久しぶりに実家に帰ると、駅まで迎えに来た親の歩き方が、前より遅くなった気がする。玄関で見送る背中が、少し小さく見える。
「気のせいかな」で終わらせる方が、ほとんどだと思います。
でも、訪問リハビリ(自宅に来てくれるリハビリのこと)の仕事で10年以上、高齢者のお宅に上がらせてもらってきた立場から言うと、家族が「あれ?」と感じたときには、体と家の変化はすでに始まっていることが多いです。
そして、転倒・骨折・認知症といった大きな出来事は、ある日突然やってくるように見えて、実はその前に小さなサインを出しています。
この記事では、お盆や年末年始の帰省中に確認してほしい「実家の10のサイン」を、チェックリスト形式でまとめました。持ち物は要りません。いつも通り過ごしながら、見るだけでできます。
この記事の結論
帰省中にチェックしてほしいポイントを、結論から先にお伝えします。
- 親の体のサイン:歩く速さ・立ち上がり方・階段の使い方。「手すりや壁を触りながら歩く」ようになっていたら要注意です。
- 家のサイン:冷蔵庫の中・2階の使われ方・郵便物の山。「片付けられなくなった家」は体と認知機能の変化を映す鏡です。
- お金・暮らしのサイン:見慣れない業者のチラシや契約書がないか。高齢者だけの家は悪質業者に狙われやすいです。
- 見つけても、その場で問い詰めない:サインは「今すぐ何とかする」ためではなく、「家族が考え始める」ための材料です。
以下で、10のサインを順番に解説します。
なぜ「帰省」がチェックのチャンスなのか
離れて暮らしていると、親の変化は電話ではわかりません。親は子どもに心配をかけたくないので、電話では「元気よ」としか言わないからです。
一方、毎日一緒に住んでいても、少しずつの変化には気づきにくい。
「半年〜1年ぶりに直接会う」帰省は、変化に気づける絶好のタイミングなのです。訪問リハビリの現場でも、「お盆に帰ってきた息子さんが親の歩き方に驚いて、そこから介護の相談が始まった」という流れはよくあります。
【親の体のサイン】4つ
① 歩くとき、壁や家具を触っていないか
家の中で、壁・家具・柱を伝うように歩く——これは「バランスに自信がなくなってきた」体からのサインです。本人は無意識なので、聞いても「触ってないよ」と言います。見て確認するのがポイントです。
② 椅子から立ち上がるとき、何かにつかまっていないか
テーブルに手をついて「よいしょ」と立つ回数が増えていたら、脚の筋力が落ちてきています。脚の筋力低下は、転倒の一番の予備軍です。
③ 階段の上り下りを避けていないか
「2階、最近上がってる?」とさりげなく聞いてみてください。「ほとんど上がらない」なら、家の半分が使われなくなっているということ。体力低下のサインであると同時に、2階が物置化して家が傷み始める入り口でもあります。
④ 同じ話を何度もしていないか
滞在中に同じ話が3回以上出てきたら、記憶しておいてください。すぐに「認知症だ」と決めつける必要はありませんが、「実家のことを本人と話し合えるのは、判断力があるうちだけ」という事実は知っておいてほしいのです。
親が認知症になると、実家は売ることも貸すことも大幅に難しくなります。詳しくはこちらで解説しています。
→ 親が認知症になると実家は売れなくなる——手遅れになる前の話し合い、7つのコツ
【家のサイン】3つ
⑤ 冷蔵庫に同じ食材が重なっていないか
冷蔵庫は、暮らしの状態が一番よく見える場所です。同じ調味料が3本、賞味期限切れの食品が奥に——これは「買ったことを忘れている」か「奥のものを取り出して管理する力が落ちている」サインです。
⑥ 玄関・廊下・階段に物が置かれていないか
新聞の束、段ボール、買い置きの袋。通り道に置かれた物は、そのまま転倒の原因になります。訪問リハビリで多くのお宅を見てきた経験から言うと、転倒は「家の危険な場所」と「体の衰え」が重なったときに起きます。家側の危険については、こちらにまとめています。
⑦ 浴室とトイレに「つかまる場所」があるか
家の中で転倒が多いのは、浴室・トイレ・階段・玄関の4か所です。浴槽をまたぐとき、便座から立ち上がるとき、つかまる場所はあるか。もし要支援・要介護認定を受けているなら、手すりの設置に介護保険から最大18万円の補助が出ます。
【お金・暮らしのサイン】3つ
⑧ 見慣れない業者のチラシ・名刺・契約書がないか
「屋根の無料点検」「床下の湿気調査」——高齢者だけの家は、悪質な訪問業者に狙われやすいです。玄関先や電話台のまわりに、見慣れない業者の紙が残っていないか、それとなく確認してください。
→ 訪問リハビリ中に遭遇した「詐欺電話・悪徳業者」——手口と家族の対策
⑨ 郵便物・書類が溜まっていないか
未開封の封筒の山は、「書類を処理する気力・判断力が落ちてきた」サインです。特に、税金や保険の書類が未開封のままなら、少し注意が必要です。
⑩ 「この家、これからどうしたい?」を聞けそうな空気があるか
最後のチェックは、家ではなく会話のチャンスです。仏壇に手を合わせたあと、食事のあと、ふとした時間に「お父さんたち、この家にいつまで住みたいと思ってる?」と聞ける空気があるか。
いきなり「売る・売らない」の話をする必要はありません。親の気持ちを聞いておくだけで、将来の選択肢がまったく変わります。
サインを見つけたら——「その場で問い詰めない」が鉄則
チェックリストで気になる項目があっても、その場で「片付けなよ」「病院行きなよ」と言うのはやめてください。
親にとって、久しぶりに帰ってきた子どもから暮らしを指摘されるのは、思っている以上にプライドが傷つくことです。防衛的になって、次から本音を話してくれなくなります。
やることは2つだけです。
- 記憶して、持ち帰る:気になったサインをメモしておく(きょうだいがいれば共有する)
- 「考える順番」を知る:親の体 → 家のお金の価値 → 家族の事情、の順で整理する
その「考える順番」は、こちらの記事で全体像をまとめています。帰省から戻る新幹線の中で読むのに、ちょうどいい長さです。
→ 親の家、リフォーム・売却・賃貸どれが正解?PT × 宅建士が判断軸を解説
まとめ:帰省は「親孝行」と「観察」を兼ねられる
お盆の帰省中にチェックしてほしい10のサインをまとめます。
親の体:①壁を伝って歩く ②立ち上がりに手をつく ③階段を避ける ④同じ話を繰り返す 家:⑤冷蔵庫の重複買い ⑥通り道の物 ⑦浴室・トイレのつかまる場所 お金・暮らし:⑧業者のチラシ ⑨未開封の郵便物 ⑩家の将来を聞ける空気
全部を確認しようと構える必要はありません。ひとつでも「あれ?」があったら、それが家族で考え始めるきっかけです。
大きな出来事が起きてからでは、選べる道が減っています。元気なうちの「あれ?」こそ、一番価値のあるサインです。
なお、医療・介護・不動産・税務に関する個別の判断は、医師・ケアマネジャー・宅建士・税理士などの専門家にご相談ください。
著者プロフィール けいすけ / 理学療法士(訪問リハビリ歴10年以上)× 宅地建物取引士 × 賃貸不動産経営管理士 × 大家歴10年以上。医療と不動産、両方の現場から「親の家、どうする?」を考えます。
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親の家を考える