「段差もなくしたし、床も片付けた。それなのに、また転んだんです」
親の転倒を心配して、家の中を整えた家族から、こういう声を聞くことがあります。段差や床の物は、足が引っかかる「つまずき」の原因です。でも、転倒の原因はそれだけではありません。
もうひとつ、見落とされやすいのが「ふらつき」です。足が引っかかっていないのに、体のバランスがくずれて倒れてしまう転び方です。
この記事では、訪問リハビリの理学療法士(PT)として、ふらつきやすい瞬間と、家族ができる工夫をまとめます。
この記事の結論
- 転倒には、足が引っかかる「つまずき」と、体がぐらつく「ふらつき」がある
- 段差をなくす・床を片付けるといった対策は、つまずきには効くが、ふらつきは防ぎきれない
- 私が訪問の現場で見てきた、ふらつきやすい瞬間は、寝起きと向きを変えるとき
- 寝起きは、起き上がってからすぐに立たず、しばらく時間をおく
- 向きを変えるときは、首だけで振り向かず、体ごと、ゆっくり
- ふらつきが急に増えたときは、体や薬の変化のサインのこともある。主治医に伝える
つまずきと、ふらつきは別のもの
まず、2つの違いを整理します。
| つまずき | ふらつき | |
|---|---|---|
| どんな転び方か | 足が段差や物に引っかかって転ぶ | 足は引っかかっていないのに、体がぐらついて転ぶ |
| よく起きる場面 | 段差、敷居、カーペットの端、床の物 | 立ち上がった直後、寝起き、向きを変えるとき |
| 効く対策 | 段差をなくす、床を片付ける、明るくする | 動き方を変える、つかまる場所をつくる、体の状態を確かめる |
家の中の転倒対策というと、段差や片付けの話が中心になりがちです。でも、それはつまずきの対策です。ふらつきは、家の形より、体の動かし方と体の状態に原因があることが少なくありません。
現場から——ふらつく瞬間は「寝起き」と「向きを変えるとき」
私が訪問リハビリで見てきた中で、ふらついて転んだり、転びそうになったりした場面は、大きく2つでした。
- 起きてすぐ(朝起きたとき、夜中に目が覚めたとき)
- 振り向いたとき、向きを変えたとき
どちらも、床に段差があるわけではありません。家がきれいに片付いていても、起きる場面です。家を整えても転ぶときは、動き方のほうに目を向ける必要があります。
ふらつきやすい瞬間①|寝起き
寝ている間、体は横になった姿勢に慣れています。そこから急に立ち上がると、血圧の調整が追いつかず、頭がふわっとして、ふらつくことがあります。立ち上がったときに血圧が下がる「起立性低血圧」と呼ばれるものです。
寝起きは、頭もまだはっきりしていません。夜中にトイレへ急ぐときは、なおさらです。
寝起きの工夫——すぐに立たない
私が現場でいつも伝えているのは、これです。
- 寝起きは注意する
- 起き上がってから、すぐに立ち上がらず、しばらく時間をおく
具体的な順番としては、一般的に次の流れがおすすめです。
- 目が覚めたら、横になったまま手足を軽く動かす
- ゆっくり起き上がって、ベッドの縁に座る
- 座ったまま、しばらく待つ
- 何かにつかまってから、立ち上がる
- 立ったら、すぐ歩き出さず、ふらつきがないか確かめる
夜中のトイレで、どのくらい座って待てばよいかや、トイレまでの道の工夫は「夜間のトイレが一番危ない」にまとめています。
ふらつきやすい瞬間②|向きを変えるとき
もうひとつは、振り向いたとき、向きを変えたときです。
- 後ろから呼ばれて、首だけで振り向く
- 台所で、冷蔵庫からコンロへくるっと回る
- トイレの中で、便座に座るために向きを変える
歩いているときより、向きを変えるときのほうが、体を支える足の位置が変わり、バランスをくずしやすくなります。
向きを変えるときの工夫
- 首だけで振り向かない。呼ばれたら、立ち止まってから、体ごと向きを変える
- ゆっくり回る。勢いをつけない
- 向きを変えることが多い場所(トイレの前、台所、部屋の出入口)には、つかまれる物を置く。置くタイプの手すりもある
- 家族は、後ろから急に声をかけない。前に回って話しかける
私が家族に伝えたいこと——つまずき対策だけでは防げない
家の中の転倒対策で、私がいちばん伝えたいのは、段差をなくしたり、片付けたりするだけでは防げない転倒があるということです。
段差や片付けは、もちろん大切です。でも、それで「もう大丈夫」と安心してしまうと、寝起きや向きを変えるときのふらつきは残ったままになります。
家を整えたあとは、もうひとつ、親がどう動いているかを見てください。
- 起きたら、すぐに立ち上がっていないか
- 呼ばれて、首だけで振り向いていないか
- 向きを変えるところに、つかまれる物があるか
これは、家族が帰省したときに、少し一緒に過ごすだけで分かります。
あわせて、親の足の爪も見てみてください。爪が伸びすぎたり巻いたりして痛いと、足の指で踏ん張れず、ふらつきにつながることがあります。爪が切れないときの頼み先は「親の足の爪が切れない」にまとめています。
ふらつきが急に増えたら
ふらつきは、年齢のせいだけとは限りません。体調の変化や、飲んでいる薬が影響していることもあります。
- 前より、ふらつく回数が増えた
- 起き上がったときに、目の前が暗くなると言う
- 薬が変わってから、ふらつくようになった
こうした変化に気づいたら、いつ、どんな場面でふらつくかをメモして、主治医や薬剤師に伝えてください。
この記事のまとめ
- 転倒には「つまずき」と「ふらつき」がある
- 段差や片付けはつまずきの対策。ふらつきは防ぎきれない
- ふらつきやすいのは、寝起きと向きを変えるとき
- 寝起きは、起き上がってからすぐ立たず、しばらく時間をおく
- 向きを変えるときは、首だけで振り向かず、体ごとゆっくり
- ふらつきが急に増えたら、場面をメモして主治医・薬剤師へ
家の中のどこが危ないかは「転倒しやすい家の特徴5つ」にまとめています。
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