「歳をとると、賃貸が借りられなくなるらしい」——そんな話を、一度は聞いたことがあると思います。
持ち家のない人にとっては、不安になる話ですよね。「このまま賃貸で老後を迎えて、大丈夫なんだろうか」と。
実際、これは気のせいではありません。ある調査では、高齢者の約3人に1人(30.4%)が「年齢を理由に入居を断られた経験がある」と答えています(株式会社R65「高齢者の住宅難民問題に関する実態調査」2025年)。不安になるのも当然の数字です。
私は理学療法士として高齢者の暮らしを見てきた一方で、家族法人で10年以上、賃貸物件の大家もしています。つまり、入居を「貸すか・断るか」判断する側の人間です。
今日は、よくある「借りる側」目線の解説ではなく、“貸す側=大家”の本音から、この問題を正直にお話しします。結論から言うと、「絶対に借りられない」ほど悲観する話ではありません。 ただし、知っておくべきことはあります。
この記事の結論
- 高齢になると借りにくくなる場面は確かにある。でも年々改善している
- 大家が心配しているのは主に「孤独死」「家賃滞納」「残置物」の3つ
- この不安が消える条件は、結局「お金(支払い力の証明)」と「人とのつながり(連絡先・保証)」
- 国の制度(住宅セーフティネットなど)も使える
順番に、貸す側の本音で話します。
1. 大家は、高齢者の入居をどう見ているのか
正直に言います。大家にとって、高齢の入居希望者は「少し慎重に見る相手」ではあります。差別したいわけではなく、後で説明する現実的な心配があるからです。
私自身の考えを正直に言うと、これからの時代、高齢者を一律に避けるのは現実的ではないと思っています。少子高齢化で、部屋を探す人に占める高齢者の割合は、これからどんどん増えていくからです。理学療法士として高齢の方の暮らしを間近で見てきた立場でもあり、大家としても、「どう断るか」より「どう関わり、どう受け入れていくか」を考えるべき段階に来ている——そう感じています。
ただ、これは「高齢だから問答無用でお断り」ということではありません。心配のポイントが解消できれば、十分に貸せる——これが本音です。
2. 大家が心配している「3つのこと」
では、具体的に何を心配しているのか。突き詰めると、だいたいこの3つです。
① 孤独死
一番大きいのが、これです。室内で亡くなられると、発見が遅れた場合に原状回復に大きな費用がかかり、その後の入居づけにも影響します。大家にとっては、正直もっとも避けたいリスクです。
これは私だけの感覚ではありません。国土交通省の資料でも、大家(賃貸人)の約7割が高齢者への賃貸に「拒否感」を持っており、その理由の最多が「居室内での死亡事故(孤独死)等への不安」で約9割となっています。多くの大家が、同じところを心配しているのです。
② 家賃の滞納
年金生活になって収入が減り、家賃が払えなくなるのではないか、という心配です。現役時代に高収入でも、リタイア後の「支払い続けられる力」を大家は見ています。
③ 残置物(亡くなった後の家財)
入居者が亡くなったとき、室内に残された家財を誰が片付け、誰が費用を持つのか。身寄りがないと、これが宙に浮いてしまいます。
——この3つは、裏を返せば「ここさえクリアできれば貸せる」というチェックリストでもあります。
3. 「この人なら貸せる」と思える条件
では、大家が「この高齢の方なら安心して貸せる」と感じるのは、どんなときか。
私の場合、判断はシンプルです。「支払い能力がきちんと証明できるか」——ここに尽きます。具体的には、家賃保証会社の審査が通るか、そして身元引受人や、いざというときの連絡先があるか。この2点がクリアできれば、年齢を理由にお断りすることはありません。
ポイントを整理すると、大きく2つです。
① お金(支払い力の証明) まとまった資産があり、「家賃をきちんと払い続けられる」と示せれば、滞納の不安は一気に減ります。年金額、預貯金、家賃保証会社の利用などです。
ここで効くのが、口で説明するだけでなく「資産を証明できるもの」を示せることです。たとえば、預貯金通帳の残高や、受け取っている年金額がわかる書類など。「払えます」と言葉で言われるより、目に見える形で示してもらえると、大家は一気に安心します。
② 人とのつながり(連絡先・保証) いざというときに連絡が取れる家族・身元引受人がいる、家賃保証会社に入れる、地域とのつながりがある——これだけで、孤独死・残置物の不安がぐっと和らぎます。
さらに強い「+材料」になるのが、その親族自身にもきちんと支払い能力があることです。うちの物件は家賃保証会社を全戸必須にしていて連帯保証人は取らない運用ですが、それでも「緊急連絡先になってくれる子どもがいて、その子どもに安定した収入がある」と分かると、大家から見た安心感はぐっと上がります。万が一のとき、連絡が取れて相談できる相手がいるかどうかは、保証会社とは別の意味で大きいのです。
逆に言えば、「孤独」そのものが一番のリスクです。だからこそ、お金の備えと同じくらい、人とのつながりを持っておくことが効きます。
なお、「孤独がなぜそこまで怖いのか」をもっと知りたい方には、岡本純子さんの『世界一孤独な日本のオジサン』(角川新書)が参考になります。孤独が健康にどれだけ悪いか(喫煙や肥満に匹敵するという研究など)が、データとともにわかりやすく書かれていて、私自身も読んで「人とのつながりの大切さ」を改めて考えさせられた一冊です。住まいの話とは少し離れますが、「孤独に備える」という意味で、老後を考えるすべての人に読んでほしい本です。
4. 国の制度も「貸す側の安心」を後押ししている
実は、高齢者が借りやすくなるよう、国や公的機関も動いています。大家の立場から見ても、これらは「貸す側の不安を減らす」仕組みです。
- 住宅セーフティネット制度:高齢者など住宅確保が難しい人の入居を断らない「セーフティネット住宅」を国が後押し。家賃債務保証や見守りの仕組みもある。2025年10月には改正法が施行され、高齢者などの住宅確保支援がさらに強化されました。
- 終身建物賃貸借:高齢者が亡くなるまで住み続けられる契約形態。相続トラブルになりにくく、貸す側も整理しやすい。
- UR賃貸住宅:高齢者を受け入れやすく、保証人不要の選択肢もある。
「民間の大家に断られた」としても、選択肢はこれだけある、ということです。年々、環境は良くなっています。
5. 大家として伝えたいこと
「高齢になると借りられない」という話は、半分本当で、半分は誤解です。
確かに、何の備えもない状態だと、慎重に見られます。でも、大家が心配しているのは「年齢」そのものではなく、「孤独死・滞納・残置物」という具体的なリスクです。だから、そこに備えておけば、年齢は決定的な壁ではありません。
「貸す側」として言えるのは、お金の準備と、人とのつながり——この2つを今から少しずつ整えておくこと。それが、将来の住まいの安心に直結します。
なお、入居審査で大家が実際にどこを見ているかは、こちらの記事もあわせてどうぞ(→「大家が入居審査で本当に見ているポイント」)。
まとめ
- 高齢で借りにくくなる場面はあるが、「絶対無理」ではない(環境は改善中)
- 大家の心配は孤独死・家賃滞納・残置物の3つ
- 安心の条件は「お金(支払い力の証明)」と「人とのつながり(連絡先・保証)」
- 住宅セーフティネット・終身建物賃貸借・URなど公的な選択肢もある
歳をとっても住まいに困らないために、いちばん大事なのは「孤独にならない備え」です。お金と人のつながり、今から少しずつ育てておきましょう。
なお、個別の契約や制度利用の判断は、自治体の窓口や専門家にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。
※データ出典:株式会社R65「高齢者の住宅難民問題に関する実態調査」(2025年)/国土交通省 住宅確保要配慮者に係る資料
著者プロフィール けいすけ / 理学療法士(訪問リハビリ歴10年以上)× 宅地建物取引士 × 賃貸不動産経営管理士 × 大家歴10年以上。医療と不動産、両方の現場から「親の家、どうする?」を考えます。
📖 Kindle本:『訪問リハビリで見た、老後の住まいの「正解」と「嘘」』(¥500 / KU読み放題対象)
なお、入居された方が亡くなったあとについては親が賃貸で亡くなったら、部屋と契約はどうなる?にまとめています。
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