「あの日だけ、やたら元気だったんです」
要介護認定の結果が思ったより軽く出たご家族から、よく聞く言葉です。
要介護認定は、住宅改修も福祉用具もケアプランも、すべての入口です。ここが実態より軽く出ると、使えるはずのサービスが使えなくなります。
この記事では、調査の日に何が起きているのかと、どう伝えれば実態が伝わるのかをお話しします。
この記事の結論
- 認定調査は74項目の聞き取り。「できますか」と聞かれると、多くの高齢者は「できます」と答えます
- 悪気はありません。その場では本当にできてしまうからです
- 家族の役割は「否定」ではなく「補足」。本人の前で「できないでしょ」と言うのは逆効果
- 鍵は「特記事項」。数字にならない実態は、ここに書いてもらうしかありません
- 結果に納得できないときの道は2つ。実務では「区分変更申請」のほうが早い
認定調査で、何が行われているのか
まず、仕組みを簡単に。
- ① 市区町村に申請
- ② 認定調査(74項目の基本調査+特記事項)
- + 主治医意見書(市区町村が主治医に依頼)
- ③ 一次判定(コンピュータによる判定)
- ④ 二次判定(介護認定審査会)
- ⑤ 結果の通知 …… 原則、申請から30日以内
ポイントは、②が2つに分かれていることです。
| 中身 | どう扱われるか | |
|---|---|---|
| 基本調査 | 74項目の選択式 | コンピュータの一次判定に使われる |
| 特記事項 | 調査員が書く自由記述 | 審査会(人)が読む |
74項目だけでは、実態が伝わりません。選択肢に当てはまらない事情は、すべて特記事項に書いてもらうしかないのです。
なぜ、その日だけ「できてしまう」のか
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
理由① その場では、本当にできる
「立ち上がれますか?」と聞かれれば、多くの方は立ち上がろうとします。
そして——一度なら、できてしまうことが多いのです。
でも、介護が大変なのは「一度」ではありません。
- 調査の場面 1回だけ、気合いを入れて、日中に、見られながら
- → できる
- 実際の生活 1日に何度も、疲れていても、夜中でも、ひとりで
- → できない日がある
「できる/できない」は、日によって変わります。訪問リハビリの現場では、これがごく当たり前です。月曜にできたことが、木曜にできない。珍しいことではありません。
理由② 人に見られると、がんばってしまう
知らない人が家に来て、自分の体のことを見に来た。
この状況で、実際より弱く振る舞える人は、そう多くありません。
これは性格の問題ではなく、人として自然な反応です。とくに、人生で人に頼らずやってきた方ほど強く出ます。
理由③ 家族に、迷惑をかけたくない
これがいちばん切ないところです。
「できない」と答えることは、本人にとって「家族に負担をかけると認めること」でもあります。
だから——家族が横にいると、かえって「できます」と言ってしまうことがあります。
家族がやりがちで、逆効果になること
本人の前で「いや、できないでしょ」と否定することです。
気持ちはよく分かります。実際できていないのですから。
でも、こうなりかねません。
家族「できないでしょ」
↓
本人が引っ込みがつかなくなる
↓
調査員は、本人の答えを記録するしかない
とくに、人に頼らずやってこられた方ほど、こうなりやすいと感じています。
本人のプライドを守りながら、事実を残す。これが、家族の仕事です。
正しく伝わる、3つの方法
方法① 事前に、メモを渡す
いちばん確実です。
調査の前に、紙に書いて調査員に渡してください。口頭より確実に残りますし、本人の前で言わずに済みます。
書くのは、この3つだけで十分です。
- いつ、何が、どうできなかったか(日付つき)
- 1日のうち、どの時間帯が大変か
- 家族が実際にやっている介助の内容と回数
「大変です」では伝わりません。数字と場面を書いてください。
| ❌ 伝わらない書き方 | ⭕ 伝わる書き方 |
|---|---|
| 夜が大変です | 夜間に2〜3回トイレに起き、毎回付き添っている。8月に2回、間に合わずに汚してしまった |
| 歩くのが不安定です | 室内は伝い歩き。7月に玄関で転倒し、あざができた |
| 物忘れがあります | 同じことを1日に何度も聞く。鍋を火にかけたまま忘れたことが8月に1回 |
できなかった日の記録が、いちばん強い材料です。
方法② 「普段の様子」を、家族の言葉で伝える
私がご家族にお伝えしているのは、これです。
調査の場で見えるのは、その日その時間の姿だけです。普段どうなのかを知っているのは、家族だけです。
だから、本人の答えを否定するのではなく、こう足してください。
「今日は、本人にとって調子のいい日です。悪い日は、こういう感じになります」
本人の答えを否定していないので、角が立ちません。それでいて、調査員には「日によって違う」という事実が伝わります。
「いつもと比べてどうか」を伝える——これだけで十分です。難しい言い方はいりません。
方法③ 「特記事項に書いてください」と、はっきり頼む
これを知らない方が、本当に多いです。
調査員は、74項目に当てはまらない情報も、特記事項として書くことができます。そしてその特記事項を、審査会が読みます。
だから——
「いまお伝えしたことを、特記事項に書いていただけますか」
この一言を、遠慮しないで言ってください。
調査員は、書いてはいけないから書かないのではありません。聞いていないことは書けない、というだけです。
主治医意見書のことも、忘れずに
認定は、認定調査だけで決まりません。 主治医意見書も、同じくらい効きます。
これは市区町村が主治医に依頼するもので、本人の費用負担はありません。
でも——普段3分の診察しか受けていない先生に、生活の実態は分かりません。
- 申請の前に、主治医の診察で伝えておく
- 「介護保険の申請をします。
- 家では、こういうことに困っています」
外来の短い時間でいいので、一度伝えておいてください。それだけで、意見書の中身が変わります。
結果に納得できないとき——道は2つ
結果が出て、「これは実態と違う」と感じたとき。あきらめる必要はありません。
| 区分変更申請 | 審査請求(不服申立て) | |
|---|---|---|
| 出す先 | 市区町村 | 都道府県の介護保険審査会 |
| いつまで | いつでも | 結果を知った日の翌日から3か月以内 |
| 中身 | もう一度、調査からやり直す | 認定の手続きが正しかったかを審査 |
| かかる時間 | 新規と同じ流れ(原則30日以内) | 数か月かかることがある |
実務では、ほぼ「区分変更申請」です
理由は単純で、早いからです。
審査請求は「手続きが適正だったか」を見るもので、結果そのものを軽い・重いと判断し直す仕組みではありません。
状態が実際に重くなっているなら、区分変更申請のほうが実態に合っています。
区分変更は、ケアマネジャーに相談すれば代行してもらえます。「ケアマネさんに何を伝えれば動いてくれるか」も参考にしてください。
有効期間のことも知っておく
認定は、ずっと有効ではありません。
| 原則 | |
|---|---|
| はじめての認定 | 6か月 |
| 更新の認定 | 12か月 |
状態によって短くなったり長くなったりします。更新のたびに、また調査があります。
つまり、この記事の話は「一度きり」ではありません。更新のたびに使えます。
認定が変わると、何が変わるのか
最後に、なぜここまでこだわるのかをお話しします。
- 要介護度が変わると──
- ① 1か月に使えるサービスの量(支給限度額)が変わる
- ② 福祉用具で借りられるものが変わる
- ③ 施設の申し込み条件が変わる
とくに②です。
介護ベッドや車椅子は、要介護2以上でないと原則レンタルできません。要支援1〜要介護1の方は「軽度者」と呼ばれ、例外の手続きが必要になります。詳しくは「介護ベッドが借りられない——軽度者の福祉用具レンタルと例外給付」に書きました。
一方で、住宅改修の20万円は、要支援1でも同じように使えます。ここは要介護度に関係ありません(「介護保険の住宅改修費20万円」)。
認定は「介護の入口」であって、「介護のすべて」ではありません。軽く出たからといって、できることがなくなるわけではないのです。
この記事のまとめ
- 認定調査は74項目+特記事項。人が読むのは特記事項のほう
- その日だけ「できてしまう」のは自然なこと。性格の問題ではありません
- 本人の前で否定しない。意地になって、かえって軽く出ます
- 伝わる方法は3つ
- ① 事前にメモを渡す(「大変です」ではなく、日付と回数で)
- ② 「今日は調子のいい日です。悪い日はこうです」と調査員に伝える
- ③ 「特記事項に書いてください」とはっきり頼む
- 主治医意見書も効く。申請前の診察で、生活の困りごとを伝えておく
- 納得できないときは区分変更申請が実務的(いつでも出せる/審査請求は3か月以内)
- 認定ははじめて6か月・更新12か月が原則。更新のたびに、また使える話です
制度の運用や必要な書類は、お住まいの市区町村によって異なる場合があります。必ずケアマネジャーまたは市区町村の窓口でご確認ください。
親の介護を始めるときの全体像は「親の介護 始める前に確認すること5つ」に、住まいまで含めた全体像は「「親の家、どうする?」完全ガイド」にまとめています。
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