「大家なのに、管理のルールを知らなかった」
我が家は祖父の代から、もう10年以上にわたって家族の法人で賃貸経営を続けてきました。とはいえ私自身は長く非常勤役員で、実務は両親と管理会社にまかせきり。常勤役員になって自分が前に立ち、本格的に関わり始めてしばらく経ったころのことです。
管理会社から一通のメールが届きました。内容は「入居者の退去にともなう原状回復費用の見積もり」です。
金額を見て、「高いな」と思いました。でも何が高いのか、どこまでが入居者の負担でどこからが大家の負担なのか、そのときの私にはわかりませんでした。
「まあ管理会社が言うんだからそうなんだろう」と、そのままサインしました。
家としては長く大家をやってきたのに、いざ自分が当事者として向き合ってみると、退去後の管理、原状回復、日常の修繕義務といった「大家として日々使う知識」が、自分にはまるで足りていなかったんです。
そのことに気づいて取得したのが、賃貸不動産経営管理士(賃管士)です。宅建よりも先に、この資格を取りました。
賃管士ってどんな資格?
正式名称は「賃貸不動産経営管理士」。2021年に国家資格になりました。
ひとことで言うと、「賃貸住宅の管理のプロ」を証明する資格です。
宅建士が「不動産の売買・賃貸借契約の仲介」の専門家だとすると、賃管士は「借りた後の管理」の専門家です。
試験で問われる内容をざっくり紹介します。
- 賃貸借契約のルール:どんな特約が有効か、更新・解約のルールなど
- 原状回復の考え方:退去時に何を誰が直すか(国交省のガイドラインに沿った判断)
- 設備の修繕義務:給湯器が壊れたら誰が直すか、大家はどこまで責任を負うか
- 賃貸住宅管理業法:2021年に施行された法律。管理会社の義務・オーナーへの説明義務など
- 入居者トラブルの対応:騒音苦情、家賃滞納、緊急時の対応ルールなど
合格率は30〜40%台で、宅建(15〜17%)と比べるとかなり取りやすい試験です。
なぜ宅建より先に取ったか
常勤役員になって、ひとつ気づいたことがありました。
両親はこれまで、実務的なことはこなしてきた。でも法律周りの細かい判断は、管理会社に任せている部分が多かったんです。
「管理会社が言うんだからそうなんだろう」という状態が長く続いていた。それ自体は悪いことではありません。でも、「管理会社が本当に正しいことを言っているかどうか」を確認できる人間が、家族の中に一人もいない状態に、私は危機感を覚えました。
知識武装が必要だ、と思いました。
管理会社や業者に対して、正しいことは正しい・おかしいことはおかしいと言える人間が家の中に一人いるだけで、経営の安全性はまったく変わります。
最初に取ったのが賃管士だったのは、「大家として日常で一番使う知識」がここに詰まっていたからです。
- 入居者から「エアコンが壊れた」と連絡が来た。これは大家が直すべきか?
- 退去時に壁紙が汚れていた。費用は入居者負担か大家負担か?
- 管理会社から「管理委託契約の内容を変更したい」と言ってきた。何を確認すべきか?
こういった場面で自分で判断できるようになることが、まず第一歩でした。
勉強方法:大家なら早めに取りたい
使ったもの
完全独学です。本格的に使ったのは「みんなが欲しかった!賃貸不動産経営管理士の教科書」と問題集の2冊。通称「みんほし」と呼ばれているシリーズで、図解が多くわかりやすい。通信講座もスクールも使いませんでした。
この2冊で合格できた理由はシンプルで、合格率が30〜40%台あるので、テキスト独学でも十分対応できる難易度だからです。
実際に使った2冊です(最新の2026年度版)。「みんほし」は毎年改訂されるので、買うなら必ず最新年度版を選んでください。
ひとつ補足すると、私はいきなり教科書から入ったわけではありません。「自分に受かるんだろうか」という不安があったので、まずは同じシリーズの入門書「合格へのはじめの一歩」で試験の全体像をつかむところから始めました。イラスト中心で、勉強から長く離れていた私でもすんなり読めました。
「独学でやれるか不安」という人は、いきなり教科書を買うより、この入門書を1冊読んでみて「いけそうだ」と思えてから本格的な勉強に進むのがおすすめです。私もそうしました。
なお、賃管士の試験範囲には借地借家法・民法など、後に宅建で学ぶ内容と重なる部分があります。
特に借地借家法は、賃管士では「実務としてどう使うか」、宅建では「法律として正確に理解する」という角度で学びます。両方の試験で繰り返し学んだことで、理解がぐっと深まりました。「あ、賃管士のときに出てきた場面だ」と宅建で気づく瞬間が何度もありました。
賃管士を先に取っておくことで宅建の学習がスムーズになる——これは実体験として言えます。
勉強ペースと期間
勉強したのは2023年。仕事(訪問リハビリ)をしながら、小さな子どもが2人いる中での勉強です。まとまった時間なんてありません。
唯一使えたのが朝の時間でした。子どもたちが起きてくる前の1〜2時間。毎朝コツコツ続けるしかありませんでした。
勉強の流れはこんな感じです。
- テキストを1章読む
- 同じ章の問題を解く
- 間違えた問題だけテキストで確認する
- 次の章へ進む
この繰り返しで1周、試験2週間前からは問題集を繰り返し解いて弱点を潰しました。
「5問免除」は使ったほうがいい
賃管士の試験には、5問免除という仕組みがあります。
指定された「賃貸不動産経営管理士講習」を修了すると、本試験の50問のうち5問が免除されます(45問だけ解けばよく、免除された5問は得点としてもらえる扱い)。つまり最初から5点ぶんのアドバンテージを持って試験に臨めるということです。
費用は、受講料が約1.8万円+テキスト代で、合計2万円ちょっと(年度や実施団体で変わります)。だいたい2週間ほどの事前学習と、1日の講習で修了できます。
「2万円は高い」と感じるかもしれません。でも私は、使ったほうがいいと思っています。
理由はシンプルで、この試験は年に1回しかないからです。あと1〜2点足りずに落ちれば、次のチャンスはまた1年後。その「1年」を取り戻すコストを考えれば、2万円で5点を確保できる保険は、けっして高くありません。合格ラインぎりぎりで落ちるのが一番もったいないんです。
※費用・日程・申込方法は年度によって変わります。受ける前に必ず実施団体や賃貸不動産経営管理士協議会の公式サイトで最新情報を確認してください。
直前対策には予想模試が役立った
本番前にやっておいてよかったのが、直前予想模試です。
教科書と問題集で知識を入れても、本試験は別物。時間配分や「本番そっくりの出題形式」に慣れておくと、当日あわてません。私は試験の直前にこれを解いて、うろ覚えだった分野を最後にあぶり出しました。模試で一度「本番のリハーサル」をやっておくと、当日の安心感がまるで違います。予想模試はTAC・LECなど各社から出ていますが、目的は本番形式に慣れること。まずはどちらか1冊で十分です。
大家なら「実務感覚」が武器になる
賃管士の試験は、現場の感覚があると有利です。
「退去時のトラブル」「設備の修繕義務」「管理会社との契約」——これらは大家として実際に経験していることです。テキストに書いてある事例が「あのとき自分が直面したことだ」と結びつくと、記憶に残りやすい。
逆に言うと、大家として日々感じている「これどうするんだろう」という疑問が、そのまま試験範囲になっている資格です。実務と勉強が直結しているので、やっていて苦にならない勉強でした。
取得後に変わったこと
退去対応で「言いなり」にならなくなった
これが一番大きな変化です。
以前は退去時の原状回復費用の見積もりを見ても、「こんなものかな」と受け入れるしかありませんでした。
今は見積もりを受け取ったとき、「これは通常損耗か、それとも入居者の過失か」を自分で考えられます。通常損耗とは、「普通に生活していれば避けられない劣化」のことで、これは大家負担が原則です。入居者の過失(たとえばタバコのヤニによる変色や、ペットによるひっかき傷)は入居者負担です。
この区別ができるようになっただけで、退去のやりとりが全然変わりました。
管理会社との会話が変わった
管理会社の担当者が「この修繕は入居者負担です」と言ってきたとき、以前は「そうか」と頷くだけでした。
今は「国交省の原状回復ガイドラインではどう扱いますか?」と確認できます。
管理会社も「このオーナーはちゃんと知識がある」とわかると、説明が丁寧になります。怪しい提案がしにくくなるんですね。知識があるだけで守られるものがある、ということを実感しました。
そして、賃管士を取ったことでもう一つ気づいたことがあります。
税理士は税務のプロですが、経営のプロではありません。
管理のルールは賃管士で学べた。でも、決算書を読んで「この経営は健全か」「次にどう動くべきか」を判断するのは、税理士ではなく自分たちの仕事です。専門家に任せながらも、経営の判断は自分でする。そのためには、お金の流れを読む力も必要だと気づきました。
それが、次に簿記を学ぼうと思った理由の一つです。(そのときの話は「大家が簿記を勉強した理由——決算書が読めると何が変わるか」にまとめています)
宅建・賃管士・簿記の3つがそろって「経営者の目線」になった
私は賃管士→宅建→簿記の順で取得しました。
3つを振り返ってみると、それぞれに役割があります。
- 宅建:契約のルール(取引の入口)
- 賃管士(この記事):管理のルール(運営の日常)
- 簿記:お金の流れ(経営の全体像)
この3つがそろって初めて、「大家として経営を自分でコントロールしている」感覚になりました。どれか一つが欠けていると、専門家に言われるがままになってしまう場面が残ります。
まとめ
賃管士は「大家が取るべき資格」の中でも、即効性が高い資格だと思います。
宅建ほど難しくなく、でも日常の大家業で直接使える知識が詰まっている。大家をやっているなら、できれば宅建より先に取っておきたい資格です。
勉強方法は「みんほし」の教科書と問題集の2冊で独学合格を狙えます。朝の時間をコツコツ続けることで合格できます。
一つ、付け加えておきたいことがあります。
賃管士は年々難易度が上がっていると聞きます。2021年に国家資格になったばかりで、まだ歴史が浅い。今後、宅建士のように独占業務が付与される可能性もあると言われています。独占業務とは、その資格を持っていないとできない仕事のことです。
もしそうなれば、賃貸管理の実務において資格の価値はさらに上がります。
「いつか取ろう」と思っているなら、早めに動いたほうがいい資格だと思います。今の難易度のうちに取っておく、という考え方もあります。
ひとつ、強く思うことがあります。
専門家に任せることと、専門家に頼りきりになることは、まったく違う。
管理会社に管理を任せるのはいい。税理士にお金を任せるのもいい。でも、基礎的な知識を持ったうえで任せるのと、何も知らずに任せるのでは、結果がずいぶん変わります。
知識があれば「それはおかしくないですか?」と言える。おかしな提案を断れる。専門家との会話の質が変わります。
賃管士はその「最初の武器」として、今でも一番使っていると感じる資格です。
著者プロフィール けいすけ / 理学療法士(訪問リハビリ歴10年以上)× 宅地建物取引士 × 賃貸不動産経営管理士 × 大家歴10年以上。医療と不動産、両方の現場から「親の家、どうする?」を考えます。
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