介護した分は相続で報われる?——特別寄与料と介護の記録 相続

介護した分は相続で報われる?——特別寄与料と介護の記録

「何年も親の介護をしてきたのに、相続はきょうだいで同じ割合なんですか?」

介護を担ってきた人ほど、相続のときにこう感じることがあります。とくに、長男の妻のように、相続人ではない人が義理の親を介護してきた場合は、そもそも遺産を受け取る立場にありません。

介護した分が報われる制度は、あります。ただし、知らないと使えない落とし穴もあります。

この記事では、宅建士として相続を勉強してきたことと、訪問リハビリの理学療法士(PT)として介護の現場で見てきたことから、介護した分が相続で認められる仕組みと、今日から残しておきたい記録を、順番に見ていきましょう。

この記事の結論

  • 介護した分を相続で主張する制度は2つ。相続人なら寄与分、相続人でない親族(長男の妻など)なら特別寄与料
  • どちらも、認められるのは家族として当たり前の範囲を超えた介護をしたとき。ハードルは高い
  • 特別寄与料は、話し合いがまとまらないときに家庭裁判所へ申し立てられる期限が、相続を知ってから6か月、または相続開始から1年
  • 認めてもらうには記録が要る。介護保険の書類や、事業所との連絡帳、カレンダーの書き込みも記録になる
  • 私が現場でよく見るのは、介護が家族の1人に偏っている家
  • 伝えたいのは、1人で抱えないこと。介護サービスに頼ることは悪いことではない

何が起きるのか——介護した人が報われないまで

介護を担った人が、相続で「報われない」と感じるのは、多くの場合、次のような流れです。

親の介護が、家族の1人に偏る
  ↓
何年も続く(記録は特に残していない)
  ↓
親が亡くなり、相続の話し合いが始まる
  ↓
法律で決まった割合(法定相続分)で分けよう、という話になる
  ↓
「介護した分を考えてほしい」と言っても、証拠がなく、話がまとまらない

相続の話し合いでは、気持ちだけでは通りにくいのが現実です。「どれだけ介護したか」を、ほかの家族に分かる形で示す必要があります。

介護した分を主張できる、2つの制度

介護した分を相続で主張する制度は、介護した人が相続人かどうかで分かれます。

寄与分特別寄与料
使える人相続人(子など)相続人でない親族(長男の妻、孫など)
どう報われるか遺産を分けるときに、取り分が増える相続人に、お金を請求できる
始まった時期以前からある2019年7月から
根拠民法904条の2民法1050条

特別寄与料ができる前は、長男の妻がどれだけ義理の親を介護しても、相続人ではないため、法律上は何も主張できませんでした。この点が、2019年の法改正で変わりました。

認められるのは「当たり前の範囲」を超えたとき

ただし、介護をしたことが、そのまま認められるわけではありません。

民法では、どちらの制度も、介護などによって親の財産の維持または増加に「特別の寄与」をしたことが条件になっています。家族が助け合うのは当然、という考えがあるため、家族として当たり前の範囲の手伝いは、特別の寄与とは見られにくいのです。

一般的に、次のような点が見られるといわれています。

見られる点認められやすい方向認められにくい方向
介護の中身食事・トイレ・入浴など、体に触れる介護を日常的にしていた買い物や、ときどきの見守り
期間長い期間、続けていた短い期間だけ
専念の度合い仕事を減らすなど、介護にかなりの時間を使っていた空いた時間に手伝った
お金を受け取ったか無償だった生活費などをもらっていた
財産への影響介護サービスを使わずに済み、親のお金が減らずに済んだ親の財産に影響がない

介護の現場から見ると、「トイレの介助を毎日している」と「ときどき様子を見に行く」では、体の負担も時間もまったく違います。どんな介護を、どのくらいの頻度でしていたかが分かる記録が、ここで効いてきます。

でも、記録は今日から残せる

認められるハードルは高いですが、希望もあります。介護の記録は、特別な準備がなくても、今日から残せるということです。

しかも、介護保険を使っていれば、手元にすでにある書類が記録になります。

記録何が分かるか
要介護認定の結果通知親がどのくらい介護を必要としていたか
ケアプラン(介護サービスの計画書)どのサービスを使い、家族がどこを担っていたか
サービス利用票(毎月ケアマネから届く予定表)ヘルパーなどが来ていない日・時間=家族が介護していた時間
事業所との連絡帳その日の様子や、家族が何をしたか
カレンダーの書き込み通院の付き添い、介護をした日
領収書介護用品や通院のために使ったお金

認定のときの調査の記録や、主治医の意見書は、市区町村に開示を求められる場合もあります。

捨てずにとっておくだけでも、あとから「いつ、どんな介護をしていたか」を説明する材料になります。そこに、日付と「何をしたか」を1行ずつ書き足していけば、それで十分です。

親の通帳を預かって介護費を払っている場合の、お金の記録の残し方は「親の通帳を預かったら」にまとめています。

ただし、期限があります

もう1つ、知っておきたいのが期限です。

期限
特別寄与料話し合いがまとまらないときに家庭裁判所へ申し立てられるのは、相続の開始と相続人を知ってから6か月、または相続開始から1年まで
寄与分相続開始から10年を過ぎてから遺産を分けると、原則として寄与分を主張できなくなる(2023年4月からのルール)

とくに特別寄与料は、期限がとても短いです。親が亡くなったあとは、葬儀や手続きで慌ただしく、気づいたら過ぎていた、ということになりかねません。

また、特別寄与料を受け取ると、相続税の対象になります。法律上は、亡くなった親から遺贈で受け取ったものとみなされます。長男の妻のように、親の子や配偶者ではない人は、相続税がかかる場合、2割加算の対象です。

現場から——介護が1人に偏っている家

訪問リハビリでいろいろな家にうかがうと、介護が家族の1人に偏っている家をよく見ます。同居している子や、長男の妻が、毎日の介護をほとんど1人で担っている家です。

一方で、そうした家で、事業所との連絡帳や、カレンダーへの書き込みをこまめにしている家族も見てきました。その日の様子、通院の予定、気になったこと。本人は、相続のためというより、介護を回すために書いています。

でも、相続の場面では、こうした日々の書き込みこそが、どんな介護をしていたかを示す記録になります。

介護する前に、知っておきたい3つのこと

  1. 記録は、毎日の書き込みで十分 特別な日記をつける必要はありません。連絡帳やカレンダーに、日付と「何をしたか」を書く。介護保険の書類は捨てずにとっておく
  2. 報われることを、あてにしすぎない 認められるハードルは高く、認められても金額は話し合いや裁判所の判断しだいです。介護した人に多く残したいなら、親が元気なうちに遺言書で残してもらうほうが確実です
  3. 生前に、家族で話しておく 「誰が、どれだけ介護を担っているか」を、きょうだいの間で共有しておくだけでも、相続のときのもめごとを減らせます

遺言書の種類と選び方は「遺言書は3種類」、生前の準備の順番は「生前にやること、何から?」にまとめています。

私が伝えたいこと——1人で抱えない

制度の話をしてきましたが、理学療法士として、いちばん伝えたいのは別のことです。

介護を、1人で抱えないでください。

介護が1人に偏ると、体も心も、少しずつすり減っていきます。ヘルパーやデイサービス、ショートステイなど、介護サービスに頼ることは、悪いことではありません。ケアマネジャーに「家族の負担が大きい」と伝えれば、使えるサービスを一緒に考えてくれます。

「介護サービスを使うと、特別の寄与が認められにくくなるのでは」と心配になるかもしれません。でも、介護する人が倒れてしまっては、親の暮らしも続きません。まず、介護する人が無理をしないことが先です。

よくある質問

長男の妻でも、介護した分を請求できますか?

できる場合があります。2019年7月から、相続人でない親族も、無償で介護などをして特別の寄与をした場合、相続人に特別寄与料を請求できるようになりました。ただし、認められるハードルは高く、期限も短いので、早めに弁護士などの専門家に相談してください。

特別寄与料は、いつまでに請求すればいいですか?

相続人との話し合いには期限がありませんが、まとまらないときに家庭裁判所へ申し立てられるのは、相続の開始と相続人を知ってから6か月、または相続開始から1年までです。

介護の記録は、どんなものを残せばいいですか?

要介護認定の結果通知、ケアプラン、毎月のサービス利用票などの介護保険の書類と、事業所との連絡帳、通院や介護をした日のカレンダーの書き込み、領収書などです。日付と「何をしたか」が分かるものを残してください。

特別寄与料を受け取ると、税金はかかりますか?

相続税の対象になります。遺贈で受け取ったものとみなされ、親の子や配偶者ではない人は、相続税がかかる場合に2割加算の対象にもなります。具体的な税額は、税理士に確認してください。

この記事のまとめ

  • 相続人なら寄与分、長男の妻など相続人でない親族なら特別寄与料
  • 認められるのは、当たり前の範囲を超えた介護。ハードルは高い
  • 特別寄与料の家庭裁判所への申し立ては、6か月または1年まで
  • 記録は、介護保険の書類・連絡帳・カレンダーで今日から残せる
  • 確実に残したいなら、親が元気なうちに遺言書。そして、介護は1人で抱えない
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参考:e-Gov法令検索「民法」(第904条の2・第904条の3・第1050条)/「相続税法」(第4条)/国税庁「No.4157 相続税額の2割加算」(いずれも2026年10月20日確認)

寄与分や特別寄与料が認められるかどうか、その金額は、事情によって大きく変わります。具体的な相談は、弁護士・税理士などの専門家にご確認ください。

親の家をどうするかの全体像は「「親の家、どうする?」完全ガイド」にまとめています。

けいすけ(運営者)

理学療法士(訪問リハビリ歴10年以上)× 宅地建物取引士 × 賃貸不動産経営管理士 × 大家歴10年以上。 医療と不動産、両方の現場から見えてくる「親の家のリアル」を、なるべくフラットな視点で発信しています。