ベッドから車椅子へ移る動線——部屋のどこに何を置くかで決まります 介護リフォーム

ベッドから車椅子へ移る動線——部屋のどこに何を置くかで決まります

ベッドから車椅子へ。車椅子からベッドへ。

この動きを「移乗(いじょう)」と言います。介護のなかで、いちばん回数が多い動作です。

朝起きる、トイレに行く、食事に行く、また戻る。1日に10回を超えることも珍しくありません。

そして、ここでの転倒が、とても多い。

この記事では、移乗がうまくいくかどうかを決めているのは力や技術ではなく「配置」だという話をします。

この記事の結論

  • 移乗の成否は「ベッドの高さ」「車椅子の位置」「つかまる場所」の3つでほぼ決まります
  • ベッドの高さは座って足の裏が床につく高さ。介護ベッドなら調整できます
  • 立って移るなら、車椅子はベッドに対して斜め20〜30度、動く側(麻痺がないほう)に。ひじ掛けが外せる車椅子なら平行につけて横にずれる方法もあります
  • ベッドを壁につけない。壁につけると、使える側が半分になります
  • 車椅子が入るには幅80cmが要ります。床に物があると入れません
  • 家具を動かすだけで変わることが多い。工事の前に、配置を見直してください

移乗は、体の動きではなく「段取り」です

移乗は、ざっくり言うとこの流れです。

ベッドに座る
    ↓
足を床につけて、前かがみになる
    ↓
お尻を浮かせて、向きを変える
    ↓
車椅子に座る

この一つひとつが、環境で楽にも難しくもなります。

動き楽になる条件難しくなる条件
ベッドに座る足の裏が床につく高さ高すぎて足が浮く/低すぎて立てない
前かがみになる前に空間がある目の前に車椅子や壁がある
向きを変える車椅子が斜めにある車椅子が真横で遠い/真正面で回る量が大きい
車椅子に座るひじ掛けをつかめるつかむものがない

体の力を増やすより、条件を整えるほうが早い。これが、私が現場で配置を先に見る理由です。

決め手は3つです

① ベッドの高さ——「座って足の裏がつく」

ここが最初です。

座ったとき
    ↓
足の裏が、床にぴたっとつく
    ↓
膝が、股関節と同じか、少し低い

これが立ち上がりやすい高さです。目安は40〜45cm前後ですが、人によって違います。

高すぎると、足が浮いて踏ん張れません。低すぎると、立ち上がるのに大きな力が要ります。

介護ベッドなら、ボタンで高さを変えられます。移るときの高さと、寝るときの高さは違っていい——ここを知らずに、ずっと同じ高さで使っている方が多いです。

私は訪問先で、実際に座ってもらって高さを合わせています。1〜2cmで変わります。

② 車椅子の位置——「斜め20〜30度」「動く側」

立ち上がって向きを変えて移る場合、車椅子はベッドと平行にも、直角にも置きません。斜め20〜30度が基本です。

置き方座面までの距離回る量何が起きるか
平行遠い少ないフットレストや後輪がベッドに当たり、足を引くスペースがない
直角遠い大きい移動距離もひねりも大きく、バランスを崩しやすい
斜め20〜30度近い少なめ座面が近く、足を引く場所があり、ひねりも小さい

斜めに置くと、お尻を浮かせて少し回るだけで座面に届きます。「最短距離で、安全に動ける置き方」を探すと、結果として斜めになる、という話です。数字そのものより、座面が近いこと・足の裏が床についていること・つかまる場所があることのほうが大事です。

ひじ掛けとフットレストが外せる車椅子なら、話が変わります。 ベッドと平行に、座面の高さをそろえてつければ、立たずに横へずれて移れます。回る量がいちばん少なく、立つのが不安な方にはこちらのほうが安全です。介護保険のレンタルで選べるので、ケアマネジャーや福祉用具の担当に「ひじ掛けが外れるものを」と伝えてください。

そして、動く側に置きます。

片側に麻痺がある方なら、麻痺のないほうへ移ります。動くほうの手でひじ掛けをつかみ、動くほうの足で支えるためです。

逆側に置くと、移乗そのものができなくなります。

③ つかまる場所——「立つとき」と「座るとき」で違う

移乗には、つかまる場所が2回要ります。

ベッドから立つときベッド側の手すり(ベッド用グリップ)
車椅子に座るとき車椅子のひじ掛け

どちらかが欠けると、そこで不安定になります。

ベッドの手すりは、介護ベッドのレンタルに付けられます。車椅子のひじ掛けは、跳ね上げ式や取り外せるものだと移乗しやすくなります。

部屋の配置で、よく見るもの

訪問先で見る配置の問題は、大きく分けて3つです。

ベッドが壁にくっついている

これがいちばん多い。

壁際に置くと、片側しか使えません。その使えない側が、動く側だった——という部屋があります。

ベッドを壁から離すか、向きを変えるかで解決します。動く側を空ける、それだけです。

家族からすると「壁につけたほうが部屋が広く使える」のですが、移乗のことを考えると逆です。

車椅子が入るスペースがない

車椅子の幅は、だいたい60〜65cm。斜めに入れて向きを変えるには、80cm前後の空間が要ります。

ベッドの横に、タンスやテーブルがある。そこに車椅子を入れようとして、入らない。よくあります。

ベッドの動く側に、80cm×120cmくらいの何もない空間を作ってください。

床に物がある

延長コード、雑誌、座布団、脱いだ靴下。

車椅子のキャスターは、小さな物でも乗り上げて止まります。

止まった瞬間に、移ろうとしていた体だけが動いて、転びます。

移乗する場所の床は、何もない状態にしてください。マットも、ずれるものは外します。

見直す順番

訪問先で、ベッドの位置を変えてもらうことがあります。順番はこうです。

① 本人に、ベッドに座ってもらう
    ↓
② 足の裏が床につくか、見る → 高さを合わせる
    ↓
③ どちら側に移るのが自然か、見る(動く側)
    ↓
④ その側に、車椅子が斜めに入る空間があるか、見る
    ↓
⑤ なければ、家具を動かすか、ベッドの向きを変える

工事は一切していません。動かすだけです。

ただし、介護ベッドはレンタル品です。動かすときは自分でやらず、福祉用具の業者に「位置を変えたい」と頼んでください。 設置はレンタルの仕事の範囲ですし、動かしたあとの不具合や故障の責任も、自分で動かすと話がこじれます。ケアマネジャー経由でも、業者に直接でも構いません。

介護保険で借りられるもの

移乗に関わる福祉用具は、ほとんどレンタルで揃います。

用具レンタル注意
介護ベッド(特殊寝台)○原則、要介護2以上
ベッド用手すり(グリップ)○ベッドの付属品
車椅子○原則、要介護2以上
移乗ボード(スライディングボード)○座ったまま滑って移る板

介護ベッドと車椅子は、要介護1以下だと原則借りられません。ただし例外があります。詳しくは「介護ベッドが借りられない——軽度者の例外給付」に書きました。

移乗ボードは、知られていない道具です。ベッドと車椅子の間に渡して、お尻を滑らせて移ります。立ち上がりが難しい方でも、ボードがあれば座ったまま移れることがあります。

家族が今日できること

配置の話は、家族が動けば今日変わります。

  • □ ベッドに座ってもらい、足の裏が床につくか見る
  • □ 動く側(麻痺がないほう)が空いているか見る
  • □ その側に、車椅子が斜めに入るか試す
  • □ 床に物がないか見る

4つとも、道具も工事も要りません。

見てみて、どれか引っかかったら、ケアマネジャーか訪問リハビリの担当者に「移乗のとき、配置を見てほしい」と伝えてください。それだけで話が進みます。

移乗が不安定だと、「手すりをつけよう」「床を直そう」と工事の話になりがちです。でも、配置を変えれば済むことが多い。

工事にするか道具や配置で済ませるかの考え方は「工事にするか、道具で済ませるか」に、車椅子が通れる幅の話は「車椅子が本当に通れる廊下の幅」にまとめています。

この記事のまとめ

  • 移乗は介護でいちばん回数が多い動作。転倒も多い
  • 成否を決めるのはベッドの高さ・車椅子の位置・つかまる場所の3つ
  • 高さは座って足の裏が床につく。介護ベッドなら調整できる
  • 車椅子は斜め20〜30度・動く側に置く
  • ベッドを壁につけない。使える側が半分になる
  • 車椅子が入るには80cm前後の空間。床に物を置かない
  • 介護ベッド・車椅子・移乗ボードはレンタルで揃う(要介護2以上が原則)
  • 工事の前に、配置を見直す。家具を動かすだけで変わることが多い

制度の内容は、お住まいの市区町村によって異なります。ケアマネジャーまたは市区町村の窓口でご確認ください。

親の家をどうするかの全体像は「「親の家、どうする?」完全ガイド」にまとめています。

けいすけ(運営者)

理学療法士(訪問リハビリ歴10年以上)× 宅地建物取引士 × 賃貸不動産経営管理士 × 大家歴10年以上。 医療と不動産、両方の現場から見えてくる「親の家のリアル」を、なるべくフラットな視点で発信しています。