親の「まだ大丈夫」を確かめる3つの動作——敬老の日に頼んでみて

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介護リフォーム

親の「まだ大丈夫」を確かめる3つの動作——敬老の日に頼んでみて

「階段、そろそろ手すりつけようか」

敬老の日に実家に帰って、こう切り出すと、たいてい「まだ大丈夫」と返ってきます。

その「大丈夫」が本当かどうかは、話しているだけでは分かりません。でも、3つの動作を頼んでみると、5分で分かります。

訪問リハビリの現場で、私は初めての家に行くと必ずこの動作を見ます。この記事では、その3つと「どこからが黄色信号か」の目安を、家族が使える形で書きます。

この記事の結論

  • 親の「まだ大丈夫」と、家族の見立てはよく食い違う。本人はできているつもりでも、体は先に変わっている
  • 確かめる動作は3つ。手を使わずに椅子から立つ/片足で立つ/立ったまま靴下をはく
  • 目安は日本整形外科学会の基準。片足立ちが15秒未満、40cmの椅子から片足で立てない、片足立ちで靴下がはけないは、それぞれ黄色信号
  • 3つとも「できない」なら、住まいの見直しを今年中に考える段階
  • やるときは必ず横に立つ。反動をつけない。痛みが出たらやめる
  • 「テストする」と言わず、「ちょっとやってみせて」と頼む

なぜ「まだ大丈夫」と家族の見立てはずれるのか

訪問先で、本人が「大丈夫」と言い、家族が「そうは見えない」と言う場面を、私は何度も見てきました。

どちらも嘘をついていません。ずれる理由は、本人は「毎日できている」ことを大丈夫の根拠にしているからです。

毎日やっていることは、体が覚えています。いつもの椅子、いつもの手すり、いつもの順番。だからできる。でも、それは「環境に助けられてできている」状態です。椅子が変わる、手すりがない場所に行く、疲れている——条件が1つ変わると、できなくなります。

家族が見ているのは、その「条件が変わった瞬間」です。久しぶりに会ったから、いつもと違う椅子だから、荷物を持っているから。だから「危なっかしい」と感じる。

本人の「大丈夫」は「いつもの条件なら大丈夫」で、家族の「危ない」は「条件が変わると危ない」。 どちらも正しいから、話し合いは平行線になります。

だから、話し合うのではなく、動作を見るのです。

動作①|手を使わずに、椅子から立てるか

まず、ふだん座っている椅子から、手を使わずに立ってもらいます。両腕を胸の前で組んで、反動をつけずに立ち、そのまま3秒止まる。

これは日本整形外科学会の「ロコモ度テスト」の立ち上がりテストと同じ動きです。

結果目安
40cmくらいの椅子から、片足で立てる問題なし
片足では立てないが、両足で20cmの台から立てるロコモ度1(移動する力が落ち始めている)
両足で20cmは無理だが、30cmなら立てるロコモ度2(進行している)
両足で30cmから立てないロコモ度3(社会参加に支障が出る段階)

家にある椅子の座面は、だいたい40cm前後です。だからまず「その椅子から、手を使わず、片足で立てるか」を見れば十分です。

現場で私が見ているのは、立てるかどうかだけではありません。手がひじ掛けやテーブルに行くか。行くなら、本人は無意識に「手がないと立てない」と分かっています。その家では、トイレや玄関に「手をつく場所」が要ります。

動作②|片足で、何秒立てるか

次に、目を開けたまま、片足で立ってもらいます。手は腰か、体の横。何秒続くか数えます。

日本整形外科学会などが定めている「運動器不安定症」の基準では、目を開けて片足立ちが15秒未満が、運動器の働きが落ちているサインの1つです。

秒数目安
15秒以上問題なし
15秒未満黄色信号。バランスを取る力が落ちている
5秒もたない家の中の段差・敷居で転びやすい段階

片足立ちは、階段・またぎ・靴の脱ぎ履きの土台です。階段は必ず片足になる瞬間があります。浴槽をまたぐときも、玄関で靴を履くときも。片足で立てない人は、家の中で片足になる場面すべてが危ない、ということです。

階段の手すりが片側で足りるかどうかは「階段の手すり、片側だけで足りるか」に書きました。

必ず、倒れても支えられる位置に立ってください。壁の横でやってもらうと安全です。

動作③|立ったまま、靴下がはけるか

最後は、日常の動作そのものです。立ったまま靴下をはけるか。

これは日本整形外科学会の「ロコチェック」7項目の最初にある「片脚立ちで靴下がはけない」です。1つでも当てはまれば、ロコモ(運動器の衰え)の心配がある、とされています。

靴下は、片足立ち+前かがみ+手先の作業を同時にやる動作です。どれか1つが落ちると、できなくなります。だから「靴下がはけない」は、体の変化を一番早く映します。

現場で「靴下は座ってはいている」と聞いたら、私はいつからかを聞きます。「1年前から」なら、その1年で体は変わっているということです。

状態目安
立ったまま、壁に触れずにはける問題なし
壁や家具に手をついてはける黄色信号
座らないとはけない玄関の靴の脱ぎ履きも危ない。玄関に腰かけが要る

玄関の腰かけの選び方は「玄関で靴を履くとき、立っていませんか」にまとめています。

握力計や体組成計があれば、数字でも確かめる

3つの動作に加えて、もし家に握力計があれば、握力も測っておくと役に立ちます。デジタル式のものが1,000円台から市販されています(Amazonで握力計を探す)。道具が要るので「4つ目」にはしませんでしたが、数字がはっきり出るので、家族が納得しやすい指標です。

目安は男性28kg未満・女性18kg未満です。これは、アジアのサルコペニア(筋肉が減る状態)の診断基準(AWGS 2019)と、国立長寿医療研究センターのフレイル(心身が弱った状態)の基準(改訂J-CHS基準・2020年)で、どちらも同じ数字が使われています。

握力は「手の力」ではなく、全身の筋肉の量を映す数字として使われています。握力が落ちている人は、脚の力も落ちていることが多い。だから、立ち上がりや片足立ちの結果と合わせて見ると、体の変化がより確かになります。

フレイルの基準には、握力のほかに「6か月で2kg以上やせた」「歩く速さが秒速1m未満(横断歩道を青のうちに渡りきれない目安)」も入っています。3つとも当てはまるなら、動作の前に、かかりつけ医に相談してください。

もう1つ、デイサービスや病院、スポーツジム、薬局に置いてある体組成計(InBodyなど)に乗る機会があれば、結果の紙にある「骨格筋指数(SMI)」を見てください。同じAWGS 2019の基準で、男性7.0未満・女性5.7未満が筋肉量の低下の目安です。動作が「今できるか」を見るのに対して、こちらは「筋肉がどれだけ残っているか」を数字で見るものです。デイサービスで定期的に測っているなら、担当者に「筋肉量の数字を教えてください」と聞けば出てきます。

3つの結果を、どう使うか

3つの動作は、それぞれ違うものを見ています。

動作見ているもの家で困る場所
手を使わず立つ脚の力トイレ・ベッド・ソファからの立ち上がり
片足立ちバランス階段・浴槽のまたぎ・敷居
立ったまま靴下脚の力+バランス+前かがみ玄関・着替え

結果の使い方は、こうです。

3つともできる:今は大丈夫。ただし来年も同じ日に確かめてください。1年で変わります。

1〜2つできない:家の中で、できなかった動作に当たる場所を見ます。片足立ちができないなら階段と浴室。手を使わないと立てないならトイレとベッド。そこに手すりや腰かけを足すのが、次の一手です。介護保険の認定があれば、住宅改修の制度が使えます。

3つともできない:住まい全体を見直す段階です。手すりで住み続けられる家か、限界が来やすい家か。分かれ目は「手すりで住み続けるか、住み替えるか」に書きました。

頼むときの言い方と、注意

「テストする」とは言わないでください。 親は試されるのを嫌います。

現場で私がよく使うのは、「最近、片足立ちって流行っているらしいよ。何秒できる?」「この椅子、手を使わないで立てる? 俺もやってみるから」です。家族が一緒にやると、比べ合いになって、素直にやってくれます。

安全のために、3つだけ守ってください。

  • 必ず横に立つ。 特に片足立ちと靴下は、倒れる方向に体を置く
  • 反動をつけない。 立ち上がりで反動をつけると、後ろに倒れることがある
  • 膝や腰に痛みが出たら、その場でやめる。 痛みを我慢してやる動作ではない

そして、できなかったときに「ほら、危ないでしょ」と言わないこと。「じゃあ、玄関に座るところ作ろうか」と、次の一手を一緒に決める言い方にしてください。

親の体は、責める材料ではなく、家を直す材料です。

家族が今日できること

  • 敬老の日に、3つの動作を頼んでみる(一緒にやる)
  • 結果をメモしておく(片足立ち何秒、椅子から手なしで立てたか、靴下は立って/座って、握力計があれば何kg)
  • 来年の同じ日に、もう一度やる。変化が数字で見える
  • 気になる結果なら、ケアマネジャーか訪問リハビリの担当者に「家で片足立ちが5秒だった」と数字で伝える。数字で伝えると、専門職はすぐに動けます

帰省で見ておきたい家のサインは「お盆に帰省したら見てほしい、実家の10のサイン」に、転びやすい家の特徴は「転倒しやすい家の特徴5つ」にまとめています。

この記事のまとめ

  • 親の「まだ大丈夫」は「いつもの条件なら大丈夫」。家族の「危ない」は「条件が変わると危ない」。どちらも正しいから、動作で確かめる
  • 3つの動作:手を使わず椅子から立つ/片足立ち/立ったまま靴下
  • 目安:40cmから片足で立てない/片足立ち15秒未満/立って靴下がはけない(日本整形外科学会の基準)
  • 結果は、家の中の困る場所に置き換える。脚の力ならトイレとベッド、バランスなら階段と浴室
  • 3つともできないなら、住まい全体の見直しを考える段階
  • 「テスト」と言わない。一緒にやる。必ず横に立つ

体の状態の判断は、かかりつけ医や専門職にご相談ください。制度の内容は市区町村・年度によって異なります。ケアマネジャーまたは市区町村の窓口でご確認ください。

親の家をどうするかの全体像は「「親の家、どうする?」完全ガイド」にまとめています。

けいすけ(運営者)

理学療法士(訪問リハビリ歴10年以上)× 宅地建物取引士 × 賃貸不動産経営管理士 × 大家歴10年以上。 医療と不動産、両方の現場から見えてくる「親の家のリアル」を、なるべくフラットな視点で発信しています。