「法人に物件を持たせれば節税になる」は半分ホント、半分キケン
前回の記事で、不動産管理法人の3つの方式を紹介しました。その中で一番節税効果が大きいのが、法人が建物を持つ「不動産所有方式」です。
ただ、ここでよくある誤解があります。
「法人に物件を持たせれば節税になるんでしょ?」
——半分はその通り。でも半分は危険な思い込みです。
「節税」と一口に言っても、「いつ」「誰の」「何の税金」を減らすのかで答えが変わります。ここを曖昧にしたまま実行すると、節税のつもりが逆に損をすることがあります。
家族法人で賃貸経営に携わっている立場から、親の物件を法人に売る前に確認したい3つのことを解説します。
確認①:親の年齢——「逆効果」になるケースがある
ここが一番大事なポイントです。
親の物件を法人に売却するということは、親の財産が「不動産」から「現金(売却代金)」に入れ替わるということです。
実はこれ、一般的な相続税対策と真逆のことをしています。
相続税の世界では、現金より不動産(特に賃貸物件)のほうが評価額が低くなるのが基本です。だから「現金で賃貸物件を建てる」のが定番の相続税対策になっているわけです。
法人への売却はその逆。親の相続財産の評価額は、むしろ上がる方向に働くことがあります。
たとえば、法人化で所得税が毎年100万円節税できたとしても、相続財産の評価が3,000万円分上がってしまったら——その差を取り戻すのに何十年もかかる計算になります。親がすでに高齢の場合、節税効果を回収する前に相続が来てしまう可能性があるのです。
法人化の所得税メリットは「長期戦」で効いてくるもの。親の年齢と健康状態は、最初に確認すべき項目です。
確認②:長期で見れば効果は大きい——「家賃の行き先」が変わる
一方で、時間を味方につけられるなら、不動産所有方式の効果は確かに大きいです。
物件が法人のものになると、家賃収入は完全に法人に入ります。
これが何を意味するか。親個人に家賃が入り続けると、相続財産(現金)が毎年どんどん積み上がっていきます。年間500万円の家賃収入があれば、10年で5,000万円。これが全部、将来の相続税の対象です。
法人所有にすれば、この現金の積み上がりが親の財産から切り離されます。役員報酬として家族に分配すれば、所得の分散と将来の相続財産の抑制が同時にできる——これが法人化の本当の狙いです。
つまり、「親がまだ60代で、賃貸経営が10年20年続く」家庭ほど効果が大きい仕組みだということです。
確認③:「最初から法人名義で建てればいい」とも言い切れない
「じゃあ新しく建てるなら、最初から法人名義にすればいいのでは?」
これも一概には言えません。
短期的な相続税対策としては、親個人の名義で賃貸物件を建てたほうが有利な場面があります。賃貸物件を建てると、土地の評価が「自用地」から「貸家建付地」に変わって下がるからです。
さらに、2027年からは「5年ルール」が導入される見込みです。亡くなる前5年以内に取得した賃貸用不動産は、相続税の評価が取得価額ベース(約80%)になり、直前の駆け込み購入による評価圧縮が効かなくなります。
詳しくはこちらの記事で解説しています。 → 2027年相続税改正でアパート節税が終わる?5年ルールの意味
個人名義か法人名義か、買うのか建てるのか、いつやるのか——家族の年齢と資産の全体像を見ないと、正解は決められないのです。
補足:家族間でも「時価」で売買すること
親の物件を家族法人に売るとき、「身内だから安くていいだろう」は通用しません。
著しく安い価格で売買すると、時価との差額に思わぬ課税(みなし譲渡や法人側の受贈益課税)が起きることがあります。売買価格は不動産鑑定や税理士の助言をもとに、きちんと時価で設定してください。
また、親に売却益が出れば、当然親に譲渡所得税がかかります。登録免許税や不動産取得税などの移転コストも含めて、「動かすこと自体のコスト」を必ず試算に入れましょう。
まとめ:「いつ・誰の・何税」を紙に書いてから動く
- 法人への物件売却は、親の財産を「不動産→現金」に組み替える行為。一般的な相続税対策と逆方向に働くことがある
- 親が高齢の場合、所得税の節税効果を回収する前に相続が来るリスクがある
- 効果が大きいのは「親がまだ若く、賃貸経営が長く続く」家庭
- 家族間でも売買は時価で。移転コストも忘れずに
私自身、家族法人に関わっていて思うのは、この手の対策は「手法から入ると失敗する」ということです。「法人がいいらしい」ではなく、「うちは誰の何の税金をいつ減らしたいのか」を家族で言葉にしてから、税理士に相談する。この順番がいちばん安全です。
※具体的な売買価格の設定・税務判断は、必ず税理士にご相談ください。
著者プロフィール けいすけ / 理学療法士(訪問リハビリ歴10年以上)× 宅地建物取引士 × 賃貸不動産経営管理士 × 大家歴10年以上。医療と不動産、両方の現場から「親の家、どうする?」を考えます。
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