「で、誰に相談すればいいの?」
税理士、弁護士、司法書士、行政書士。どれも「相続やります」と看板を出しています。
でも、できることが法律で決まっていて、まったく違います。間違えると、断られるか、余計にお金がかかります。
私は家族で不動産賃貸業の法人を営んでおり、税理士とは決算で毎年、司法書士とは物件の登記でお付き合いがあります。それでも「相続の相談は誰に?」となると、話が別でした。
士業は、思っている以上に守備範囲がはっきり分かれています。この記事は、専門家に頼む前の振り分けの地図として整理したものです。
この記事の結論
- 判断は3つの質問だけ:①もめているか ②不動産があるか ③相続税がかかるか
- もめている → 弁護士。交渉を代理できるのは弁護士だけです
- 相続税がかかる → 税理士。税務署に出す書類は税理士しか作れません
- 不動産がある → 司法書士。登記は2024年から義務になりました
- もめておらず、書類だけ → 行政書士という選択肢もあります
- 1人で全部は終わりません。多くの家庭で2つ以上を使います
まず、この3つに答えてください
- 質問① 相続人どうしで、もめていますか?
- 質問② 不動産(家・土地)がありますか?
- 質問③ 相続税がかかりそうですか?
この答えで、ほぼ決まります。
| あなたの状況 | 最初に相談する先 |
|---|---|
| もめている/もめそう | 弁護士 |
| もめていない+相続税がかかる | 税理士 |
| もめていない+税金なし+不動産あり | 司法書士 |
| もめていない+税金なし+不動産なし | 行政書士(または自分で) |
上から順に見てください。「もめている」が最優先です。
もめているなら、弁護士しかいません
これは選択の余地がありません。
他の相続人と交渉したり、話し合いを代理できるのは弁護士だけです。
「兄と話がまとまらないので、代わりに話してほしい」
↓
税理士も司法書士も、これはできません
他の士業がやると法律違反になります。だから、もめている案件は断られます。
「もめている」の範囲は、思ったより広い
怒鳴り合っているだけがもめごとではありません。
- ・連絡が取れない相続人がいる
- ・「実家は自分がもらう」と主張している人がいる
- ・生前にお金を渡していた/もらっていた人がいる
- ・介護をした分を多くほしいと言っている人がいる
どれか1つでも当てはまるなら、先に弁護士に相談したほうが早いです。
遺産分割が長引くと、受けられるはずの税の特例が使えなくなります。詳しくは「遺産分割が終わらないと何を失うか」に書きました。
例外:140万円以下なら司法書士も
認定司法書士という資格を持つ先生は、請求額140万円以下の範囲でなら交渉に関われます。
ただし、不動産が絡む相続で140万円以下に収まることは、ほぼありません。実務では「弁護士」と考えて差し支えないと思います。
相続税がかかるなら、税理士です
税務署に出す申告書を作れるのは、税理士だけです。
相続税の申告期限 = 亡くなった日の翌日から10か月
10か月は、思っているより短いです。「かかりそうだ」と思った時点で動いてください。
ただし、税理士なら誰でもいいわけではありません
ここが、私がいちばん驚いたところです。
相続税を扱う税理士は多くても、不動産の評価まで強い先生は限られます。 土地の評価は、経験のある先生とそうでない先生で、数百万円変わることがあります。
法人の決算をお願いしている税理士と、相続に強い税理士は、別だと考えたほうがいいです。私自身、顧問の先生に何でも聞けばいいと思っていた時期がありましたが、得意分野はきれいに分かれていました。
探し方は別記事にまとめました。「不動産が絡む相続は税理士選びを間違えると損をする」に、面談で何を聞けばいいかをチェックリストにしています。
「かからない」と思っても、一度確かめてください
相続税がかかるのは、亡くなった方の10人に1人ほどです。だから多くの家庭では不要なのですが——
不動産を持っている家庭は、話が別です。土地の評価額は、思っているより大きく出ることがあります。
不動産があるなら、司法書士です
名義を変える手続き(相続登記)は、司法書士の仕事です。
そして、これは2024年4月から義務になりました。
| 期限 | 不動産を相続したと知った日から3年以内 |
| 罰則 | 10万円以下の過料 |
| 過去の相続も対象 | 2027年3月31日までに登記が必要 |
「昔の相続で、まだ名義がおじいさんのまま」という家は、期限が迫っています。
登記そのものは自分でもできます。でも、相続人が多い・古い相続が絡む場合は、司法書士に頼んだほうが確実です。
物件の登記でお願いした経験からいうと、司法書士に頼む価値は「間違えないこと」です。書類が1枚足りないだけで法務局から差し戻され、また出し直しになります。その往復を代わりにやってくれる、と考えると分かりやすいと思います。詳しくは「相続登記の義務化」に書きました。
行政書士は、どこで使うのか
ここが、いちばん分かりにくいところだと思います。
行政書士ができるのは、「もめていない」書類仕事です。
- ⭕ 遺産分割協議書を作る(もめていない場合)
- ⭕ 戸籍を集める
- ⭕ 車やバイクの名義変更
- ⭕ 銀行の手続きの代行
- できないこと
- ❌ 相続税の申告(税理士)
- ❌ 不動産の登記(司法書士)
- ❌ もめている案件の交渉(弁護士)
「不動産も税金もないが、戸籍集めが大変」というときに向いています。
ただし、高度な法律判断が必要な場面には対応できません。迷ったら、他の士業に相談してください。
実際は、1人では終わりません
ここが、いちばん伝えたいところです。
不動産のある相続では、たいていこうなります。
税理士 → 相続税の申告
司法書士 → 名義変更(相続登記)
↓
最低でも2人
もめたら、そこに弁護士が加わります。
だから「窓口が1つ」の事務所が便利です
大きめの事務所では、税理士法人と司法書士法人がセットになっていることがあります。
1か所に頼めば、書類を何度も出さずに済みます。
ただし——得意分野が偏っていることもあります。 「不動産の評価は、どなたが担当されますか」と、一度聞いてみてください。
相談する前に、これだけ用意してください
手ぶらで行くと、話が進みません。
- 誰が相続人か(家族の関係が分かるメモで十分)
- 何があるか(不動産・預金・保険のざっくりした一覧)
- 遺言があるか
- もめている点はあるか(正直に)
④を隠さないでください。途中でもめごとが分かると、担当を替えることになり、費用が二重にかかります。
初回無料の相談を使う
多くの事務所が、初回の相談を無料にしています。
2〜3か所を回って、話しやすい先生を選んでいいと思います。最初の1か所で決める必要はありません。
私が、この記事を書いた理由
祖父が亡くなったときのことです。
当時の私は、まだ不動産にも大家業にも関わっていませんでした。知識がないまま、両親が相続の手続きで苦労しているのを、そばで見ていただけです。
とくに、この2つでした。
- 誰に相談すればいいのか、分からなかった
- 税金とお金の準備が、間に合わなかった
①は、まさにこの記事のテーマです。
「相続 相談」で調べても、出てくるのは各事務所の広告ばかり。 「うちの場合はどこなのか」を教えてくれるものが、ほとんどありませんでした。
結果、あちこちに聞きに行って、時間もお金も余計にかかりました。
②のほうが、もっと重い
相続税は、現金で、10か月以内に納めます。
不動産は、すぐには現金になりません。 「財産はあるのに、払うお金がない」——これが、不動産のある家で起きることです。
しかも、それに気づくのは、たいてい期限が近づいてからです。
だから、早く動いてほしい
あのとき私に知識があれば、少しは力になれたはずです。 何もできなかったことが、ずっと引っかかっていました。
私がその後、宅建士や賃貸不動産経営管理士の資格を取り、相続を勉強しているのは、同じことを繰り返したくないからです。
もめていなくても、財産が少なくても、「誰に聞くか」を先に決めておくだけで、進み方がまったく違います。
この記事が、その最初の一歩になればと思って書きました。
この記事のまとめ
- 3つの質問で振り分ける:①もめているか ②不動産があるか ③相続税がかかるか
- もめている → 弁護士。交渉を代理できるのは弁護士だけ
- 「連絡が取れない」「介護分を多く」も、もめごとに入ります
- 相続税がかかる → 税理士。期限は10か月
- ただし不動産の評価に強い先生を選ぶこと
- 不動産がある → 司法書士。2024年4月から登記は義務(3年以内・過料10万円以下)
- 過去の相続は2027年3月31日まで
- もめていない書類仕事 → 行政書士という選択肢も
- 不動産があるなら、最低2人は必要。1人で全部は終わりません
- 相続税は現金で10か月以内。不動産はすぐ現金にならない——お金の準備は早めに
- 相談前に、相続人・財産・遺言・もめごとの4つを整理しておく
どの士業に頼むべきかは、ご家庭の事情によって変わります。制度の内容や期限も改正されることがあります。判断に迷ったら、初回無料の相談を使って、税理士・弁護士・司法書士などの専門家に直接ご相談ください。
相続手続き全体の流れは「親が亡くなった後、いつまでに何をする?」に、親の家をどうするかの全体像は「「親の家、どうする?」完全ガイド」にまとめています。
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