
親の介護を始める前に確認しておくべき5つのことをまとめます。
- 介護保険の申請(要介護認定)を早めに
- 自宅の安全を確認する(転倒リスク・バリアフリー)
- かかりつけ医・医療情報を家族で共有
- 家族内の役割分担と費用の話し合いをしておく
- 仕事との両立(介護休業・介護休暇制度)を把握
介護は始まってしまうと、毎日の対応に追われて「整理する時間」が取りにくくなります。「まだ大丈夫」と感じている今こそ、少しずつ準備を進めておくことが、将来の家族の負担を大きく減らします。
税務・法律・医療に関する個別の判断は、税理士・弁護士・医師などの専門家にご相談ください。
著者プロフィール けいすけ / 理学療法士(訪問リハビリ歴10年以上)× 宅地建物取引士 × 賃貸不動産経営管理士 × 大家歴10年以上。医療と不動産、両方の現場から「親の家、どうする?」を考えます。
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