「うちはそんなに財産もないし、遺言書なんて必要ない」
こう思っている方は多いですが、相続でもめるのは資産家だけではありません。むしろ、分けにくい「実家の不動産しかない」という家庭の方が揉めやすいケースが多いのです。
この記事でわかること:
- なぜ財産が少なくても遺言書が必要なのか
- 自筆証書遺言と公正証書遺言の違いと選び方
- 遺言書が難しくてもできる準備
- 「親が元気なうちに」行動しなければいけない理由
大家として複数の不動産を所有し、宅建士(不動産の国家資格)として相続に絡む不動産問題を見てきた立場から、遺言書と相続準備の現実をお伝えします。
この記事を読むことで、「うちには関係ない」と思っていた遺言書の必要性が理解でき、今すぐできる準備の第一歩が明確になります。
なぜ遺言書がないともめるのか
親が亡くなると、遺産の分け方は相続人全員の合意が必要になります。「実家の不動産があるだけ」でも、合意できずに関係が壊れるケースは珍しくありません。
法定相続分(法律で「だいたいこの割合で分けましょう」と決められた目安)はありますが、強制力はなく、全員が納得する形に合意しなければ手続きは進みません。
問題になりやすいパターン:
- きょうだいの間で「介護をした・しなかった」の感情的な対立がある
- 実家に住んでいるきょうだいとそうでないきょうだいで意見が割れる
- 遠方に住むきょうだいが非協力的で話し合いが進まない
- 配偶者(義理の兄弟・姉妹)が口を出してきて話がこじれる
これらは、財産の多い少ないに関係なく起きます。実家という「分割しにくい不動産」があるだけで、相続は複雑になり得ます。
遺言書があると、基本的には遺言書の内容通りに遺産が分配されます。全員の合意がなくても、遺言書に従って手続きが進むため、感情的な対立を避けやすくなります。
「うちは仲が良いから大丈夫」と思っていても、お金が絡むと変わることがあります。遺言書は保険のようなものです。
遺言書の2種類——自筆か公正証書か
確実性を求めるなら公正証書遺言が最善です。費用はかかりますが、紛失・改ざんのリスクがなく、後々のトラブルを最も防ぎやすい形式です。
① 自筆証書遺言
遺言者が全文・日付・氏名を自筆で書いて押印したもの。法改正で財産目録はパソコン作成も可能になりました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 費用 | ほぼかからない |
| 作成の手軽さ | 自分で書けるので手軽 |
| 保管リスク | 紛失・隠蔽・改ざんのリスクがある |
| 法務局への保管制度 | 法務局に預けることで安全に保管できる(手数料3,900円) |
| 検認 | 法務局保管の場合は不要、自宅保管の場合は家庭裁判所の検認が必要 |
② 公正証書遺言
公証役場(法律の書類を作成・保管してくれる公的機関)で公証人が関与して作成する遺言書です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 費用 | 財産額に応じて数万〜数十万円 |
| 確実性 | 最も法的に確実 |
| 証人 | 2人の証人が必要 |
| 保管 | 公証役場に原本保管(紛失・改ざんのリスクなし) |
| 検認 | 不要 |
財産が複数ある場合や、相続人が複数いる場合は、公正証書遺言の方が確実で後々のトラブルを防ぎやすいです。費用はかかりますが、相続でもめた場合の弁護士費用・裁判費用と比べれば安いとも言えます。
「まず始めるなら自筆証書遺言+法務局保管、確実を求めるなら公正証書遺言」が判断の基準です。
遺言書がなくてもできる準備
「親に遺言書を書いてほしい」とは言い出しにくい——そういう場合でも、今すぐできる準備があります。
① エンディングノートを書いてもらう
エンディングノートは法的効力はありませんが、親の意思・希望・財産の場所・保険の情報などをまとめておくことで、いざというときに家族が動きやすくなります。
「万が一のときのために書いておいてほしい」という形で提案すると、遺言書よりも心理的ハードルが低い場合があります。
② 財産の整理・把握をしておく
相続が発生したとき、「何がどこにあるかわからない」という状況がトラブルを招きます。
- 銀行口座・証券口座の一覧
- 不動産の登記情報の確認
- 保険証書の所在
- ローン・借入の有無
これらを一覧にしておくだけで、相続手続きがスムーズになります。
③ 家族で話し合う「きっかけ」を作る
「相続の話をしたい」と正面から切り出すのは難しいですが、ニュースや親戚の話をきっかけにすると入りやすいです。
- 「〇〇さんのところ、相続でもめたらしいね」
- 「最近エンディングノートが話題になってるみたいで、自分も書こうかなと思って」
- 「実家の固定資産税の通知が来たんだけど、将来どうするか聞いておきたくて」
遺言書や家族会議のハードルが高く感じるなら、まずエンディングノートから始めるのが現実的な最初の一歩です。
「親が元気なうちに」が大原則
遺言書の作成や家族会議は、親が判断能力を持っているうちにしか進められません。認知症が進んでからでは遅くなります。
認知症が進むと、遺言書を作成しても法的効力が認められない場合があります。また、「親が意思決定できる状態」であることで、子世代も「親の意思に従う」という形で話を進めやすくなります。
「まだ元気だから大丈夫」と思っているうちに動くことが、結果的に家族全員を守ることになります。
親が元気なうちは「まだ早い」ではなく、「今が動きどき」です。
まとめ
- 遺言書は「資産家だけのもの」ではない。実家の不動産があるだけで十分必要
- 確実性を求めるなら公正証書遺言、まず始めるなら自筆証書遺言+法務局保管
- 遺言書が難しければ、エンディングノート・財産整理・家族の話し合いから始める
- 「親が元気なうちに」が相続準備の鉄則
まずは**「エンディングノートを一緒に書いてみない?」という一言を親にかけるところから**始めてみてください。その会話が、家族全員を守る準備の第一歩になります。
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税務・法律に関する個別の判断は、税理士・弁護士・司法書士などの専門家にご相談ください。
著者プロフィール けいすけ / 理学療法士(訪問リハビリ歴10年以上)× 宅地建物取引士 × 賃貸不動産経営管理士 × 11期目の大家。医療と不動産、両方の現場から「親の家、どうする?」を考えます。
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